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風俗画廊  作者: 南清璽
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歓楽街にて

 何かを感じようとしたのではありません。もちろん何も感じるものでもなかったのです。あの日、日本有数の歓楽街のとある雑居ビルの前にぼんやりと佇んでいました。そうしている折にある女性が「もしよろしければご案内致しましょうか?」と話しかけてきたのです。歳の頃七十ぐらいの方でした。すべてはその女性のこの一言から始まったのです。あの鮮烈な光景は未だ目にやきついたままです。そう激しく焔が燃え上がった。

 私はあの日初めて警察署の留置場で夜を過ごしました。幸い担当の警察官が私の申し上げた内容に矛盾が少ないと感じてくれたことや、そこの冷凍庫に複数の遺体が存在したことを消防署員から通報されたお陰でその画廊の店主に疑惑が懐かれる始末となりました。だから一応は検察官に送致されましたが勾留請求は見送られました。

 実はその日、そこのビルにあるスナックに行こうとしていたのです。なぜなら私が愛してやまない、女優をされていた人がママを務めていたからです。ツィッターでは開店しているとのことで行ったのですが、どうやらそれは昨晩のこととのようでした。もちろん、自己の注意の足りなさに辟易としました。ただ、何かの加減でそこに姿を表さないか、そんな奇跡が起こりはしないかと佇んでいたのです。その方は子どもの時分に熱中した特撮ヒーローの女性隊員を演じてらした方でした。もちろん子どもなりに色香を感じていたのは事実です。でも一方、その方に甘えてみたいという母性を求めたのも確かです。不思議なのは、あの画廊の女にそれを覚えたのです。

 しかし、その番組後は女優としては役に恵まれなかったようです。マニア向けのムック本では必ず取り上げられるキャラクターのでありながら、全くメディアに登場しなくなりました。それに伴いたまに何かの契機で思い出してはネットで検索する具合となりました。ただ、数日前もいつもの様に何気なくそれを試みました。てっきりまた女性隊員の制服姿の写真が先頭を飾ると思っていました。けれどそうではなく、彼女自身のブログのリンクがそこにはありました。そこではスナックを始められたとも叙してらしたのです。

 思えばちょうどいい機会でした。何分オペラのシーズン開幕日の鑑賞に合わせ数日の旅行の日程を組んでいましたから。ただ遠方だけにそうそう来れないのも事実です。それだけにこういった仕儀となったのは心持ちとして残念でありました。もちろんそれは一種の執着であるには違いありません。それ故自分でも度し難いことだったのです。

 そんな折、先ほどの女性が再び私のそばに来たのです。どちらかというと気品のある人でした。卑しさが全く見受けれなかったのです。

「絵がお好きで?」

どうやら私の手荷物がモネ展で買った図録であると気付いたようです。

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