ついているもの
虫が出てきます。
ついているものと言っても、超自然的何かではないことはまず最初に述べておく。
電車に乗っていると、目の前の人の服についているものが気になることがある。特に冬の黒いコートに白いネコの毛。短髪の男性の服に長い髪の毛。放っておけって?その通りである。
長い毛についてはまあ、よかったですねで放置なのだが、ネコの毛は悩む。取るべきか、取らざるべきか。結局は、人目をはばかりつつこっそりと取り、後でゴミ箱に捨てる。特にだれにも感謝されないという無駄な行為だ。
しかし、とってあげた方がよいかどうか悩むものもある。
ある日、電車の中でふと前の人の肩を見ると、クモがいた。小さいが存在感のあるヤツだ。さて困った。つまむわけにはいかない。払い落としたら誰かについてしまうだろう。周りの人も気づいて、その人の肩に視線が集まり、あまつさえ距離をとろうとしている人もいる。だからといって、「クモが肩にいますよ」などと言えるわけがない。
もうすぐ降りる駅だ。
これはもう、放っておこう。そう思ったら、その女性も同じ駅で降りた。階段を登っても、改札を出てもクモから目が離せない。今払い落としたら、雑踏でクモが踏まれてしまうではないか。
結局、駅の外に出て、緑がある側で、すみません!と声をかけつつクモを払い落とした。
「蚊がついていましたよ」
とにっこり嘘をついて急いで離れた。蚊なら、いやな気持ちも少ないだろう。クモはうまく緑の上に落ちただろうか。
人についているものって、困りますよね。