表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
通勤電車でひとりごと  作者: カヤ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/6

親切はよく考えて

鼻血などの表現があります。

通勤帰りの夕方、5時を過ぎたばかりの電車は立っている人もいるが、比較的すいている。そんな時間に帰れた私は、ちょっとウキウキしていた。つり革につかまり、ふと前を見ると、なんということでしょう。目の前に座っている青年が鼻血を出しているではないですか。


若気の何とかではない。少し腫れたほほ、涙目、鼻水混じりの鼻血、これはけんかかトラブルに巻き込まれ(やはり若気の至りか)たのに違いない。それはいい。いやよくないが、問題なのは、どうやらその人はハンカチやティッシュを持っていないらしく、手で押さえている。ああ、床に血が……


私は急いでカバンを探した。タオルハンカチ……だめだ、これ渡したらたぶん遠慮するし、相手が気疲れしちゃう。けしてシワシワだからとかお気に入りだからではない。アレだ、もらったティッシュ、あった!ピリッとな。取りやすいように1枚出してと。


「あの、コレ、よかったら……」

小さい声で渡した。


「あ、ありがとうございます」


青年はティッシュをありがたく受け取ってくれた。よかった、少しは役にたったかな。


その瞬間だった。私は目を疑った。空を飛ぶティッシュの嵐!青年めがけて、電車のあちこちから善意のティッシュが飛んできたのだ。いや、手渡ししようよ、投げないでさ。


私は邪魔にならないよう、さり気なく横にずれていった。けして他人のフリをしたわけではない。他人だけれども。青年は、誰にともなく


「ありがとうございます」


と頭を下げてティッシュを拾い、顔を拭き、床まで拭いていた。いい子だ。


と、次の駅に電車が止まった。プシュー。


「具合の悪い方はどちらですかー」


駅員さんが2人、車椅子を押してやってきた。ほう、具合の悪い人ね。どこだろう。私はキョロキョロした。男の人が元気に近づいてきた。


「この人です。さっきから鼻血を出していて」


青年の事かい!いや、ケガして鼻血出てるだけだと思うんだけどな……


「ええ?いや、オレ別に、次の駅で下りる予定で、大丈夫ですから」

「いやいや何かあると大変ですから。どうぞ」

「いや、あの」

「念のためですから」

「……はい」


青年は車椅子にのせられると、うつむいてドナドナされて行った。駅員を呼んだ男の人は、ひと仕事したという充実感に満ちあふれていた。電車内もホッとした空気に包まれている。


私はひたすら下を向き、


「ごめん、ごめんよ、見ないふりしてあげればよかったね」


と心の中で青年に謝るのであった。


親切は、よく考えて行っても親切にならないこともあるのだ。ホントにごめん。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ