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高校航空隊!  作者: 馬汁
4/9

第3話 撃破王!

今回はゲーム回です。

と言っても、作品の中の世界では一分に満たないぐらいの戦闘しかないのですが…。

まあ、楽しんで頂ければと。


「っはあ…」


疲れた。

月曜日だというのに、早速厄介ごとがやってきたのだ。


その所為で、案内するために電車に乗ってPZ4とゲームソフトを購入することとなった。

いや、それだけ説明しては疑問が募るだろう。

勿論それぐらい一人で行けるだろうと思ったのだが…。


『最後まで案内して』


簡単に言えば、大体こんな事を言われてしまったのだ。


「…はあ。」


結局、本当に案内することになった。

今はそれを終えて、家のベッドに倒れている所だ。



「…通知4つ」


帰宅途中、幾つかポケットが震えるのを感じていた。

通知を抱えていたのは、PZ4のアシスタントアプリだった。

そこに幾つかチャットが送られていたらしい。


まず、このチャットの送り主はすべて同じ人物、その名は『トラ』だ。

と言っても、ユーザーネームにすると少し違う。


Tiger_107:〈教えてくれてありがとう〉

Tiger_107:〈これどうやって操作するの?〉

Tiger_107:〈てつどう〉

Tiger_107:〈徹三はやく返事〉


…はあ、面倒な。

結局、彼女はPZ4とWWSのソフトを購入することになったのだが、この様子を見ると、WWSの案内と言う役目を続けなければいけないような気がした。

もうこれで沢山だっていうのに


Mayfry:〈チュートリアルでもやってろ〉


最終手段、丸投げである。

俺だって戦闘機乗りの新兵に飛び方を教える教官では無いのだ。


「本当に…疲れた」


操縦席の中を再現し、実際のものと同じような操作が可能な『フライトフルコントローラ』に座り込む。


毎日数時間はこの操縦席に座っている。

それゆえ、安心感と言うべきそれを味わう事が出来る。


「……はあ」


本日三回目の溜息ではあるが、今までの溜息とは違い、そこにイラ立ちは全くなかった。


「さて…と」


PZ4を起動し、何時もの手慣れた動作でゲームを始める。

そこには見慣れた機体、零式戦闘機三二型が映っていた。


うん、なじみの愛機だ。


System:〈Dragonfryから分隊へ招待されています〉


うん、なじみの相棒だ。

欠伸をすることで一泊置き、”はい”を選択する。


そうすると一度暗転し、元いたところとは違う格納庫にゼロが運ばれていくシーンへ移る。

整備員と共に機体が運ばれて、目の前のゲートが開き始める。

その中に見えるのは、その機体の翼部分には人影がぽつんと乗っかっていた。


格納庫へゆっくりと入場してくる愛機に付いて行くと、今度は最初から中に居た人影を見る。


Dragonfry:〈今日は随分と遅かったね〉

Mayfry:〈新米のチュートリアルをやってたところだ〉

Dragonfry:〈おお、仲間が増えるのかな?〉

Mayfry:〈あいつは戦車乗りになるつもりみたいだけどな〉


キーボードを打ちながら考えてみる。

俺らの仲間入りするとすれば、それこそ戦車が空を飛ぶなりしなければ行かないだろう。

ドイツ辺りでそんな物が開発されてたとかいう話があるが…まあ、実際に戦車が空飛ばれても特に困らないな。

明らかに機動力が無さそうなんだし。


Dragonfry:〈へえ、残念…。私はカゲローと一緒に飛べればいいんだけどね!〉

Mayfry:〈ありがたい言葉だが、恋人枠はゼロで埋まってるんだ〉


愛人と言うか、愛機と言うべきか?

別に人でもいいのだが…。


Dragonfry:〈悲しい恋の三角関係…? 抵抗手段は、修理費の援助を断つ事のみか…!〉

Mayfry:〈…例え援助が断たれても、俺の恋は断たれないぞ!〉


と、何か妙なノリに成り始めるが、別に酒を含んだわけではない。

長い付き合いになる内に、このようなノリが定例行事になってしまったのだ。


不思議なことに、この状態となるとキーボードを打つ手が加速するのだ。

RPGかMMOで言う、特定条件下のバフみたいなものかもしれない。

にしても奇妙なバフスキルだな。


Dragonfry:〈…うん、相変わらずで安心した。それじゃ、今日も行こうか〉

Mayfry:〈へいっと、今日はどうするんだ?〉

Dragonfry:〈今日は屠龍にでも乗ろうかな〉


屠龍、別名はキ45だ。そいつは確か日本の双発機で、大抵36ミリの大口径砲が乗っかっている。

敵機に当たれば…ドーン。良くて翼をもぎ取られる程度の威力だ。


Mayfry:〈どの機体でもでっかい戦果を出せるもんな。羨ましいよ〉

Dragonfry:〈ちょっと勘が良いだけだよー〉


なるほど、天才は言う事が違うな。

そう会話した後、マッチングを始める。


始まりと同時、ヘッドマウントディスプレイを被ると、気合を入れるために深呼吸した。










「…マイクテスト、聞こえるか?」


エンジン音が響く中、通信機に向かってそう言う。


〈聞こえるよー〉


視界の隅にテキストチャットが出てくる。

彼女はボイスチャットではなく、文字を打って意思疎通をしている。


面倒ではあるが、必要な時はマクロを使って迅速なチャットを可能にしているらしい。


「相変わらず面倒そうだな」

〈親と同じ部屋だからね〉

「仕方ないだろうな」


後ろを見れば、トンボが二つのエンジンを鳴らして飛んでいた。

まだ戦闘中ではないから風防を開けているが、耳に届く轟音が五月蝿い。


五月蝿いのになぜ開けているかって言われれば、視界が良いからと答えるだろう。

戦闘する前とは言え、先手を取るために索敵を怠らないのは大事なことだ。


双発機は比較的視界が悪いため、俺が先行する形となっている。


時々機体を上下逆にさせて、俺たちの下の方も警戒する。


〈背面飛行でも安定してるなあ〉

「まあ、これぐらいはな…」


因みに他のチームメイトと言うと、全員思い思いの所へ散らばっている。

皆の行動や作戦を知らなければ、名前も覚えるに足らない。


要するに野良である。


マトモに作戦があるのは、こうして分隊を組んでいる人間だけだろう。

因みに、戦闘機同士では9対9での対決である。


「と、見えたぞ。3機か?」

〈私には4機に見えるんだけど〉

「…ああ、ほんとだ」


周囲を見渡す。

同じ方向へ進んでいる仲間は…居ない、俺らだけみたいだ。


〈2対4?〉

「あいつ等の一部が爆撃機かなんかだと助かるが…ううむ」


空の向こう側に見える、小さな影をよく見る。

じっと見て、集中して、ようやく見分けがついた。


「全部単発機…だな」

〈戦闘機だねえ〉


これはピンチじゃないか…、幾らエースが居るとは言え、仲間の居るところに引き返した方が得策だろう。

あの大群にツッコんでも駄目だろう。


それにだ、今更だが気付いたことがある。


「あいつ等、4人分隊だ」


TABキーを押して開かれる、マッチングした人たちのユーザーネーム。

敵側にある名簿に、☆のマークが付いた者が4人居た。


〈あ、やっと気づいた? 恐らくあれは、野良の4人組じゃなくて、連携のとれた4人組。危険だね〉

「ああ、戻るぞ」


そう言うと、チャットを使って味方に敵の位置を伝える。

こっちの方は声ではなく、文字を打った方が良いだろう。


手探りでキーボードを探し、見つけると文字を打ち始める。

この頭に乗っかったヴァーチャル装置の所為で、キーボードはまともに見えるわけじゃない。

しかし、俺だってPCの扱いに慣れた人間である。


カチャカチャと手を動かした後、エンターキーを強く押す。

これで味方に情報が渡ったはずだ。


〈じゃー私はちょっと行ってくる〉


自然に放たれるトンボの発言に、一瞬で理解することはできなかった。

理解した頃には、自然とこの言葉が出た。


「一騎当千でもやるつもりか? 幾らエースでも…無理だろ」

〈幾らなんでも全滅させる気はないよー〉


そう言われれば、割と現実味がある気がするが…。

それでも危険性が高い。


「それでも危ないんじゃ…」

〈ちょっと援軍が来るまで時間稼ぎするだけだってば〉


…そう言われて、どうも止める気になれなかった。


「…ああもういいや。ゲームだし、落ちても死ぬわけじゃない。 付き合うぞ」

〈告白かな?〉

「二股するつもりなんざ無いよ…。せめて高度を取ろうか」


そう言って操縦桿を少し手前に引き、上を向いて上昇し始める。

同時、索敵の為に速度を合わせる必要が無くなったため、エンジンパワーを持った屠龍が前に出てくる。


〈二番機前進! ちょっと暴れてくるねー〉

「…せめて二人同時に行かないか」

〈ダジョウブ! 後部銃座もあるんだから!〉


何を言おうと、前に出る屠龍は全く止まらさそうだ。


まあ、確かにエースはエースだ。それに彼女の言う通り、屠龍には後部銃座がある。

あれが有れば、後ろに敵機が付いていても銃手が撃ち落とそうとしてくれる。

落とすには威力が足りない気がするのだが…。


思えば、トンボが珍しく落ちる、という場面を見たことが無い。

あったとすれば、爆撃機の防護機銃を撃ち落とされる場面ぐらいだろうか。

記憶違いかもしれないが…まあいい。


話を戻して、今は小さく見えた敵影もそれなりに近くなったようだ。

あ、不味い。こっち向いてる、完全にヘッドオンに入ろうとしている。


「会敵」


そう言いながら風防を閉め、目の前の敵に備えようとする。

…ああだめだ、前に出るトンボが心配で仕方ない。


無用な心配なのかも知れないが…。


「…あ」


心配していると、あの大口径砲が火を噴くのを視界の隅に捉えた。

まだ距離は1キロメートル以上は空いているというのに射撃し始めた。


いや、射撃を始めるというのはやや不適切だろうか。

適切な表現をするならば、一発撃ったと言えば正しいか?


屠龍が持つ36mmは戦闘機に当たれば爆発四散。飛行を続けることはまず不可能だ。


確かに当たれば強い。しかし、距離が離れるほど砲弾が勢いを失い、最終的に落下していく。

当てれば強いが、当てるのは難しい。


それなのに、彼女は一発だけ撃った。そして機首の向きを変える。

次の標的に射線を合わせるためだ。


幾らエースでも当たらないんじゃないかと思っていた。

しかし俺は、彼女を甘く見ていたようだった。


『―――』


視界の遠く、機影の一つが文字通りバラバラになった。

一瞬で翼が形を崩し、破片と言う破片がボロボロと飛んで行ったのだ。


「当たった…?」


敵が自爆スイッチを押したわけでもあるまい。

彼女の撃った36㎜は当たったのだ。


「…」


唖然とした。

次の瞬間、こんどはチャットログに彼女の言葉が現れる。


〈エンゲージ〉


彼女のマクロを切欠に、驚きで満ちていた意識を元に戻す。

前方を見ると、今にも撃ちそうな勢いでこっちに向かってくる敵機が居た。


「交戦!」


取り戻した意識を、さらに引き締めるために声を出す。


このヘッドオンには、ゼロ戦ならではの定石がある。

その定石の第一手を指すために、まずはゆっくり左に旋回させる。


「すー…」


大きく息を吸い、これからの機動に備える。


敵機をじっと見つめると、方向転換した俺に射線を合わせようと、こちらに向きを合わせている。

俺の機体に弾を当てようと、俺の進行方向上に射線を合わせているのだ。


その瞬間を見て、次の機動に入る。


左にずらした機体を、急激に右旋回させる。

そうすることで敵の射線を回避、同時に敵機が横切る時の風切り音が聞こえる。


通り過ぎたな。


そうすると旋回を止め、右に傾いていた機体を戻す。

その最中に、一瞬だけ後ろを見る。


「…よし」


確認した、俺の後ろを取ろうとして、完全に旋回戦の体勢に入ったのだ。

御存じのとおり、俺の愛機であるゼロは旋回戦で右に出る機体は殆ど無い。


だから…アイツはゼロの土俵に入ってしまったのだ。


俺もまた敵の後ろを追う為に、旋回をすぐに始める。

さあ、物騒な踊りを始めましょうか。


〈敵機撃墜!〉


それと同時、トンボの方で一機撃墜した報告がログにでる。

しかしそれを気に留めず、旋回戦を始める。


横を向いた状態で操縦桿を強く引きながら、体勢を崩さないように微調整する。

そうするとすぐに視界から色が失われ始める。


グレイアウトだ。


それでも敵機を見失う事はせず、あいつの背中を追い続ける。

それをしばらく続け、順調に敵の後ろへと近づいたころ…。


『ズガン!』


ふと、トンボの大口径砲であろう銃声が小さく聞こえた。

同時に、見捉えていた敵機が爆発した。


「な…?」


突然の爆発。

驚いて辺りを見渡すと、トンボがこっちに来ていた。

それと同時、彼女が乗る屠龍を追う敵機を見つける。


〈後ろを取られてる!〉

〈後ろを取られてる!〉

〈後ろを取られてる!〉

〈後ろを取られてる!〉


「やかまし!わかってるよ!」


マクロを連打するトンボに返事を返す。


獲物を取られてくやしいが、それはどうでもいい。

確かにアイツの後ろに敵機が付いていて、屠龍に向けて弾丸を飛ばしていた。


射撃を受ける屠龍も無抵抗ではなく、後部銃座に居る銃手が打ち返している。

しかし、あの銃一丁だけでは威力が少ない。


彼女自身も直線で逃げるわけではなく、あらゆる動作で敵の攻撃を回避している。

その動作は熟練されているのか、殆ど当たる気配が無いように思えた。


トンボも敵に後ろを取られることもあるんだな?


そんな事を口には出さずに心に留めると、彼女の動きに合わせ、下を潜り抜けるようにして回り込む。

ロー・ヨー・ヨーの領域だ。

それで屠龍の後ろに向かうと、敵機を見捉えた。


目の前の彼女のケツを狙うのに夢中な変態は、回り込んでくる俺に気付いていない様だ。


「あと少し」


引き続き急激な動きをした所為か、さらに視界から色が失われる。

その視界で何とか敵機を見捉え、射線を合わせようと機体を操る。


それと同時か、後部機銃を操る銃手が攻撃の手を止めた。

フレンドリーファイアを恐れたのか、撃たなくても落としてくれると信頼されてるのか。


「もうちょっとだ…」


それなら、その信頼に応えよう。

揺れる機体を抑える、慎重に狙いを定める。


…当てれる、が射線上には屠龍も一緒にいる。

このままじゃ撃てない…!


「…っ!」


そんな俺を察したのか、テレパシーでも覚醒したのか、トンボが横旋回を始める。

そうすると、俺の射線上には敵機だけが残った。


『ズガガガ…』


チャンス、無意識にトリガーを引いて攻撃を始める。

しかし敵は旋回した屠龍を追い、また旋回し始めた。


俺の撃った弾丸は何もできず、彼方へと飛んで行く。

それを見て射撃を止めると、俺もその敵機を追う為に旋回する。


大丈夫だ、俺の方が旋回能力が良い。

直ぐに射線上に敵機が被り、二回目のチャンスが訪れる。

もう一度だ!


『ズガガッ…』


当たると同時、敵の右翼に大きな穴を開け、そこから黒煙を漏らすのを確認した。

制御を失ったのか、回転しながら落ちていき……そこから敵のパイロットが飛び出て、パラシュートが開かれるのを確認した。


「撃墜」

〈ナイス!〉

〈ナイス!〉

〈ナイス!〉

「だから何回もやんなくていいって!」


そんなツッコミを最後に、この交戦は圧勝で終わった。


〈フフー。私の方で三機落としたから、この分隊は全滅したね〉

「ああうん…。全滅したな、数十秒で」


最中は集中していたおかげで、時間の感覚がよく解らなくなっている。

もしかしたら一分かそのあたりかもしれない。


「…2対4だったんだよな?」

〈うん。ヘッドオンで二つ落としたから、実質2対2だったけどね〉

「ああ、うん。という事は、この戦いはほぼ互角だった…のか?」

〈私を三人分の戦力で数えるなら、互角なのかもね!〉


…相変わらず撃破王だな。


〈wht?〉

〈WTF〉


既に落ちていった敵達の全体チャットが、この交戦の異常さを物語っていた。








作戦が終わり、滑走路に足を下した頃には機体がボロボロになっていた。


「…」

〈よっ、ただいま! 相変わらずだね〉

「何時俺は攻撃を受けたんだ?」

〈へ?〉


幾ら俺が攻撃を受けるシーンが無かったからと言って、これは無いんじゃなかろうか。

撃破王、強いです。

主人公、不幸です。

今回無傷で戻ってきたら、ボロ飛行士の名が廃るじゃないですか。


あ、今回の専門用語はこちらになります。


グレイアウト・・・なんらかを理由に目に血液が届かなくなり、視界から色を失い、暗くなっている状態の事を言う。

主に航空機に乗る操縦士がこの症状を起こす。

以前説明したレッドアウトとは違い、マイナスGではなくプラスG方向に動く時に起きる。


追記・今回でたまってた分は出し切った形になります。

なので、今後はかなりペースが落ちます。あしからず。

追記・素でfryとflyを間違えてたので、修正しました。

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