第2話 高校生!
学生たちの平和な日常です、空中戦のくの字もありません。
恐らく、ゲームパートと学校パートが交互に来るような流れになるかと思います。
しかし、ほんのちょっとだけ兵器の話が出てきます。
それ以外は純粋(不純物20%)な学生たちの日常なので、それでよければお楽しみください。
「ふぁ…」
もうすぐ朝のホームルーム、中央の一番後ろで欠伸を小さく。
それも小さく、まるで蚊の声のように。
そんな小さな欠伸は誰の耳にも届かない…。
「徹三~。 また夜遅くまで起きてたのか?」
いや、届いた。
この人の名はなんだったか…確か友一と言ったか。
なるほど、在り来たりな名前だな。
「ああ、12時まで起きていた」
「おっまえ……と、そんな事よりさ!」
会話を始めようとする様子だが、呆れた顔をしながら時計を見つめる。
あと二分前、針のズレを考えれば数十秒ぐらいで鳴るだろうか。
ようやく騒ぎが収まりはじめ、クラスメイトの大半が席につく。
「土曜日にあったろ、アップデート! アレだよ、アレアレ!」
「…もうすぐか」
時計を見ながらつぶやくが、目の前の人間はこの場を離れる気配さえしない。
周囲の様子を気にせず会話を続ける彼は、見方次第で哀れに見える。
「…なるほど」
なにか納得するようにして、目線を横の友人に合わせる。
土曜日のアップデート内容には、二つの前翼機…またはエンテ型の二機が追加されたと記憶にある。
一つは、マトモに空を飛ぶ事が出来ずに終戦を迎えた震電。
二つ目は、普通に安定性が無くて開発中止となった…だっけか?
そいつの名前はなんだったか。
「あー、あれか。米製震電」
「ちげえわ! XP-55! アセンダー!」
「どっちでもいい。時間だ」
『キーン、コーン、カーン…』
そう言った直後だったか、チャイムが鳴り始めた。
それと同時、前のドアからガラガラと音がして、先生が入場する。
「おおっ、相変わらずすっげえピッタリですね!」
教室の誰か、少なくとも友一ではない誰かが、時計先生の正確っぷりを称える。
「時計先生、6日連続ですね!」
「フフー。…と、友一くん、時間だぞ」
「っと、すいません」
そう言って、あっさりと俺の机の近くから退いていく。
ありがたい、月曜日の最初の幸運と言ったところか。
相変わらずだが、時計先生はホームルームに一分たりとも遅れたことが無い。
だからと言って数分前に来ているわけでもなく、ただ時間ピッタリに来ているのだ。
素直に凄い、普通に凄い。
「それじゃ、出席取るぞー」
そうして、1番から出席が取られていく。
このとき初めて気づいたが、一人欠席しているようだった。
そうして留年へと一歩進む者へと、哀れみの念を送る。
どんまい、どうでもいいけど。
まあ一日休んでも問題ないし。
「17番、徹三」
「はい」
さて…一時間目は―――
『キーン、コーン…』
「ん、もう終わりか。それじゃあ、このプリントが終わらなかった人は宿題、次回に提出するように。変な事して飯をプリントにこぼしたりすんなよー」
……とは言え、俺の方はプリント終わったから宿題は無いな。
さて、もう昼休みか。
「っ…ふぁー」
「朝は眠そうな癖に、授業中はねないんだな?」
「…ああ」
疲れからだろうか、不愛想な返事をしながらカバンの中を漁る。
そして中からお握りとサンドイッチを取り出す。
「…また俺の机で食うのか」
「良いだろー?」
対して友一も、同じようにして食べ物を取り出す。
…しかしそれは俺と同じようなコンビニ物ではなかった。
そう、あれは紛れもなく弁当だ。
決して容器は使い捨てではなく、中身だってコンビニの匂いが一切しないような、そんな手作りオーラが窺える。
「どうだ? 朝に貰った恋人弁当だぜ」
…頭の中に居る恋人だろうか?
と、行かん。俺はそんなに意地悪な性格ではないが…、そんなことを言う程無情ではないはずだ。恐らく。
「そんな変な目で見るな。嫉妬か哀れみなのかよく解んないぞー」
「自分で言うのもなんだとは思うが、感情が表に出ることは少ないと思うぞ」
「見た目はな。だが俺たちは心でつながふがっ!」
無言で辛口明太子のお握りを押し込む。
「もごもご……っ殻!」
「殻がどうした」
「辛いんだよ!」
「それは良かった」
辛口と言う字を見逃して、ついさっき気付いた辛口明太子。
まさかこんなところで役に立つとは思わなかった。
「からから~…」
「何やってるの…」
聞き慣れない声に、自然と顔が向く。
ああ、クラスメイトの一人か。しかし名前は覚えていない。
「知らん」
「ああそう」
「もごもご、男子トークってところだゼ!」
バカげた発言を横耳にしながら、当然かのように近くの椅子を持ってきて…、この机に座った。
そうした行動に疑惑の目線を向ける。
「女子の輪のあぶれ者」
「輪?」
その言葉が差すのは向こうの集まりか。
若干遠いが、それでも話し声が聞こえてくる。
「マウスってかわいーよね!」
「マウスよりスチュアートでしょ!」
「いやいやKVの…」
…戦車?
「ああ、戦車ガールズか。確かに普通の女には入りずらいよなあ」
「戦車ガールと言えば私もその一人だけど」
「んあ、なんか悪いのか?」
「話に出てくる戦車が古臭い」
古臭い?
無言で二人の話を聞いているが、古臭いという言葉に疑問を持った。
「古臭い?」
「ええ、臭い」
「それだけだとなんか違えなあ…」
…2人の会話をただ聞いていて、事情を察することができた。
彼女はWWS関係なく戦車を好み、しかしWWSを通じて戦車に興味を持った者とは相性が合わない。
そんなWWSは大戦中の兵器を扱っている。
もう少し簡単に言うならば…彼女は新品戦車ガールで、WWSの中古戦車ガールとは噛みあわない。
…口に出さなくて良かった、例えが悪かった気がする。
「お前もさ、WWSをやればいいんじゃないか?」
「WWS?」
「世界大戦の兵器が出るゲーム。あの戦車ガールズはそのゲームでの戦車トークをしてるんだと思う」
…お握りが一つ、友一の口に消えていってしまったから物足りない。
購買で何か買おうか。
「ああ、世界大戦。道理で古いと」
「知らなかったのか?」
「CMで知ってたんだけどね、あの妙に手抜きっぽいCM」
「あれはあれで良いと思うんだけど…どうだと思う?徹三」
……友一と女性が気付いたころには、徹三はビニール袋を残して席を立っていた。
「何処行った?」
「どうせ購買に腹の足しになるのを探してるんだろうけど…、相変わらず気まぐれなもんだ」
「そ」
気まぐれな猫のように去っていった徹三を待つことはせず、友一は気にしない様子で会話を続けるようだ。
「あ、でもそうすると男女二人か。困ったな、こういう所見られると彼女が怒るんだわ」
「そう」
何をするつもりなのか、立ち上がると座っていた椅子を元の所に戻し、
「邪魔したね」
「おう? ああ、気を使ってくれたのか、ゴメ」
その言葉を気に留めず、さっさとドアを通って行った。
行く先は購買の方、つい先ほど徹三が行った所だ。
「…青春の気配だな。 これは尾行するべき!」
その微妙な独り言は、友一以外の耳には届かなかっただろう。多分
・
・
・
「見つけた」
「…さっきの」
あの現代戦車ガールだ。
彼女は此処で昼食を揃えるのだろうか?
「暇だからね、話し相手になってもらうから」
「俺が?」
「ええ」
俺と話したがる人間だなんて、友一だけだと思っていたが…。
珍しいものだ。ツチノコの生息数と同じぐらいは居るんじゃないだろうか。
とはいえ、UMAを捕獲したという訳にも行かない。
「悪いが、ガールズトークは無理だ」
「求めてない」
「じゃあ一目惚れか」
「何を言っているの?」
真顔で爆弾発言をする俺に、呆れるような顔を…しない。
どうやらお互いポーカーフェイスだったようだ。笑える絵だ。
「テツ! 俺を差し置いてなーに口説いてんだよ!」
突然声が聞こえたと思えば、何故か友一がこっちに来ていた。
ここまで客が多いと、今日の購買は儲かるかもしれないな。
「お前も来たのか。なんだ?その呼び名は」
「第二の戦車ガールの輪が俺らのあだ名決めをしてたんだぜ」
…戦車はどこに行った?
「戦車どこ行った。と言うか第二って何?」
「二年生だったから」
「なんにそれ…」
面倒なツッコミを代弁する彼女に感謝、そういえば名前を知らなかったか。
だがそんな疑問も、狙ったかのようにして友一がすぐさま解決する。
「因みにお前はトラな」
「なぜそうなった」
「あだ名決めが長引いた所為で飽きたみたいだぜ。なんでも、一年生全員のあだ名を決めようとしたとか」
「なるほど」
納得の声を上げて、頷く。
そりゃ一年生全員のあだ名決めなんて面倒だろう。
よく続けられたものだ。
「すごいけど納得できるか!」
頷く俺に反して、トラは迷惑にならない程度に怒鳴る。
まあ良いんじゃないだろうか、このあだ名でも。
「ったく…じゃあアンタはどうなの」
「…爆弾」
「なるほど」
わざわざトーンを落として伝える姿に、空の餌入れを眺める猫に似た雰囲気を感じた。
…自分で思うのもなんだが、言い得て妙だ。
「オレのあだ名は置いといて、トラちゃんは購買に来たのに買わないのか?」
「ざま…んや、私は元々テ…『ゾウ』に用事があったから」
「…誰の事だ?」
察しながらも、足掻く。
いや、おかしい、”テツ”はともかく”ゾウ”はおかしい。
あだ名だからそういうのもあり得るだろうが、おかしい。
「青春の匂いがするねえ」
「っはあ…、で、俺への用事って?」
呆れ半分か、もしくは呆れ四分の三か。
マトモな意見を望みながら訊いてみる。
「うん。確か…そうだ、私にWWSデビューをちょっとばかり」
「デビュー?」
と言う事は、ゲームを買いたいという事か?
しかし、ゲームを一個買う為だけに助っ人を求めるとはどういう事だろうか。
お金をくれとかいう訳でもなかろう。
…ないよな?
「あ、此処からは二人の話だから」
「へいへい、楽しめよう」
「後で落とす」
あの態度がなんだかイラっと来て、冗談半分に言う。
何を落とすのかは言わない。言わないことで脅迫としての効果が高まる。
「へいへい」
…しかし効果はなさそうだ。
確かに友一はそんな性格だったな。
「で、WWSか。助っ人が必要なのはどういうことだ?」
「機械やゲームに関しては鈍くさい、訳解らん、援助を求む」
「はあ…?」
何か台本でも読み上げてるかのように、声調も意思も真っすぐとなっていた。
唯一、その目線はぽっきりと折り曲がっており、その先は彼女が持つ紙片だった。
なるほど、大根か。
その事が分かった上で、幾つか疑問をぶつけてやる。
「なんで俺が?」
「運命を感じた」
「その紙は何だ?」
「台本」
「なるほど」
その台本を書いた奴に問い詰めたい。
もし出会えたならば、”表に出ろ”という言葉が真っ先に出るだろう。
「筆者は?」
「私」
「よくわかった、表に出ようか」
「外は雨」
「…なるほど」
ものすごく変な人間だという事が、よーく分かった。
関わらない方が良いかもしれない。
「どこの誰だかは知らないが、他の優しそうな人が居るんじゃないか? 購買のおっさんとか」
「それじゃあ購買で売ってるの、何か奢るから教えて」
「…何が何でも俺に教わりたいんだな」
否定の意思を伝えても、彼女の意思の方が打ち勝っているように思えて、面倒だと感じた。
「因みに3ケタ以内で」
「…」
一考。
3ケタ以内。それで何を奢ってもらうか?
…というか、女子から奢ってもらうのは男としてどうかと言われそうだ。
俺のプライドに障る事にはならないだろうけど。
…まあ、そうだな。
「解った、教える。その代わりホッチキスの芯を奢れ。丁度足りないんだ」
「うん、ありがとう」
…まあ、ホッチキスの芯と引き換えに案内するだけだと思えばいい。
そうだ、うん。これでいい。
「まずは…パソコン版が良いか? PZ4?」
「何が違うの?」
……1から教えるのか?
「…はあ」
面倒な…。
今教えるにしては手間がかかりすぎるし…。
……どうやったって時間がかかるか、今は無理だ。
「…説明には時間がかかるから、放課後にでも説明する」
時計を見ながら、問題を先延ばしにするのが精いっぱいだった。
御感想、御指摘、是非書いてくださるとありがたいです。
次回は…すこし時間がかかりそうな気配がします。
改訂・あだ名のくだりに不自然な点があるのに気付いたので、修正しました。
改訂2・一部、主人公の名前が初期構想時の物になっていたので、修正しました。 申し訳ないです