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001

屋上に続く扉は鍵が掛かっていて、頑丈に施錠されているのは、僕の学校も例外では無かった。

 言わずもがな、理由は危険というごく一般的な理由で、自殺をする生徒を未然に防ぐため――なのだが、戌亥高等学校いぬいこうとうがっこうにはもう一つ、事情があった。

 とはいえ、そこまで深刻な事情というわけではない。これも一般的なありふれたものである。

 過去に――といっても、すでに五十年も前の話になるのだが、男子生徒四名が屋上でじゃれあっていて、その内の一人がこれもまた軽い気持ちで、もう一人の男子の肩を押したのだった。その押した力がどれくらいだったのか、僕は知らない。だけどそれなりに強かったのは確かだ――それほど仲が良かったグループであったのなら、大笑いする際に友達の肩を叩くことなんてよくあることだ。

 とにかく、その弾みでバランスを崩した一人が屋上から落ちたのである。

 転落死。

 たった三文字で片付けてしまうのはいかがなものかと思うが、ともあれ転落死である。

 些細なことが事件に成り替わるとはこのことを言うのだろう、僕はそんな感想を抱いた。

 死んでしまった男子生徒は気の毒だっただろうとか、その場にいた残りの三人はさぞかし死亡した男子の両親に責められたのだろうとか、そんなことも考えたりもしたが、そこまで干渉はしなかった。

 過去だから。無関係だから。所詮は他人だから。

 おおむね、そんな理由だった。

 これが数年前の話だったり、あるいはぼくの身近な、たとえば親戚であった話だったなら、もっと干渉していたのかもしれない。

 けれど僕には悲しいかな、友達と言える人物はそう多くなかった。いや、居るには居るのだが、グループと形容するほどではない。なぜなら、僕らは何の共通点もないけれど、ただ気がついたら一緒にいて、それがずっと続いているだけなのだから。

 そのうえ彼らは彼らで、別のグループに所属しているから、やはり僕らをグループとして纏めるのはどうかと思う。

 狭い人間関係しか築き上げられなかった僕が、そんな目に遭うはずもない――きっとそれを聞かされた当時のぼくは、そう考えただろう。

 今でさえその考えを持っているのだから、そうでなくてはならないだろう。

 閑話休題。冒頭まで戻る。

 こんな最初から話が逸れるなど語り部としてどうなんだと言及されそうではあるが、そこは目を瞑って欲しい。学生なのだから、という言い訳をするつもりは毛頭無いが、こればかりは仕方ないと諦めてはくれないだろうか。いや、こうやって謝ったところで、これからこの癖が無くなるのかと問われてはそんなことはないと言うまでなのだが……。

 ともあれ、屋上である。いつも通りに教室を出たあとは、いつも通りに階段をおりず、逆にのぼったのだ。二階から一階へ、ではなく、二階から三階、四階――そして屋上へ。

 別段、その日が僕にとって特別だったというわけじゃなかった。たまたま十月二十五日の月曜日だっただけであり、それだけでしかない。

 意味なんて、元から無いのだ。

 ただ、目的地である屋上に用があったのは確かだった。

 いや、用があったというのは語弊が生じる。その先に誰かを待たせているわけではない――自分が利用するだけなのだ。

 何に利用するのか?

 そんなのは一つしかない。

 僕は今から、自殺をしに行くのだ。

 命を絶ちに行くのだ。

 しかし、ここで誤解をしないで欲しい。僕が本当はいじめられっ子で、滅茶苦茶な人生を投げ飛ばしたくなった――そんなことは決してないのだ。

 理由は……まあ、ないのだが。何となく人生がつまらなく感じて、もしかしたら次の人生は楽しいものかもしれないと思い込んで、いつか試してみようと数日前から考えていて、たまたま生徒会が遅くなったから、丁度いいやという軽い気持ちで屋上へ行くことにした。

 数少ない友達がそれを聞くと、呆れた顔で溜め息をつくだろうし、また別の友達に聞けば怒りのあまり顔が真っ赤になり容赦なく頬を平手打ちしてくるだろう。だけど、そんな彼らの姿を僕が見ることは二度とやって来ないだろう。その時は死んでいるのだから、尚更と言えた。

 階段を全てのぼり終え、扉の前に立つ。二階から屋上まで階段をのぼること自体はそう珍しくなかった。なぜなら、僕は生徒会の副会長を務めていて、いつも下校時刻のチャイムが鳴った後に、校舎全ての戸締りを任せられているからだった。他の学校では教師たちがローテーションで担当しているところもあるらしいが、僕の学校では生徒会副会長が担当することになっていた。これがいつから始まったのか、それは分からない。

 僕はズボンのポケットに手を突っ込み、フクロウのキーホルダーがついた鍵を取り出した。このキーホルダーは先生が生徒会に所属している役員全ての者に配っていたものだ。はっきりいってブサイク極まりないのだけれど、役員に酷く嫌われているデザインなのだけれど、そのフクロウに同情して、僕は鍵につけていた。たまたまそれを見た教師の顔と言えば、目の前に神が現れたのかと思うほど喜びに満ちていた。流石の僕も引いた。

 屋上専用の鍵を選び、それを鍵穴に差し込む。がちゃり、と開錠された音が響いた。一度確認をしようと、辺りを見回した。下から学生の話し声が聞こえるだけで、他には何も聞こえない。気配もなかった。

 一貫の作業をするかのように、何の躊躇いもなく、扉を開いた。一度も修理をしていないのか扉と地面が擦れ合う「ギギギ……」という音が耳に障り、顔を顰めた。


更新が遅いと思われますが、何卒よろしくお願いします。

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