第一話「魔獣ウォルフ」
八月十三日、快晴。
パトロールには打ってつけの日だ、私は隣で歩く女性に同意を求めた。
しかし、彼女は「えーこんなご時世にパトロールはないでしょ」と言い返してきた、理解が出来んな。
私は如何にして、今の時代だからこそ、人の目でみて安全を確認することがどれだけ大事が彼女に説き伏せた。
彼女は少し、震えながらも「わ、分かったからもういい……」と言ってくれた。私の考えが理解してもらえて実に感服だ。
「でもさー、香取さんって真面目すぎだよねー」
隣の女性が私に向かってそういう、一体真面目な事に過ぎたなどはないというのに。
「あー分かった、あたしが悪かったからもう説教はごめん」
私が言葉を発する前に彼女は詫びれたそぶりもなくそう言った。
まったく最近全体的にたるんでいる。
さっきから気だるそうに私の隣を歩くのは同僚の華馬愛子こう見えても私よりも階級は上だ。魔法力によって階級が決まるシステムはどこか間違っていると思うのだが……
「しっかしー真面目がとりえの香取さんでも出世できないんだからきびしいいよねー監査官って」
確かにそうなのだが現状を甘んじて受け入れるほかに方法はない、こんなことで反論しれ世界が守れるなら私だって抗議したいさ。
ピピっと着用している制服の第二ボタンが鳴る。私と愛子は反射てきに「チェック」と起動音声を入力する。
すると、視界の目の前に小さな電子モニターが展開され、よく見なれた女性が現れる。
「よかった!現在パトロール中の香取b1と華馬a5に緊急指令です。渋谷C地区において魔獣の反応を確認、至急現場に向かってください」
女性はモニターに現在位置から事件現場までの地図を開き、赤い線で最短ルートをナビゲートしてくれる。
文字通り最短ルートだ道なんてないビル群の中をつっきれとのご命令だ。
「おっしゃー仕事だー。おっ先にーエリアル!」
愛子の体が宙に浮き始める。私も遅れまいと冷静に起動音声を入力する。
「エリアル」
彼女と同じように私の体も宙に浮く。
「それじゃー送れたほうがお昼おごりね!」
「いいだろう、ところで下着……見えてるぞ」
「え?うっそ」
「ブーストⅡ」
起動音声を認識すると、宙に浮いた私の体は緑のリングにつつまれ爆発的に加速して移動始め、彼女が自分の下着をチェックしている隙に私は颯爽と飛び出した。
「あ、ちょっとだましたな!ブーストⅢ」
後から追いかけてくる、彼女は負けじと私より上位の魔法を使ったのだろう。見る見るうちに追いついて追い抜かされる。
「へっへんどうよ!」
私は別段動じない、なぜならこの後彼女に起きることの予想は付いている。
目的地の渋谷C地区は私たちが通信を受けた位置より二キロ離れた場所にあるが空中をこの速度で移動すればあっという間についてしまう。
だからあそこまで加速してしまうと……
「やっばーい!」
愛子は目的の場所を通り過ぎてその奥のビル群へと突っ込んでいった。
「ブーストオフ」
私は、ぴったり問題の場所へと降り立った。
遅れて彼女も降りてきた。
「くっそー香取さんがあんな嘘つくから!」
「私は嘘なんて着いてませんよ、もっともよく見てないから下着なのかなんなのか分からないのでとりあえず下着といわせてもらいました。普段から身だしなみをしっかりしていれば別段言われても慌てることもないでしょう」
「はっあーなんでこの流れで説教されんのあたし……」
「いいからさっさと仕事しますよ」
「言われなくてもしますよーだ」
私達は手をかざし辺りを見回す、幸い一般人の避難はすでに終わっているらしく人の姿はないので探し物はすぐに見つかりそうだ。
「かかった」
愛子が何かを発見したのか、その場所へ走り出した。
「こら、勝手に行くじゃない」
私が後を追いかけて路地に入ると小さな子犬と戯れている愛子がいた。
「こ、こらそんななめるなー」
「何を遊んでいるんですか……」
勤務中……ましては緊急で呼び出されたのにこれとは、まったく。
しかし、路地の奥からかなり大きな魔法力を感知した、瞬間……
「キャっ!」
愛子が悲鳴を上げてその場に倒れたというよりは子犬を足で路地の奥へ蹴り飛ばした。
「いったぁ、あいつあたしにかみつきやがった」
「愛子、それより奥になにかいますよ」
私が言い終える前に奥から無数の何かが飛んできた。
「リフレクト!」
魔法が起動し、分厚い盾が私達の前に現れる。
無数のそれを容易く跳ね飛ばす、飛んできたそれは魔法力で作られた獣の詰めだと思われる。
「ワォオオオオオオン」
そして続く咆哮、その雄たけびのせいかリフレクトが強制終了してしまう。
「やっかいな。引きますよ愛子」
私は無理やり愛子を抱きかかえ、路地からいったん離れる。
「なにあの声!?」
「おそらくウォルフですね。こいつは厄介ですよ。エアリル・ブーストⅢ」
同時に入力して空高く舞い上がる。
「ストップ・エリアヒール!」
加速の停止と同時にピンクの輪が私達を包み込む。
「ありがと、まさかこんなことになるなんて思わなくて治癒魔法セットしてなかった」
「まったく……」
私は呆れながらも、地上を見据えて対象を観察する。
「あ、香取さんおろしていいよ普通に飛ぶし。エアリル」
「ストップヒール」
「ってか香取さん普通に魔法力あるじゃんそれでまだBでれないってやっぱおかしくない?」
「ごちゃごちゃ言ってないで対象に集中きますよ!」
無数の爪がまた大量の押し寄せる。
「リフレクト」
「バリアー」
先ほどと同じように、分厚盾が私達の身をまもる。
「下降りちゃだめなんだっけ?」
「そうですよ、ウォルフは下位の魔獣を召喚できます。それこそ範囲魔法でもないと対処できません」
「範囲かーブラストならあるけどなー」
「始末書がふえてもいいならいいですよ」
「い、いやだー!じゃあどうすんのさー」
「だーかーらー今考えてるんでしょうが!」
「すみませーん」
範囲は町に損害が大きすぎるから使えない、かと言って単体の魔法じゃ魔獣に対処できないし、ウォルフ自体にもダメージを与えづらい……あ!
「愛子、ソルもってるか?」
「そるぅー?このくっそあついのに何に使うの?」
「もってるか持ってないか聞いてるんだ!」
「いやーあるけどさー」
「なら、私がウォルフと下で戦うから合図を出したら全力でソルを頼む」
「え、いやちょっとなにいってんのーってーおい説明しろ!」
「ブースト」
とりあえず方法は思いついた、あとはうまくいくかどうかだ。
「ガルウウウウウウウウウウウ」
案の定私がそばに降りてきたら姿を見せてきた。
それと大量の魔獣も一緒に、これは好都合。
「グアウ!」
一斉に魔獣が襲いかかってくるが、私はそれを魔法で吹き飛ばす。
「ダウンバーストⅢ」
下位の魔獣は次々ととばされウォルフだけがそこにのこった。
「今です!愛子」
「ソルMAX!」
愛子がまるで小型の太陽のように輝き始めた。
「リフレクトMAX」
そして私はその太陽光をリフレクトで反射してビル群にあてるすると反射された太陽光はビルのガラスに反射して次々と辺りを熱していく。
それを調整してウォルフたちをリフレクトで閉じ込めれば。
まるでオーブンのようにウォルフたちが焼けていく。
無数に集まった光を集めて集めて。
辺りには焦げ臭いにおいが漂う。
「もういいぞ愛子」
「おっけー、スットープ!」
すっかり消し炭となった魔獣だったものたちを眺めながら本部に通信をいれる。
「チェック、オープン」
「はい、どうぞー」
「任務は完了した、至急ごみ処理を頼む」
「了解―香取康孝くん」
「キック」
私は一方的に通信を切った。
こうしてやっかいすぎる魔獣退治は終了した。