3話
お久しぶりです。
大分投稿するのに遅くなってしまいました。
構想自体は出来ているんですけど、執筆するのが思った以上に難しくて全然進みませんでした。
これからも続く予定なので応援よろしくお願いします。
週が明けての月曜日。
「はあー」
クラスメイトの喋り声を聞きながら、なんで俺は学校にきているのだろうか?と憂鬱な気分でため息をつきながら、週末に起きたことを頭のなかで思い浮かべた。
まず、あの後は頭の中の整理や凪沙の町の案内など、しなくてはいけないことがたくさんあったので、アジ・ダハーカの対策は次の日にもちこしとなった。
そして、翌日。俺はアジ・ダハーカの対策のため、魔術を習った。
習ったとは言っても、『王国の剣』はすぐに呼び出すことができた。
しかし、使うのはセフィロトである以上、魔術的な戦闘技術が全くない俺が一番足手まといだ。
だが、一朝一夕で技術が身に付く訳ではない。
そこで俺が習ったのは、魔術でも基本中の基本でもある、身体強化と魔力障壁だ。
身体強化は、魔力を体に流すことで、その部位を強化する魔術で、魔力障壁は魔力で障壁を作り、相手の攻撃を防ぐ魔術だ。
すぐに覚えることができて、戦闘にすぐ組み込めることができるのが、この二つだけだったのだ。
そして、特訓のかいもあり、俺は二つの魔術を習得することがてきた。
もう、ホントにあの特訓は地獄だった……。
セフィロトが大剣を持って、無表情で斬りかかってくるんだぜ?!
もう……。ほんっとーに死ぬかと思った。
まぁ、そのおかげで魔術を使った戦闘を最低限はできるようにはなった。
そして、俺がなぜ学校にいるのかというと、こちらが攻勢にでるためだ。
俺達側の戦力だが、俺、セフィロト、凪沙の三人。
そのうち、凪沙は傷がほぼ全て回復しており、セフィロトは特に問題なし。
そして、問題は俺だとおもわれたのだが、意外にも特に問題なしといわれたのだ。
本来セフィロトの能力は複数存在し最終的には、全て扱うことができるのだが、それぞれ特殊な解放条件があるらしく、それがなんなのか分からないため現在は『王国の剣』しか使えないらしい。
そして、セフィロトの能力を除いた俺自身の実力も短期間で急激に上昇させることも不可能。というか、セフィロトと凪沙は、たった一日で身体強化と魔術障壁の二つを覚えたのが驚いていた。普通なら早くても一ヶ月はかかるらしい。
つまり、俺達側の戦力は、今の段階でほぼ十全ということだ。
対して、相手側の魔術師の数が不明なうえに、相手の目的が儀式の成功である以上、時間を掛ければ掛けるほど状況が悪化する可能性が高い。
そこで俺達は、一番戦力にはならないであろう俺を囮にして、敵を誘きだそうと考えたのだ。
最初は、俺よりも相手の目的である凪沙の方がいいのではと思ったが、俺は、魔力を大量に保有しているうえに、相手にとって邪魔者である以上、間違いなく狙われているということで、俺になったのだ。
ついでに、セフィロトと凪沙は、今は学校のみんなにばれないように、俺を見張っている。
本当にうまくいくのかねー。
「やっほぉぉ!」
「ぐほっ!」
少し考え込んでいたら、急に突進された。おかげで変な声が出たぜ。
まぁ、こんなことをするやつは一人しかいない。
「えぇぇりぃぃなぁぁ?」
「アッハハハ。ぐほっ!だって、ぐほっ!」
「いつまで笑ってるんだ。ったく」
「ごめんごめん。あ、あとおはよう。湊」
まったく。こいつはいつも……。
「よぉ。朝からお前も大変だな」
「そう思うんなら、少しは助けろよ。初」
「やなこった。(そんなことしたら、俺がエリナに殺されかけるだろうが!)」
くそっ!なんて血も涙もない奴なんだ!
ってあれ?なんか初のやつ顔が若干青ざめてる……?まぁ、どうでもいいけど。どうせ初だし。
ていうか、なんか廊下の方が騒がしくないか?
「なぁ、さっきから廊下の騒がしくないか?」
おっ!ナイス初。俺の思ってたことを聞いてくれたぜ。
「えっ!知らないの?!久しぶりにいおりんが登校してきてるんだよ?!」
いおりん?誰だそれ?
「いおりんって……、まさか、あの神無月伊織か?!」
あれ、初も知ってるの?知らないの俺だけ?
「そうそう!ほんと久しぶりだよね~。いおりんが登校してくるの」
あっ、俺だけだわ。やべぇ、全然話についていけねぇ。くそっ!こうなったら……。
「なぁ、エリナ」
「うん、何?あっ、もしかして。いおりんのことが気になってるとか~?いおりん綺麗だもんね~。でも、諦めた方がいいよ?今まで何人も告白してきた人を振ってるらしいし」
「いや、気になってるとか、そういうのじゃなくてだな。……神無月伊織って、誰?」
「「えっ!知らないの?!」」
うぉ?!いきなり大声だすなよ。っていうかなんで初まで反応してるんだ?
「あの神無月伊織だぞ?!」
「いや、あのってどのだよ」
「だって、いおりんって言ったら、今、世界ランク一位の歌姫で」
「学校で一番の美少女で、今まで多くの告白をされながらも、全て断っていることで有名なんだぞ!」
「へぇー。そんなに有名なのか」
「あぁ。お前もきっと、テレビの宣伝なんかで見たことくらいはあるはずだ」
あー、確かに言われてみばあるかもしれない。
そっかー。そんなにすごい人だったのか。
確かに、学生で世界で一番の歌い手なんて、普通はあり得ないからな。
「にしても、湊がいおりんを知らないなんてねー。エリナさんもさすがに驚いたよ」
「あぁ、全くだ」
「おいおい。そこまでのことかよ?」
「「うん」」
「即答かよ……」
「おーい。いーおーりーん!」
俺がげんなりしているなか、エリナは神無月に声をかける。
「はい。おはようございます。エリナさん」
挨拶の声とともに、姿を現した神無月を見て、思わず息を飲む。
確かにこれは美少女だ。
長い銀褐色の髪を、真紅のリボンで後ろで束ねており、前髪の左側に二つの十字架の髪留めを着けている。肌は雪のように白く、目や鼻は綺麗に整っており、体型も少し小柄ではあるが、凪沙ほどではないにしろ、メリハリがしっかりついている。
物静かで表情を余り崩さず、清楚な雰囲気を醸し出しているが、完全に表情がないわけではなく、さっきからしているエリナとの会話で、時折見せる笑顔はすごく可愛い。凪沙を太陽とするなら、こちらは夜空を照らす月といったところだろうか。
確かに、これなら人気がでても全くおかしくない。
「おっと、紹介するね。こっちのブサイクが神埼初で、もう一人の方が新城湊。」
「おい、ちょっと待て!なにいきなり人をブサイク呼ばわりしてんだ!」
まったくだ。初はブサイクではなく、救いようがないバカなだけだ。
「それで、さっきも話してたけど、こっちが」
「神無月伊織です。よろしくお願いします」
「此方こそよろしく!」
「よろしく、神無月さん」
初、俺の順で神無月さんに返事をする。
そして、その間神無月さんは、俺の方をじっと見つめたかと思うと、小さな声で呟いた。
「そうですか。貴方があの……」
あれ?なんか反応が変だぞ?
一体どういうことかと悩んでいると、神無月さんが少し焦った感じで答えてくれた。
「あっ、す、すいません。新城さんのことは、エリナさんからいろいろ話を聞いていたので、少し気になっていただけです。」
エリナから俺の話を?一体どんな話を聞いたのか気になるんだが……。
「わあぁぁぁ!ち、ちょっと、いおりん!?そ、それ以上はダメだって!」
「そういえばそうでした」
え、まじでどんな話をしたの?すっごいきになるんだけど。
「なぁ。俺の話って、どんな」
「なんの話?」
「いや、だから」
「な・ん・の・は・な・し?」
「……いえ。なんでもないです」
やべぇ、まじおっかねぇ。今エリナの後ろに龍が見えたぞ。
っていうか、心なしかエリナの顔が若干赤くないか?熱でもあるのだろうか?
「だめだ。全然気付いてねぇ」
「なにがだよ」
「いーや。なんでも」
全く、なにに気付いてないというのだろうか。初は時々わけの分からない話をする。
「もうそろそろ時間ですし、私はもう行きます。では、また」
「まったねー、いーおりーん!」
「また今度ー!」
「じゃあまた」
ふう。神無月さんか。確かに他の奴らが騒ぐのも納得できるな。初の奴も、全然本人と話をしてないのに、終始テンション高かったからな。
「さて、俺らもそろそろ席につこうぜ」
「そうだな」
そう言いながら、俺達はそれぞれの席につく。その数秒後にチャイムがなり、がらがらと教室の扉を開けて荒川先生が入ってくる。
「よーし。HRを始めるぞー」
さーて、今日も一日頑張りますか。
― ― ―
そして、放課後になり、俺は家へと帰宅していた。
結論からいうと、結局学校では何も起きなかった。
いつもと少し変化していたことといえば、昼休みの時の昼食をいつもは三人なのに、神無月さんを合わせて四人で食べていたぐらいだろうか。おかげで、他の男子からの嫉妬の視線が痛かったが。
しかし、鎧の男が現れないとなると、どうしても焦ってしまう。いや、真っ昼間から堂々と魔術で攻撃してこいというわけではないのだが。でも、時間が経てば経つほど、相手は体勢を整えてしまう。
一度、此方から相手の場所を調べて、攻撃できないか聞いたのだが、魔術に関して余程秀でているのか、全く居場所が分からないらしい。つまり、この囮作戦が成功しないと、此方から攻撃を仕掛けることは不可能ということだ。
ほんと、成功してくれるといいんだがな。と、心の中で愚痴っていたら、
ドクン
突然不快感に襲われるのと同時に、周囲の景色の色が白と黒の世界に変化していた。これは……。
そこまで考えたところで、妙に嫌な予感がして咄嗟に右側に移動した。その次の瞬間、さっきまで俺が立っていた場所に無数の剣が降り注ぎ、突き刺さっていた。
「おいおい。いきなり……ッ!」
なんなんだと言おうとしたが、それはできなかった。なぜなら、いきなり目の前に現れた少女が、両手でようやく持ち上げられるぐらいの巨大な鎌を俺に振り下ろそうとしていたからだ。
(やばい!魔術障壁は間に合わない!なら……!)
「身体強化!」
俺は障壁を張るのを諦め、すぐに身体強化を行い大きく後ろに飛ぶ。咄嗟だったため、強化に十分な魔力を込めれなかったせいか、昨日よりも出力が落ちていたが、ギリギリで回避することができた。だが、少女はそこから更に鎌を横に凪ぎ払うようにして追撃してくる。
(やばい!今度は間に合わない!)
そう思った瞬間、なにかがこっちに向かってきている感覚がした。いや、なにかではない。随分と長い間慣れ親しんだ、自分の半身とも思えるような存在。そこまで考えが至ったとき、衝動的に俺は叫んでいた。
「第十権能『王国の剣』!」
がきぃん
「っ!」
金属が思い切りぶつかりあうような音をたて、襲撃してきた少女は吹き飛ばされる。
そして、俺の目の前には
「怪我はありませんか。ミナト」
頼れる相棒がいた。
「あぁ。それよりもこれは……」
なんなんだと言おうとしたところで、ここから少し離れたところから爆発音が聞こえた。
「襲撃です。とりあえずこちらの作戦は成功しました。凪沙さんはアジ・ダハーカと交戦中です。」
マジかよ!あの作戦成功したのか。俺絶対失敗すると思ってたのに。セフィロトに心のなかで謝っておこう。
そして、俺は改めて襲撃してきた少女を見る。
水色のラインが入っている黒色のコートに、赤色のミニスカート。顔は薄紫のバイザーを着けており、よくわからない。手には鎌のような武器を持っている。鎌のようなというのは、柄の先端がギターの弦を弾く部分みたいになっているからだ。
髪は銀色でツインテールにしており、前髪の両サイドを髪留めを一つずつ留めている。
「なぁ、セフィロト」
「なんでしょう。ミナト」
「あいつの持っている聖遺物はどこの神様のか解るか?」
そう、聖遺物は多くの場合は神話上にでてくる神などに関わっている。ならば、どの神のどのような道具なのか、知ることができれば、有利になれ――
「分かりません」
――は?
「え~と。もう一度言っ」
「分かりません」
「即答かよ?!」
生命の樹はその名前から分かるとおり、あらゆる生命に精通している。そして、それは神話上の神や悪魔等も例外ではない。それゆえに聖遺物に関する知識も詳しい。また、セフィロト自身が聖遺物であるため、歴代の契約者がいるわけで、それまで戦ってきたおかげ(?)で戦闘技術も高い。その反面、魔術は魔術師が使うものなので、それらを用いた戦闘技術は低い。
だから、聖遺物の知識を生かしてもらおうとおもったのだが……。
「聖遺物はそもそも、膨大な思念を取り込んで変化した道具です。ゆえに、契約者の思念にあてられてその形や性質を変化させることなんてよくあります。ついでに、聖遺物の力を解放した契約者は、容姿が大きく変化する場合があるので、正体を明かしたいときは戦闘不能にするしかありません。」
「マジかよ。じゃあ、あれも……」
「神話の時代に、大鎌とエレキギターを合体させたようなものを持っている神や悪魔がいるなら、私が知りたいくらいです。」
確かに、そりゃそうだ。
「それよりも、きます!」
そう言うと同時にセフィロトは飛び出し、既に斬りかかろうとしていた敵の少女に向かって行った。
二人共常人では、とうてい見えないような速度で武器を振るい、幾度もの金属音と共に一進一退の攻防を繰り広げる。
俺も魔力で視力を強化していなければ、この攻防は見えなかっただろう。
そして、二人の均衡は徐々にに崩れ、セフィロトが不利になってきた。体格か、武器か、どういったことが原因か素人の俺にはわからないが、最初のころよりも、回避するときの動きがおおきくなっている。
そして次の瞬間、一際大きな金属音と共に、セフィロトの大剣は弾かれ、少女の凶刃がその生命を刈り取ろうと迫る!
このままでは、身動きのとれないセフィロトは呆気なくその命を散らすだろう。
だが、セフィロトは一人で戦っているわけではない!
「障壁!」
「っ!」
少女の貌に初めて驚愕が見える。
そう、俺は生命の樹の契約者で、生命の樹は俺の聖遺物。二人で一人、二心同体とも言える俺達はどちらが欠けても不完全な存在だ。だからこそ、俺達は二人で戦っている!
俺が張った障壁は少女の大鎌を止めきれず、一瞬時間をかせいだだけ。だが、セフィロトが体勢を整え、攻撃に移るには一瞬あれば充分。先程とは逆に、回避する余裕がない少女に、セフィロトは大剣を振り下ろす!渾身の一撃。これ以上ないくらい、絶好のタイミングで振り下ろされた最高の一撃に、俺は絶対に決まると確信していた。
だが、その確信は容易く打ち砕かれる。
「『共鳴振音』」
少女が突然何か呟いたかと思うと、バイザーの側面から白色の腕が現れ、大鎌のギターの部分を掻き鳴らし、セフィロトを吹き飛ばす。
「『我雷の如く、害為す者へと疾く駆けよ』」
更に少女は、何かを言うと姿を消し、いつの間にか吹き飛ばされ、体勢を整えようとしていたセフィロトの背後へと現れ、大鎌を振り下ろそうとしていた。
「セフィロト!後ろだ!」
「っ!」
俺の咄嗟に叫びに、セフィロトは避けようとするがこのままでは間に合わない。
「くっ!……障壁!」
俺が張った障壁はぎりぎり大鎌のとセフィロトの間に割り込み、セフィロトがなんとか回避するだけの時間をかせいだ。
だが、所詮はその場しのぎ。次々と少女が繰り出す大鎌の攻撃に、セフィロトは対応しきれない。今では少女の攻撃をぎりぎりで避け続けるので精一杯だ。俺も障壁を張り続けているが、連続して張っているせいかだんだん強度が落ちている。
「『我が激情よ、猛る焔となりてすべてを焼き尽くせ』」
少女が詠唱と共に、こちらの逃げ場がないくらいの巨大な炎の塊を放つ。どうやら、ただセフィロトを追い詰めるためだけに、斬りかかっていたわけではないようだ。
しかし、攻撃が先程より大振りになったおかげで、セフィロトは体勢を整えることに成功し、そのまま大剣を炎の塊に振り下ろす。
「『王国の剣』っ!」
セフィロトが振るう概念破壊の大剣は、衝撃までは無効化できなかったのか、少し苦しそうな表情を浮かべるものの無事に炎の塊を打ち消した。
「(相手の渾身の一撃を防いだ。これなら……なっ!?)」
しかし、次の瞬間俺達が胸にあった感情は安堵ではなく、驚愕だった。
そこにあったのは、氷の矢。数えるのが馬鹿らしくなるくらいの無数の矢。しかも、一本一本が高い攻撃力を有しているのが俺にも分かる。
「『氷の矢よ。無数の矢よ。暴雨の如く慈悲亡き裁きを下せ』」
少女の言葉と共に、周囲に展開していた氷の矢は一斉に、俺とセフィロトに降り注ぐ。
「障壁!障壁!障壁!障壁ぃぃ!」
俺は可能な矢は避けつつ、幾つもの障壁を張り、ダメージを減らす。セフィロトも大剣を振るい矢を消していく。
本来なら大剣を盾のようにして防ぎたかったのだが、氷の矢は全面に展開されている。しかも、威力もあるため、俺の障壁も一本矢が当たっただけで砕けてしまうため、その方法は使えない。
気が遠くなるような時間ずっと矢を防ぎ続け、ようやく攻撃が止んだときには、俺もセフィロトも満身創痍な状態だった。体の至る所に氷の矢が突き刺さり、傷口は氷が覆っている。氷のお陰で、出欠多量で死ぬことはないが、身体中の体温が奪われ、意識が朦朧としてきた。
「『束ねるは生命の祈り。輝けるは星の奇跡。その光は消えることなく、願いを、幻想を、希望を照らし続ける』」
敵である少女は、これまでよりも長い詠唱を唱えており、大鎌にはこちらの止めを指すべく魔力光がものすごい量集まっている。そして……
「『尊き星の幻想』!」
放った。
先程の炎の塊よりも巨大で、高い威力を持つであろう星の一撃。
命の危機だというのに、思わず見惚れてしまうような幻想的な輝きが俺達に止めを指さんと迫ってくる。
「『王国の剣』!」
対するはあらゆるものを、概念さえも破壊する剣。純白の魔力光を帯びる大剣は星の閃光を切り裂かんと振り下ろされる。
だが、あらゆるものを切り裂くといっても無条件という訳ではない。相応の魔力、体力、精神力が必要となってくる。
そして、今はそれらが欠落している不完全な状態。
ゆえに……
「くっ……うぅ!」
セフィロトが相手の攻撃を切り裂けず、押されることになるのは必然だった。
俺も障壁を張って、威力を下げようとするが全くと言っていいほど下がらない。
そして、閃光が俺達を呑み込んだ。
あとに残っていたのは、文字通り満身創痍の俺とセフィロト。そして、大鎌を振りかぶり、俺達を見下ろす敵の少女。
凪沙とアジ・ダハーカはまだ戦っているんだろう。時折爆発音が聞こえる。
万事休す。
その文字が頭のなかに浮かび上がってくる。
そして、少女は大鎌を振り下ろした。
その瞬間、俺の世界はスローモーションになった。
目の前の光景も、聞こえるであろう音も、全てが遅く感じるようになった。
そのなかで俺は、思考を加速させた。
このまま、また誰かを失うのか。
また、見殺しにするのか。
そのとき、頭に浮かんだのは、かつて俺か失った黒髪の少女。セフィロトとよく似ているけど、違う姿。
―ふざけるな!もう失ってたまるか!!―
「ヴァァァァァァァァァ!」
そう思った瞬間、俺は獣のような叫びを揚げ、黒い雷を身体中から迸らせた。
感想お待ちしています。