発泡太郎
むかしむかしあるところに、おじさんとおばさんがいました。
おじさんとおばさんには子供がなく、それでも幸せに暮らしていました。
ある日、おじさんが会社へお仕事に、おばさんが近所の公園で井戸端会議に行きました。
おばさんが井戸端会議を終えてのんびりしていると、用水路をどんぶらこどんぶらこと大きな発泡スチロールが流れてきました。
あんまり大きいので、今度の町内会のお祭りで飲み物を入れておくのに役立つかもしれないと思い、おばさんは発泡スチロールを拾って帰りました。
おじさんが帰ると、おばさんは発泡スチロールの前で待ちかねていました。
中からドンドンとたたく音が聞こえてうるさいけれど、一人で開けるのも気味が悪いのでおじさんを待っていたのでした。
おじさんとおばさんは万一に備えて包丁をほうきの先にくくりつけて構え、大きな発泡スチロールを開きました。
すると、なんということでしょう、発泡スチロールの中から、薄汚い青年が現れたのです。
青年は年のころ二十に満たないように見えましたが、むすっとして言葉を一切しゃべりません。
めんどくさいので警察か保健所にとどけようと思いましたが、そんな話をしていると突然青年は口を開き、おじさんが会社で行っている横領のことを話し始めたのであわてて要求を聞くと、名前をつけて養えというではありませんか。
仕方が無いので、おじさんとおばさんはこの青年に『発泡太郎』と名づけて、大切に養うことにしました。
***
それから数日。格好だけは立派な青年になった発泡太郎は、突然、鬼退治に行く、と言い出しました。
おじさんとおばさんは、発泡太郎の支離滅裂な発言にうんざりしていましたから、またか、と聞き流しましたが、発泡太郎は、兵糧としてゴマ団子をこしらえろと要求します。仕方が無いので、おばさんは近所のスーパーで閉店間際の50パーセントオフ品のゴマ団子を調達してきました。
ゴマ団子をウェストポーチに入れ、『埼玉一』と書かれたのぼりをおし立て、発泡太郎は鬼退治の旅に出かけました。
旅に出てすぐに、発泡太郎の前に猫が現れました。
発泡太郎さん、発泡太郎さん、お腰につけたゴマ団子、ひとつ私にくださいな。鬼退治のお供をいたしましょう。
そう言う猫に、発泡太郎はゴマ団子をひとつ与えました。猫がしゃべったことには突っ込みを入れませんでした。
猫は喜んで発泡太郎のお供になりました。
少し進むと、発泡太郎の前にゴリラが現れました。
発泡太郎さん、発泡太郎さん、お腰につけたゴマ団子、ひとつ私にくださいな。鬼退治のお供をいたしましょう。
そう言うゴリラに、発泡太郎はゴマ団子をひとつ与えました。ゴリラがこんな場所にいることには突っ込みを入れませんでした。
ゴリラは喜んで発泡太郎のお供になりました。
また少し進むと、発泡太郎の前にプテラノドンが現れました。
発泡太郎さん、発泡太郎さん、お腰につけたゴマ団子、ひとつ私にくださいな。鬼退治のお供をいたしましょう。
そう言うプテラノドンに、発泡太郎はゴマ団子をひとつ与えました。プテラノドンが現存するはずが無いことには突っ込みを入れませんでした。
プテラノドンは喜んで発泡太郎のお供になりました。
こうして発泡太郎は三体のお供を連れて旅を続けました。
***
発泡太郎はついに鬼が住まう鬼が島を見つけました。
横須賀というところにあった鬼が島は、動く島でした。さすが鬼です。さらに、鬼は空飛ぶ化け物を島にたくさん飼っていて、いつでも国ごと滅ぼせるほどの武力を誇っていました。
発泡太郎は鬼が島に上陸しようとしましたが、門番の鬼に止められました。仕方が無いのでゴリラの怪力でひねり倒しました。
上陸するための階段は、プテラノドンが飛んでいってロックを外しました。
猫は特に何もしませんでした。
上陸すると、鬼たちは灰色の服に身を包んで発泡太郎たちを取り囲みます。
でも発泡太郎は怖気づきません。鬼たちに、今すぐ降参して宝物を差し出せ、と声高に宣言します。
鬼たちも宝物を奪われては困りますので、交渉は決裂です。
鬼たちはいっせいに火を噴く棒を構えて、発泡太郎たちに攻撃し始めました。
ゴリラは鬼たちをグーパンチで殴り倒し本気キックで蹴り倒し頭突きで昏倒させました。
プテラノドンは空から急降下して鬼の頭を狙いました。目玉を突っつくほどの精密爆撃は出来ませんでした。
発泡太郎はあらゆる攻撃をはねかえすHTフィールドを張って仲間を守りながら、魔眼で鬼たちを石にしていきました。
猫は特に何もしませんでした。
鬼たちはさすがに降参し、宝物を現金で差し出し、デリバリーしていた風俗嬢たちを解放しました。
発泡太郎たちは意気揚々と金と女を携えておじさんとおばさんのところに帰りました。
金と女を見たおじさんとおばさんの間には醜い争いが起こり、親戚や地域を巻き込んだ騒動となりましたが、またそれは別のお話。
めでたしめでたし。




