戯言ランナー
彼方へと続く一本道
変わり映えのしない景色
延々と走り続けている
前にも道 後ろにも道
遥か向こうに誰かの背中
こちらを追い来る足音はない
沿道に連なる観衆に
彼へと届く視線はない
彼へと向かう声援はない
自分の足音しか聞こえない
のたりのたりと重い音
泥に沈むような鈍い音
呼気は熱く蒸気に変わり
吸気は冷たく喉にひりつき
胸が焼け付くように痛い
遥か遠くの背中の群れは
走っても走っても小さいままで
どれだけ行っても追いつきゃしねえ
埃だらけに泥まみれ
噴き出す汗が全身で粘つき
朦朧として視界が翳る
脚はもう回らない
振り続ける腕に力もない
倦怠感が停止を誘う
誰も彼を顧みない
彼はとうとう道を外れた
誰かの後には続かない
誰の背中も追いはしない
無人の荒れ地に影ひとつ
遮るものもなく風が吹く
前にも後ろにも誰もいない
前にも後ろにも道はない
足場は悪く向かい風
標になるものも何もないが
荒い息の中小さく嘯く
目的地など必要ない
誰かの道など辿らない
誰かの歴史などなぞらない
誰の背中も目指さない
誰にも道を残さない
それが最後に残った誇り