5・「ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」
次話、投稿します。
色々と投稿時間が移り気で申し訳ありません。
異世界転生とか異世界召喚などに憧れを抱いていなかったわけではない。
むしろ若かりし頃は社会や自身の高くも無く低くも無い身の丈に鬱屈した思いとか抱きながら『明日起きたら異世界とかにいねーかなー』とよく考えたものだ。
あ、バージョンとしては『明日突然世界が滅びねーかなー』とか『明日突然なんかわかんないけどすごい能力に目覚めたりしねーかなー』がある。
まあ、たいてい寝る前に電気を消して目をつぶる、そのくらいに思い浮かべる程度の願望だ。
これが年を取り自分のお金もある程度あって、好きなことに没頭できる時間もどうにか忙しい毎日の中でようやっと作れるくらいの器用さが出来てくる。
そうすると自然に物欲が勝り、抱いていた妄想はああそんなことも考えてた時期があったよね、と笑い話にできるようになる。
だから、今現在、憧れていた異世界召喚なんて現実に直面しても、抱く感想はひとつ。
早く帰って、集めに集めたエロ・コレクションに囲まれながら、安らかに寝たい!
だったりする。
これが、俺が男のままだったり、或いは、呼ばれて直ぐに拘束されて、すわ処刑台のような今の状況でなければちょっとは違っていただろう。
魔力は規格外といわれるくらいにあるようなので、時間をかければいわゆるチートで無双、ハーレムコースまっしぐらだったろう。
ちょこっとして落ち着いたら、ファンタジーなマジックなどをつかって、感覚共有や女体化などをしてTSも楽しめたのかもしれない。
だが、そのどれも今現在では難しいとなれば、とりあえず今日は帰ってエロ本みて自家発電して寝たい。
それだけだ。
「お前ら、10円やるから、さっさと俺を解放して帰してくれよ……」
10円も持ち合わせが無いので言ったわりには出来もしないのだが。
動き出した馬車の中で観賞用ペットよろしく運ばれる俺は、というか俺たちはすることが無く暇を持て余している。
「ジュウエンってなんですか?」
律儀に聞いてきたのは、マーガレット。
マギーと呼んでほしいそうだ。
「俺の国の通貨だよ」
「エルフの国の通貨ですか!」
まあ、違うけどな。
そうは思えど、説明が面倒なのでスルーする。
マーガレットは、変態司祭やちび騎士が組織の一端を担うヴァレネーシアス教が軸となって作り上げたヴァレネイ聖王国のずっと西の外れにある村の出身らしい。
未だこの世界の勢力図や大まかな形などは分からないが、人間……この世界では人族とでもいえばいいのか、人族よりも強大な力を有する亜人族達に対抗する最も急先鋒な国家がヴァレネイ聖王国だそうだ。
人族の愛を説くヴァレネーシアス教は500年ほどの歴史があり、もともとはよくある地方都市の一宗教程度だった。
それが、ここ30年で聖王国の首都である聖都ヴァーレーンを都市国家から多数の都市、村、町を擁する大国家に成長させたのだ。
30年前に即位した現法王、ならぬ、現聖王がよほどの手腕を見せたのだろう。
内政チートだったりするのかもしれない。
ということは、転生者だったりして。
ということは、元の世界の知識やネタで仲良くなれて、即時解放とかされないかな。
無いな……。
ご都合主義に頼る妄想が出てくるときは、大抵、そうならない時だ。
年を取るとそういう妄想も、ああそりゃかなわないから妄想だよね、と逆説的に思うようになるもんだ。
ちなみに薄暗い馬車の中ではマーガレットの容姿はわかりにくい。
ヒロインキタ!とか思ったら、推理漫画の犯人ぽく黒っぽいシルエットでござる、というところだ。
多分、素朴な田舎の娘さんだよね、くらいしか判別できないのだ。
さておき、この俺がエルフ、というより持っていた魔力の威圧を受けて彼女は恐れおののいていたらしい。
エリオースにド変態と言ってやることでご褒美をあげたら、ことのほかそのやり取りが受けたらしく、彼女の身の上などを一晩かけて聞かせてくれるくらいまで心を開いてくれた。
まあ、それが先ほどのヴァレネイ聖王国、ヴァレネーシアス教とそれを取り巻く現在の状況だったりするのだが。
彼女自身は、辺境も辺境、ド辺境と呼べるような開拓村の出身で、多くは語ってくれなかったが、母親から薬学や占いなどを学び、村の人の生活に役立てていたそうだ。
それが、昨年ヴァレネーシアス教の教会が立つと、人々の心を惑わす魔女として嫌疑をかけられ、今年に入ってすぐにこうして連行されたという。
マーガレットが捕縛されてこうして運ばれてきて、およそ2ヶ月ほどたっているらしい。
こちらの世界の常識が分からないので、1ヶ月が何日なのか、月の単位はなんというのか、実はまだ細かく聞けていない。
きちんとした暦もあれば、きっと季節も存在しているのだろう、程度で今は納得しておこう。
「村ではちょうど新年のお祝いが終わって、目覚めの季節のお祭りの準備に薬草酒を漬ける準備をしていたんですよ」
なんて、寂しそうにマギーが言っていたからだ。
そんなヘビーな話をしている最中、興奮しているのか、変態、エリオースはふーっふーっ息を荒くしていたがな。
お前もしゃべれよ。
しゃべれるだろ、と思ったが突っ込んだら負けな気がした。
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「さて、ここからは私の番ですよ!」
ああ、もうずっとお前のターンでいいよ。
なんて思いつつ、少し寒くはあるが、自身の召喚術で呼び出したタオルケットをかぶる。
18禁PCソフト「お兄ちゃんが好きすぎて頭がフットーしちゃう!」(細マッチョ倶楽部作・2004年)通称おにふとの初回限定で付いてきたヒロインの制服姿と恥ずかしい姿がプリントされたタオルケットである。
昨今は抱き枕カバーなんてものが流行っているが、黎明期にはこうして色々な布製品が初回限定でついてきたものだ。
なんの黎明期かはさておいて。
「そ、それ、私にもください!」
「いや、お前、見えてないだろ!」
思わず突っ込む。
そう、エリオースは今、ハードSMも真っ青なくらい拘束されているのだ。
「私のスキルにかかればこれくらい!」
本当、無駄にスペックが高い奴だなこいつは……
「夜通し、マギーと喋ったんだ、少しは眠らせろ」
マギーの方から規則正しい寝息が聞こえる。
俺も眠いんだ。
「いえ、でもですね、ケイさんの召喚や、今ケイさんが使われた召喚術について教えておかないと……」
「ほう?」
やっぱり、このエロ関係グッズを呼び出すことが出来るのは召喚術らしい。
まあ、恐らくは俺が元の世界で所持していたもの限定なのだろう、仕事が忙しすぎて初回限定版が惜しくも手に入らなかった『妹のおぱんつ』付18禁ソフトは初回限定ではなくてソフトしか呼び出せなかったからな。
無論、さきほどのソフト「おにふと」とは別のソフトだ。
そして、俺は妹萌えだ。
無論俺が所有する萌えポイントはそれだけじゃないけどな。
なんかそう言うとチートなスキルっぽくていいな。
何の役にも立ちそうに無いスキルだがな。『妹萌え』
「ケイさんを呼び出した身としては、きちんと状況を説明しなくてはと思いまして」
「まあ、状況の説明も何も、こうして絶賛監禁中の上、もしかしたら裁判という名の理不尽私刑を受けるかもしれない、くらいが関の山じゃないのか?」
思いっきり皮肉を込めて、エリオースを睨む。
俺のその視線が見えるわけないのだが、本当に見えてないよね?
なんでこの変態は悶えてんの?
「ああ、もっと!
はっ!
こほん、そうじゃなくてですね」
話が進まねぇ……
「いいから続けろ、話を聞く時間だけはたくさんあるんだからな」
とろくに視界を確保できない薄暗い馬車の幌の中でぼーっと遠くを見る。
「はい、本当にすみません。
それでは、まず私がケイさんを召喚した術についてですが、エルフが古来より種族独特のものとして取得していた召喚術をベースに開発したオリジナルの召喚術です。
これは、依代となる肉体……現在、ケイさんのそのエルフの少女の肉体に、異界より呼び出した親和性の高い魂を複製、定着させるものです。
あ、ちなみにですが、その肉体自体はエルフではありますが、もともと魂の入っていない……人造の肉体となります」
「ああ、ホムンクルスとかそんな類か。
これで生きていたエルフを捧げたとか言ってたら、喜んで死を選んだわ」
「まさか!生きている者を生贄にするなど、人の道を外れています」
「魔女裁判をやるような宗教の司祭さんが、よく言う」
「いえ、私は司教でしたよ。
それに私は神様なんて信じちゃいないですから」
ホムンクルスとかきちんと通じたのかなーとか、考えていたらこの司祭さん、もとい、司教さん、ぶっちゃけちゃったよ。
あれ、司祭と司教どっちが偉いんだっけ?
さておき。
まあ、だからこそこうして捕まっているのかも、なんだけどさ。
「さておき、ケイさん、貴方はこちらの世界に呼び出されたもう一人の貴方、つまり複製された魂なのですよ!」
「いや、それ、さっきも言っただろ」
「ですから、って、え?」
「複製、ってさっきも言っただろうが」
「複製が通じるのですね……」
「いや、複製って……ああ、多分それは翻訳術式のせいだろ、俺の居た世界でもそういう概念があったから、通じたということにしとけ」
話が進まん、と言外に匂わせておく。
「はあ、ケイさんはひょっとしてあちらの世界ではすごい魔法使いだったりしたのですか?」
……
「ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」
思わず、思いっきりどもってしまった。
そしてエリオースの檻には檻の枠をすり抜けて、大量のエロ本がストライクしていた。
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