7・「それを合図に」
次話、投稿いたします。
宣言どおりに更新できずに申し訳ありません。
「うっ……」
地下室に収監されたヴィンガストが目を覚ます。
ヴィンガストは女と見間違うくらいの美貌の癖に、低く響く声で非常にお耽美な雰囲気をかもし出す、乙女ゲームに登場しそうな人物だ。
栗色の髪が流れるように肩から流れ、辛うじて開けられた目は琥珀色で、狼のような鋭さを感じさせる。
両の手が鎖で繋がれたその様子は、見る人が見たら、奇声を上げて興奮するようなシーンだろう。
だが、俺はボーイズラブにもガールズラブにも興味は無い。
ただの、エロを愛する、普通の青年男性だ。 この場合は男子って言った方が良いのか? エロ本系男子ってな。 どんな男子だっての。
さておき、今はまずヴィンガストである。
「起きたか」
「ケ……イ、か?」
うっひょー、掠れがすれの声がセクシィーッ!
こほん。
「夜明けにはここを逃げ出すぞ。
黙って、体力を回復しておけ」
俺はそれだけ言うと、踵を返す。
「待……てっ!」
状況を把握できないヴィンガストは何とか声を絞り出して俺を留めようとする。
唇に指を当て、しーっとジェスチャーして、俺はヴィンガストが収監された檻を形作る鉄格子をばんぺん君で力任せに押し開き、檻から出るとまた力任せに元に戻した。
ばんぺん君は折に触れて、色々な場面で使用してきたけれど、ここまで力を誇示する為に使ったことは無い。 ヴィンガストの前では、特に。
だれもがちょっと便利なエルフの使役する使い魔的なものだと思ってたろう、というか思っててくれないと困る。
思ったとおり、その馬鹿げた人外の力を示したばんぺん君に、ヴィンガストの目が見開かれる。
彼は、リオーマンから脱出する時からの付き合いだし、今は、一人だ。
一人に対してなら、圧倒的な力の差を示して、謀略だろうとなんだろうと力技でねじ伏せられる、だろう。
今、俺が気にしなくてはいけないのは、あの街道での襲撃で、馬車の中のメンバーを襲った眠気は、いったい誰の手によるものだったのかということだ。
生きている以上、ヴィンガストにもその目はあるが、まあ、最終的に誰が裏切り者なのか、目的が何なのかによらずリオーマンの時みたいに何とかしちゃえば良いだけなので、実のところ、わりとお気楽だ。
穏便に済ませられるのであれば、それに越したことは無いんだけどさ。
「犠牲になった5人の剣だけ取ってある。
すまん、これぐらいしか報いることが出来なかった」
それだけ言うと俺は地下室を後にした。
「すまん」
ヴィンガストの声が聞こえた気がした。
さて、お次はカレンと、他に囚われの身となっているという湖エルフの少年が待つ部屋だ。
カレンが俺を裏切ることは無いので、というか、裏切ればその心の動きは何となくではあるけれど、俺の作った異界を通して即座に分かるので、今のところ、シロ。
俺がどれだけカレンを邪険に扱っても、異界を通して全く悪感情を感じない。 俺が男と話していたり、色目を使われているような場面では、異界を通じて、まさに荒れ狂う悪感情の嵐が起こっているのが分かるために、最近ではカレンが余計なトラブルを起こす前に対処ができるようにすらなっている。
ちなみにアンジェロが俺と話していても、カレンは凪いだ湖面のような穏やかな心持ちでいることが多い。 がんばれ、アンジェロ。
湖エルフの少年はそもそも疑うべき対象の外なので、さっさと夜明けの段取りだけ伝えて、囚われのお姫様のところに向かおうかね。
と鼻息混じりに部屋のドアを開ける。
開けた瞬間、お預け状態だったカレンが飛びついてくることも想定してばんぺん君をさりげなく纏いながら、入室。
思い描いていたカレンのルパ○ダイブは無く、代わりに高圧と思しき水の鞭の一撃が飛んできた。
当然、ばんぺん君が自動防御状態でそれを叩き落とすものの、屈強であるはずのばんぺん君が千切れ、床でびちびちとのた打ち回るのを見て、俺は感心をした。
「ほう?」
あ、これちょっと悪役っぽくね?
等と思っていたら、術者であろう湖エルフの少年が両手を縛られながらも、カレンを庇い俺を睨みつけて……同じく両手を縛られていたカレンに思いっきり頭突かれた。
ごぉん、と。 大きな音を立てて、頭頂部を頭突きされた少年は「むぎゃっ」というような悲鳴を上げて、地面にキスをした。
「お姉様になんてことをっ!」
カレンは通常運行。 あ、いや、頭に頭で頭突きをすれば、そうであろう、実は必死に痛さを我慢しているのがきゅっと結ばれた口元がぷるぷると震えていることから分かる。 安心のカレンである。
が、足元でぴくぴくと痙攣しているその少年は大丈夫か?
「少年、大丈夫か?」
優しく抱き上げてやると、思いの外、ダメージが少なかったのか、少年はすぐに我に帰り、自身の置かれている状況を認識すると、茹ったタコのように真っ赤になった。
青かったり赤かったり忙しい子だなぁと思っていると、酸素の足りない金魚のようにぱくぱくと口を開いている。
「リル!
そ、そこ替わりなさい!
お姉様の胸に抱かれるのは、私よっ!!」
今度はカレンが空中を舞う番だった。
いやぁ、ドヤ顔決めながら腕を振り上げるだけで、仰け反りながら吹っ飛ぶカレン。
ギャラクティカとかファントムとか、何か技名を付けたいところだが、つまるところ、ばんぺん君によるぶちかましである。
「あ、姉上っ!」
少年が絶叫する。
あれ、カレンてば、少年を手管足管で篭絡しちゃった系?
じたばたと俺の腕の中でもがく少年と、吹っ飛んだカレンが鼻息荒くもう一回、もう一回とせがみながら腕に纏わりつくのを眺めながら、俺は叫んだ。
「誰か、助けて下さいっ」
……
…………
さて、世界の中心でも無ければ、誰かが死に瀕しているわけでも無いので、割と俺を含むその場の全員が正気に戻ると途端に恥ずかしさが襲ってきた。
「じゃ、じゃあ、夜明けに派手な音が鳴るから、それを合図に、な?」
目線を合わせず、俺は立ち上がり、部屋を後にしようとする。
カレンは魔力的素養が高いため、人族よりも早く目が覚めているはず。
エーリカとユーフェミアが目覚める前に、出来れば牢に戻りたい。 もし、彼女たちが目覚めているのであれば、ばんぺん君の力の一端でも見せないと逆に俺が疑われるだろう。
「お姉様っ!」
「ケイ姉上っ!」
何故か、俺の呼び名も姉上になっているのだが、深くは気にすまい。
捕えられていた湖エルフの少年はリールトリリール、なんとカレンの年の離れた弟らしい。 エルフの名前は非常に長ったらしいので、リルと愛称で呼ばれているのだが、リルと愛称を付けたのが200年前のカレンだったそうだ。
カレンはその55年後にリオーマンに聖女として崇められ、軟禁されている。 その上、今やこの世界では唯一であろうダークエルフ、すなわち新種と言ってもよい存在なのに、リルはよく分かったな。
まあ、湖エルフは魂のかたちで人を見ることが出来るらしいので、そういうことだろう。 変態だけど、魂は変わってないのかな、ピュアなのかな。 と、カレンを変態に変えちまった俺が言えた義理では無いか。
つーか、そういう意味ではひどいな、俺。
リルに魔法で命狙われてもしょうがない、うん、しょうがない。 と、思い込んだところで、最後の関門、エーリカとユーフェミアが閉じ込められている部屋の前に立った。
一応、既に目が覚めていることも視野に入れて、不死者となった盗賊の一人を随伴させている。
後手に縛られているので、どこかから移送されてきたように見えるだろう! 多分。
がちゃがちゃ。
ぎぃー。
如何にも油がさされていないだろう耳障りな軋みを上げて扉が開き、俺は一歩踏み出す。
途端。
ぱかぁん!
乾いた音が鳴って、俺の頭上で、乾いた木材が砕け散った。
「ユ、ユーフェミアや私に手を出すつもりなら、最後まで抵抗してやるんだからぁ!」
はらはらと舞う木屑を受けながら、俺はいい加減、この状況にイラついて、マギーに怖がられてから、抑え目にしていた魔力を全開に迸らせた。
「ひっ」
ユーフェミアが悲鳴を上げる。
エーリカは顔を真っ青にしながらもプルプルと震えながらもその手に持った角材だったものをぎゅっと握る。
良く見ると、握りしめた手からじわりと血が滲んでいるし、その手も白蝋のように血の気が引いている。
ふう。
一息吐くと、俺は、滾る怒りを何とか沈め、精一杯の笑顔を作って口を開いた。
「殺す気か?」と。
□■□■□■□■
早朝。
まだ、陽は昇らず。
あれから、張り詰めた緊張がぷつんと切れたのか、エーリカは気を失うようにしてその場で倒れてしまった。
隅っこでうずくまり、がちがちと歯を鳴らしていたユーフェミアも、何時の間にか寝息を立てていた。
俺は、結局深夜だったこともあり、そのまま起きて基本に立ち返ることにした。 即ち、召喚でエロ本を喚び出して読書に耽ることである。
途中、飽きたのでエロ本でタワーなどを作ってみたりもしたが、一度タワーを作ると今度はその形で召喚が出来ることに気付いたりもして中々に実りの多い時間だったと言えよう。
しかしあれだな。
女の子は、男子の読むようなエロ本を見て、実は興奮したりするんじゃないかと思っていた。過去にはね。
まあ、実際、男性用のエロ本を買い求めたりする女性も居ることも知ってはいたが、自分が女性になっていざ読む側になってみるといやはや。
それは、自分が女なのか男なのか、あやふやな存在だからこそなのか、或いは、女性は男性が喜ぶエロ本には実はそんなに興奮していないのか、はたまた、興奮のベクトルが違うのか、とにかく、エロ本を読んでいて、途中で飽きてタワーを作る自分に気付いた時のショックといったら。
エロ本に飽きるなどと!
こほん。
落ち着こう。
今、俺たちはカレンやリルと合流を果たし、ヴィンガストを助け出しに5人で先を急いでいる。
突如、起きた爆音に「よし、いまがチャンスだー」と自分でもびっくりするぐらいの棒読みで、エーリカとユーフェミアを叩き起こすと、2人は事情が飲み込めないものの、何も言わずついてきてくれている。
「さ、先ほどは、良く相手も見ずに、も、申し訳ありませんですわ」
「エーリカ様、その、相手に怪我が無かったことをまずご心配なされた方が」
と、ごにょごにょ会話をしていたが、俺のばんぺん君は割と不慮の事態でもオートガードをしてくれるので、実はノーダメージだったりする。
もちろん、この2人の前ではばんぺん君ではなくて、みえない君にしておいたが。
そうして、カレンとリルを迎えに行った。
部屋から出る瞬間、カレンに余計なことをするなよ、と視線を送る。 何時ものノリで飛びついたりじゃれついてきたりすると、脱出劇が茶番になっちゃうからな。
と思ったら弟であるリルがしっかりと姉であるカレンの手を引いて、黙々と同道してくれているので、カレンも何やら緊張をしているように見えた。
最初に起きた爆音から、組み立てたストーリーとしては、突如の襲撃があり、砦に残っていた盗賊たちは見張り共々、迎撃に当たっている最中、となっている。
罵声を上げながら襲撃に備える盗賊たちの目を掻い潜り、俺たちは地下牢を目指した。
ちなみにではあるが、本当に襲撃は起きている。 元同僚達が生きる死体となって、迎撃などものともせずに砦に向かってきているのだ。
夜明け前の暗さも手伝って、外ではパニック映画かホラー映画かと言わんばかりの阿鼻叫喚の地獄が繰り広げられているに違いない。
味方のはずの最初の9人が知性ある死体ともいえる不死者となって、彼らゾンビーを操っているので、無駄なく砦に生き残っていた80名ほどは同じようなゾンビーへと変えられていくだろう。
まあ、この辺りは謎の襲撃として、うやむやにしながら俺たちは棚ぼた的な幸運で助かった、とそんな結果にしたいのだ。
見つからないように、と息を殺し、身を隠しながらようやくと辿りついた地下牢で俺は、偶然落ちていた鍵束を発見、ヴィンガストを無事助け出すことに成功した。
もちろん、今晩の地下牢や、カレンたちの部屋だったり、檻だったりしたところに見張りで立っていたのは、不死者となった最初の9人だけれども。
さも偶然のように鍵束を見つけて、手枷足枷を外してやるとヴィンガストは手首を回しながら、静かに礼を言った。
俺はにやりと笑い、ヴィンガストのものである剣を異界から取り出して、手渡してやる。
「今度こそ、俺たちをちゃんと守ってくれよ」
「承った」
そういうと、ヴィンガストは自分の剣を受け取って、少しだけ顔を顰めた。
あ、ごめん。
異界って所謂、触手の肉壁に覆われた、エロ空間だからさ、本来は。 謎液体とかでべちゃべちゃになるんだよね。 だから俺も自分のものとかはあんまりそこに収納したくないんだよね。
等と口には出さないけれど、心の中で謝罪をしていたら、ヴィンガストがきゅっと口端を引き締め、俺に向かって頭を下げた。
「部下達の剣、礼を言う。 騎士にとって、剣はその存在の象徴、なんだ」
そうして、頭を上げると、柔らかく笑うヴィンガストの顔があった。
部下を死なせてしまった悲しさや悔しさもあるだろうに、生者に向けて礼を言う顔としては最上のものだろう。
笑えば良いと思うよ、なんて使い古された表現ではあるけれど、その柔らかな笑顔に俺はただ、笑顔で返すだけだった。
……
…………
さて、脱出行は上手く行ったか行かなかったかと言えば、おおむね、上手く行ったと言える。
悲鳴絶叫渦巻く砦を、偶然にも誰にも見つかるとも無く、混乱の隙を突いて脱出できた俺たちは、リルのこともあり、一路湖エルフの住まうバレンダン湖に向かうことにした。
早朝から、走り詰めであった俺たちは、盗賊たちの追っ手が無いことを確認しながら、森林の中の小川のほとりで休憩を取った。
火はさすがにおこせないが、水を飲んだり、昨晩からの汚れを落としたりは出来る。
こうして、各々が休憩に勤しんでいるのを見ると、全員に怪しさは無い。 となると、あの時、あの場で馬車の中のメンバーが突如、眠りに陥ったのは別の要因があったのだろうか。
目の前で小川の水を器用に操っているリルを見ながら、あの時の状況を思い出そうとする。
実はちょっと眠いので、中々考えがまとまらないのもあるのだが、そういえば、とふと気になったのでリルに声を掛けた。
「リルのそれは、魔法なのか?」
「はい、ケイ姉上、これは湖エルフ固有の魔法です。
人族達はエルフの使う魔法を総称して自然魔法と呼びますが」
湖エルフの使う魔法、それは水さえあればその形を自在に操れるという魔法で、森エルフが、木々や草蔓を操ったりするのもエルフ固有の魔法だそうだ。
エルフ固有の魔法は、召喚術じゃないんだ、と考えていたら、カレンがそれはハイエルフ固有の魔法ですね、と補足をしつつちゃっかり俺の隣に座る。
「お姉様。人族の使う魔法はエルフ固有の魔法ほど強力ではありません。
ですが、火をおこしたり、水を浄化したり、土を硬くしたり……人族は自然から離れても生きていく力を魔法と、それを道具に込める術であっという間にその勢力を広げたのです」
「炎の玉を投げたり、石つぶてを投擲したりは出来ないんだろ?
でも、聖騎士みたいに肉体能力を底上げしたり、眠りを誘ったり、魔法ってよくわからねーなぁ」
「エルフやドワーフに取ってみれば、魔法自体が、自然、在るものを利用する力ですからね。 魔法の探求自体、禁忌とされているんです。
ですが、人族はその禁忌を恐れず、時に自然を曲げてでも、魔法を探求します。
肉体能力の底上げなど身体に呼びかける魔法は法術と呼ばれ、ヴァレネイにしか流通していない技です。
契約魔法だって然り。 人族はろくなことをしない!」
契約魔法の辺りで、カレンがぎゅっとこぶしを握り締める。 顔を下向けて、何か耐えるようにしているのはリオーマンでの過ぎし日を思い出してのことだろうか。
あ、過ぎし日って言えば。
盗賊の頭目に掛けていた精神と肉体の"日にち飛ばし"、解除するの忘れてた。 いかんいかん、解除しておこう。
あちゃー、身体が魔物に変わるまで一気に進めちゃおうと思ってたんだけど、こりゃ、肉体自体が朽ちてるくらいまで時間経っちゃったかなぁ。
ただ、カテゴリ的には不死者になるはずだから、んー。 スケルトン、っていうより、リッチーみたいな感じになってるかもしれない。
まあ、それの方が、不死者の王ぽくて良いかな、と能天気に考えていたら、突如、四方からものすごい数の威圧を感じた。
威圧を受けて、ヴィンガストやエーリカ、ユーフェミアが俺達の元へ集まり、自然、ヴィンガストが皆を守るように一歩踏み出す。
「同志リールトリリール・バルペミカ・レル・バレンダインよ。
人族と行動を共にする理由を聞かせてもらおう」
凛々しくも、拒絶の響きを載せて、森の奥から、一人の……背の高い女エルフが現れた。
俺たちは、何時の間にか、四方全てをエルフ達に囲まれていたのだった。
今週末はきちんと更新するよう頑張ります。
言っておかないと甘えちゃいそうですので、厳しく!
ということで、誤字脱字誤用のご指摘、感想お待ちしています!




