4・「今は亡国となってしまいましたが」
次話、投稿します。
夜が明けて4日目。
実に4日ぶりである大地を踏みしめ、俺は仁王立ちをしていた。
なんとなくお尻の穴が締まらないような、ふわふわした浮遊感を残しながら、俺は高らかに宣言した。
「ケイ、大地に立つっ!」
まあ、こんな腕組み仁王立ちで、かの白い悪魔は立ったわけじゃないけれども。
これじゃあどっちかっていうと、超光速万能大型変形合体マシーン兵器ぽくある。
BGMには是非、マーチ的なものを推挙したい。
ともあれ、隣であざとい可愛らしさを全開にしながら、首を傾げるカレンに、咳払いをしながら、ついでに、聞いてみた。
ついでであって、けして恥ずかしさを誤魔化したわけじゃないことは、理解していただきたい。
「カレン! カレン?」
「はいはいっ!お姉様っ!」
「すっかり聞きそびれていたんだけど、この船の先頭についているあれは、ナニカナァ?」
さすが王の乗る船だと言うべきであろうか、立派な木造の船体の先頭についているのは、まさしくドラゴン……ぽい何か!
魔法があるくせにどわーもぶわーもしない上、魔王も魔物も居ない、ついでにハイエルフは1000年も前に絶滅?してるし、これこそ異世界なところを存分に示してくれよ、ドラゴン君! ぽい何か……
んー、と人差し指を唇にかざして、再び小首を傾げるエルフ、カレンだけでも取りあえず、異世界分はいいんじゃなかろうかと思わなくも無かったが、仁王立ちからの腕組みのドヤ顔で立ち続けるのも苦になってきた。
カレンさん?
そんなに答えに窮するものなのですか?
「ほら、ドがついて、4文字でー」
「ドー?」
「そうそう、ド、ド、ド」
「ド、ド、ド、ド、ドブゲラ!」
「じゃねぇよ!
なんだよっ、ドブゲラって! ブブゼラの姉妹品かっ」
ぱこぉんと乾いた音を立てて、ぺらぺらに伸ばして重ねた万能はりせん型ばんぺん君が大気を震わす。
痛い、と軽く涙目で訴えてくるカレンに、罪悪感を覚えつつも二つ目のヒントを出してみる。
「違うだろ! 最初がド、最後がンだよ! んで、4文字っ!」
「えー」
「ほら、もいっかい。
ド、ド、ド」
ドのリズムに合わせて首を左右に振ってみる。
釣られてカレンも首を振る。
先ほどからの様子が微笑ましいのか、荷物を降ろす船員や騎士達が肌温度的な温さの笑顔で俺達を見守っているのが恥ずかしい。
いや、これは俺の正常なる異世界ライフの為なんだっ!
「ド、ド、ド……ドキュン!」
「悪かったな!ドキュンでっ!」
すぱぁん。二度目のアタック。
「"ドキュン"は湖エルフの郷土料理の名前ですぅ……」
はたかれたところをさすりながら、本格的に涙目になったカレンが愚痴を吐いた。
ああ、そうなのね。ドキュン……ドキュンね。どんな料理なんだか。
ていうか、じゃあ、ドブゲラってなんだよ!
そもそも、あのドラゴン的な何かは、料理に類するものなのか!?
「いや、もう、あのさ! ド・ラ・ゴ・ン! あれはドラゴンだろ、まごうことなく!」
指された指の先にドラゴンぽい何かの像。
「えー。あれは、この国に伝わる怪物、蛟、もしくは水主を象ったお守りですケド……」
「えぇぇぇぇぇ」
もはやため息しか出てこない。
ついでにこれまでの徒労が故に、魂すら口から出そうである。
「つまりは、蛟竜じゃないの?」
「コーリョウ?」
やべぇ、伝わってない、ていうか音しか分からないってことは、俺の身体に刻まれたという翻訳の術式がその単語だけ機能していないってことだ。
「コーリョウやドラゴンは分かりかねるが、あれは確かに蛟を象ったものだな!」
恭しくもマールレーンの手を引いて、船からエスコートをしたガートフェンザーがニコニコしながら俺達の会話に加わる。
「ま、俺が最強の蛟を想像して設計図を描いたからな!
どうだ、どこにも無い独特の造形だろっ!」
うははは、と言わんばかりに笑い声を立てるガートフェンザー。
あれか、ぼくのかんがえたさいきょうのドラゴン、もとい、みづち、ってか!
「うう、元の絵姿とは似ても似つかないせいで、カレンはお姉様に叩かれるはめに……でも、それも気持ちいいかも……」
カレンがいよいよ吐息を荒くする頃、船では全く絡みの無かったヴィンガストが言葉少なくフォローをした。
「この国は川と湖の国でな。数多ある水の恵みは時に共に暮らす人々に牙を剥く。
それを猛り狂う蛇に見立て、蛟と呼んだことに由来する」
えぇー、そんな民俗学で良くあるよね、みたいなオチを付けられてもっ。
「この国の歴史を見ても、猛り狂う蛇を退治したとしたという英雄王ガストラーンや、蛇に自らの命を捧げその怒りを鎮めさせたという悲劇の王女メルレインなどの物語が並ぶ。
それくらい、この国の常識だからな、恥を掻かないよう後で書物を貸してやろう」
そう言って、俺の頭をぽんと叩くオーネイに歯軋りをしながら、地団駄を踏んだ。
そうして、なにやら恍惚の表情を浮かべるカレンにその横にハテナマークを立てつつもニコニコと立つアンジェロ、未だ地団駄を踏み鳴らす俺だけが取り残された今、俺は誰にも聞こえないよう呟いた。
「異世界なのにドラゴンが居ない件について、説明できる責任者出て来いっつーの……」
なんなら、土下座が得意な神様でも良い、とにかく、俺のときめきとか、そんなものを返してくれよ……
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さても、俺の精神的ダメージが幾分かは回復してきたので、カレンとアンジェロと共に、湖エルフの料理というものを聞きつつも、荷降ろしの終わった本隊に合流しようとした時である。
「ガートフェンザー王っ!」
凛々しくも、テノールの甘い高い音程で奏でられる呼び声と共に、きゃあきゃあ、かしましい黄色い声がして、ざわっという騎士や人夫の戸惑う低い声が重なる。
はぁ、とため息をつきながらも、俺達の一行とは別の、きっとお迎えに来たのであろう一行へと目を向ける。
もう、ここまで来ると嫌な予感しかしないのは何故だろう?
その視線の先に居るのは、ガートフェンザーのブラウンの髪に対して、それを更に明るくして、金髪? いや、ちょっとくすんでるかな? くらいのライトブラウンな髪をした色男。
色男っていうぐらいだから、その周りには、取り巻きでございといわんばかりの、美女博覧会。
中でも最も目立つ金髪縦ロールのお嬢様な美人さん、その周りには有象無象の美人さん達……まあ、どれも絵姿で言えば、ギャルゲの攻略対象かっ、ってくらいのきれい、可愛い、あざとい、ボーイッシュ、様々取り揃えております、女の子たちをはべらせての登場をした色男に対して、自然と身体を強張らせる。
あれが、無意識でも才能だし、無意識でなくとも才能だ、そう感じざるを得ない。
けして、それがこちらに向かないことを祈りつつ、俺はぎゅっと左上腕に絡みつく腕の力を強くするカレンを抱いて事の成行きを見守った。
「おお、ウェルトシール!
迎えに来ずとも、良かったのに。
……心配をかけたな、弟よ」
慈愛溢れる目で、かの色男を歓迎するガートフェンザー、対するウェルトシールと呼ばれた色男は冷ややかな目でそれに応じた。
「ガートフェンザー王。
今、この国の、エベンデリスの現状を把握しておいでか。
正体不明の"喰らいあう双頭の水蛇"なる盗賊団が幅を利かし、一度は退けた西のノーファーが水面下で戦力を増強する動きがあるというのに!」
まるで視線だけで射殺さんとする勢いのウェルトシールに珍しく、ガートフェンザーがたじろぐ。
しかしながら、オーネイもヴィンガストも我関せずとばかりに口を閉ざしているのを見ると、これはままある光景なのだろうかとも思う。
アンジェロはこの光景に俺の袖をぎゅっと掴み、カレンは……え、ちょ、なんで吐息を漏らすの、言葉責めも良いの!?
彼の言葉に、お姉様にもああいう風に責めて欲しいとか、妄想駄々漏れで呟いている。
アンジェロに聞こえないくらいの小さい声だから良いけれど、ドン引きだよ、百年の恋も冷めるよ、やめたげてよぉ。と思わなくも無い。
各々がそのシーンにただ狼狽しているだけだったが、意を決したようにマールレーンがすっ、と彼らの前に歩み出た。
「ウェルトシール様、お久しぶりでございます。
今は亡国となってしまいましたがリオーマンが第一王女、マールレーンでございます」
"亡国"の辺りでマールレーンがそっと瞳を伏せる。
長い睫毛を震わせて、それでも気丈に振舞うさまは周りをして思わず作業の手を止めさせるほどの美しさがあった。
「あ、ああ、義姉上殿、ひ、久方ぶりで……その、美しくなられた……っ、じゃなくっ。
此度の凶事、誠に何と言ってよいか……」
猛り狂うウェルトシールもたじたじである。
マールレーンは、俺や……いや、自分のことをそう言うのも何となく釈然としないので、カレンが美少女と行く先々でもてはやされる中にあって、美女というべきカテゴリに属している。
俺は中身が男だからがさつだし、カレンは俺以外に対してはどちらかというと壁を作って人の、特に俺の後ろに下がって前に出てこない。
マールレーンは、アンジェロや俺が人の中にあって目立つ立ち位置に入る中で必ずアンジェロの背中をそっと支えるかのような位置に居る。それも気付かないうちにだ。
可愛い弟を支える、しっかりものの姉という構図なのだが、それでいてアンジェロを守らなければならない時には凛々しいまでの態度で臨む。
美しさと強さを併せ持つ、そんな女性、それがマールレーンだ。
その彼女が故国でのあの痛ましい出来事にも関わらず、耐え忍んでいる。
その上で、未来の夫を支えようとするその健気な姿勢に、この場に居る誰もが責めることも出来ず、ウェルトシールは結局親愛の例の通過儀礼をマールレーンにして踵を返したのだった。
けっ、色男は何をしても絵になりますね、爆発してしまえ。
と考えていると案の定、ウェルトシールの視線がこちらに向いた。
おいおい、ぼーっと突っ立ってガンくれてんじゃねーぞ?
そんな気合で、その視線を真っ向から受け返してやる。
この身体の身長は元の世界より10cmほど低いため、この世界の成人男子どもを見るときは大抵、視線が上向きになってしまうのが難点だ。
全員がアンジェロやディオネーズくらい低ければ、良いのにと思いつつ、ちんぴらと思われないよう、あごは引いたままで視線を上向きにするのに疲れてくるので、一旦視線を外す。
なんかにらめっこに負けたみたいで、恥ずかしくなってきて頬が上気してくるのが分かるが、知ったことかと言わんばかりに横を見る。
そうすると、カレンさんが俺の腕を握りつぶさんとするくらいの勢いで強く締め付けて、眼光を鋭くしているのが見えた。
やばい、これまた何時ものパターンや。
そう感じた俺は、即座にカレンの身体、服の下にみえない君を這わせ、不自然にみえないように張り巡らせる。
俺の作り出した異界で、存分に触手の責めを受けたカレンはこの初動だけで既に膝を震わし、腰砕けになりそうになっている。
「おっと」
へにゃへにゃになったカレンを支え、ウェルトシールがこちらに向かってくるのを横目で確認すると、カレンの身体を預けるようにしてアンジェロへそっと放り投げる。
「あぁんぅ」
色っぽい声を出して為すがままにアンジェロに身を預けるカレン。
その声に、すっかり力が抜けて全てを預けるかのようなカレンの身体に、茹蛸のように真っ赤に茹で上がるアンジェロ。
それをからかってやりたくなるのをぐっと堪えて、俺は再びウェルトシールに向き合った。
俺が向かい合うことで、歩みを止め息を飲む、かのようなウェルトシール。
そう見えたのもつかの間、先ほどガートフェンザーに見せていたのと同じ、苦虫を噛み砕いたような厳つい表情に戻ると口を開いた。
「そなたらが、かのリオーマンの聖女殿か。
そなたらの国も大変であったが、現在、わが国も予断を許さぬ状況を幾つか抱えている。
アンジェロ殿や義姉上殿と同じく国賓として王城までは来ていただくが、あまり目立った行為は自重していただきたい。
有体に言えば、問題を起こさないで欲しい」
「あら、お気遣い無くとも、場所さえ教えていただければ、先代の聖女がカレンの故郷、湖エルフの居る地にでも行って引きこもっておりますのに?」
売り言葉に買い言葉となっていないか、少し心配ではあるが各々のフィールドにこもっている方が健全だろう。
そう思っての一言だった。
「だめだ。
湖エルフの居留地、バレンダン湖は西のノーファーとの国境にある。
加えて、湖エルフは人族の争いに徹底して沈黙を貫いているが故、それを刺激するような真似は止めていただきたい」
それだけ言うと、ウェルトシールはさっさと視線を外して、周りの騎士たちに幾つかの指示を出し始めた。
なんだよ、別に俺だって文句を言うつもりも無いのに。と、言いたいことだけ言って次の行動に入ったウェルトシールに漫然とした不満を覚えつつも俺は腕組み王城に向かうという馬車を待った。
ちなみに腰砕けになったカレンは再び俺に返されている。
アンジェロはマールレーンと共にガートフェンザー、ウェルトシールの乗る馬車に連れられていったからである。
王族が乗る馬車なのだそうだ。
あ、あと、ウェルトシールはガートフェンザーの弟、王弟というやつらしい。
さて、俺の横で恍惚とした表情を晒しているカレンはしかし、俺のばんぺん君による触手スーツとでも言うべき全身を包む衣服によって、強制的に支えられている。
衣服に見えるように擬態しているだけで、まあ、実情はエロゲやエロ本にある、調教用の責め具と変わりない。
というか、調教としての機能、触手さんたちの本領はむしろオフにしているのに、どうしてカレンは戻ってこないのか。
つらつらと考えているとようやくと騎士が俺達の馬車に案内をした。
そこには、果たして先ほどウェルトシールと共にやってきた有象無象の美人ズが待っていた。
その中の一人、リーダー格と思しき金髪縦ロールの、お嬢様がずいっと前に出てくる。
きっとした釣り目に、余裕の笑みを湛える小さい口元、お人形さんのようながらも自信に満ち溢れた立ち姿は、まるで乙女ゲーのライバルキャラのようだ。
「貴方がたが、かの聖女と名高きエルフですの?
……なんだか一人は上の空ですし、もう一人は、立ち姿から表情までがさつですわね。……美しさはこの世の物と思えないくらいですが……
私達”サロン”が皆様を王城までお送りさせていただきますわ」
おーほっほっほ、と笑わないだけまだテンプレじゃないなと思いつつ、綺麗な扇子で口元を隠しているのに、そこはかとない上品さが漂っているのが様になっているなぁと思わずため息を漏らす。
「ため息などと……ウェルトシール様が居ないだけで、随分な態度ですわね」
「いやいや、がさつな私に足りないのが、貴方のような上品さかなーって、ね」
「なっ!」
あれ、なんかやっちゃった?
いちおう、褒めたつもりなんだけど。
と思っていたら、美人ズ、どうやら”サロン”という集まりらしい、その中の一人、中にあって地味目な赤毛の女の子がおずおずと近寄ってきた。
「エーリカ様、馬車の準備が整いました」
どうやら出発の時間となるらしい。
金髪縦ロールはエーリカというらしい。家名はまだ分からん。
「ありがとう、ユーフェミア。
って、行きと同じく一台で準備をさせまして?」
で、地味目な赤毛ちゃんが、ユーフェミアだ。
エーリカの指摘に少しおどおどしている。
「ええ、特に何もご指示ありませんでしたので」
「なんてこと!
6人が精々の馬車に、我々サロンのものが護衛合わせて9人も載るなどと!
行きと違って、3人も増えているのですよ?
ユーフェミア、至急、もう一台を手配して頂戴」
「は、はい!
しかし、エーリカ様、そのぉ」
「ああ、もう! 田舎の男爵では召使もおりませんものね。
良いですわ、私の執事にお話しなさいな、本隊が出てしまう前に手配するよう、厳命するのですよ!」
エーリカの言葉に周りの娘たちが、くすくすと笑う。
別に田舎だとか、男爵だとか、言わなくても良いだろうにと思いつつも、まあ、きちんと解決方法を示しているので良いかと我関せずな態度を取る。
このエーリカ、きっとあれだ、一言多いタイプなんだろう。
って、何故にカレンは俺を見るのか。
お前は何時の間に、こちらの世界に戻ってきたのか。
俺も一言多いタイプだけどさぁ。
「皆様。
それでは、ユーフェミアが馬車の手配をいたします。
私とユーフェミア、こちらのエルフのお二人にヴィンガスト、この5名で後の一台に乗りますので、皆様は先の一台にお乗りになってくださいませ」
気を使ったのか、嫌がらせなのか、俺は勝手にエーリカと共に後発にさせられていた。
王城までどれくらいか分からないけど、無事に着くといいなぁと思いつつ、俺はそっと吐息した。
今度こそ、気取られないように。
一週間に一度の更新しか出来ておりません、申し訳在りません。
誤字脱字、誤用ご指摘お待ちしております。
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