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異世界喚ばれた俺のチートがエロ本召喚  作者: うただん
第三章・異世界なのにドラゴンが居ない件。
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3・「ありがとう、ケイ」

次話、投稿します。

 俺は今、俺を目の前に正座をさせて、腕組みをして立っている。

足は肩幅に開いて、いかにも怒ってます風な格好だ。


「あのさぁ。

 俺、今、気絶したんだよね?

 これで敵前だったら、詰みですよ、詰み。

 分かってる? アンダスタン?」


申し訳なさそうな表情でこくこく頷く俺。


対して、説教かましているのも、俺だ。


俺といってもこっちの世界に来てようやくと慣れてきた女エルフバージョンの俺だ。


なんだ、このシーン。


やっておいてなんだが、そんな台詞が思い浮かんだ。

まあ、さておき。なんだ、今怒っているのは俺で、正座しているのも俺で、じゃあ神妙に反省してますといった表情をしているのは、誰だ。

白昼夢に漂っているような感覚に囚われたその時、俺はまた、どこかの時代のどこかの場面に飛ばされた。


深い森の中。


森、というより林、木もまばらな、精霊の加護を受けていないような、"不快"な場所。

直感によってのみ、その不快さを感じながら、俺は息急き切って走っていた。

今の俺よりも少しだけ高い視線。

今よりも長い髪が揺れ、大きさを増した胸が千切れんばかりに揺れるのも気にせず、俺はただ逃げていた。

後悔、怒り、惨めさ、憎さ。色々な、といっても負の感情ばかりを持って走る。

喉からは、喘ぐように吐き出される不規則な息と、誰かへ助けを求める、祈る呼び掛けのみ。


そうして、転倒をする。

暗い森に、地面に目まぐるしく視点が変わる。

次の瞬間。


俺は、あろうことか、人族の男共に組み敷かれていた。

泣き叫ぶ、助けを呼ぶ、あらん限りの抵抗を試みる、そのどれもが無為に終わり。

俺は、男共の欲望の的となり、まさしく蹂躙された。


終わりが無いように見えた陵辱の時間が何時の間にか終わり、空が白んでくる頃。

辺りは赤一色に染められた。俺を襲った男共が、およそ人死にとしてはあまりに凄惨な方法で屠られた為だ。

滂沱の涙を流す、兄と慕っていたエルフの腕に抱かれ、俺は力無くその涙を拭うと、自ら、意識を手放したのだった。


……

…………


「諦めるなよ!諦めんなよ、俺!」


びくぅと俺の身体が跳ねた。


もう、ここにはもう一人のエルフも、男共の骸も、森も無い。


俺が、俺を説教する、あの場面だ。


「どうしてそこで止めるんだ、そこで!! もう少し、頑張ってみろよ!

 駄目駄目駄目っ、諦めたらっ!

 周りのこと見てみろよっ、誰か分からんけど心配してる人のこと思ってみろって!

 もう、あとちょっとのところなんだから!

 諦めんなっ!」


いかんいかん。

ついノリで熱くなりすぎた。

少しだけ冷静になって、深呼吸をする。

 

「諦めたら、そこで試合終了ですよ」


畜生っ、試合って何だよ! 誰と戦ってんだよっ!

そんなやっちゃった感満載な台詞の後、俺が笑う。俺が笑った。


あ、もちろん、説教されてる方の俺ね。

その時。

声が、聞こえなかったはずの声が、突如聞こえた。


……ありがとう、ケイ……と。


静かな波の音が耳を打つ。


俺はゆっくりと瞼を上げると、カレンの舟を漕ぐそのあどけない寝顔を正面に認めた。


「カレン、ありがとな」


そっとその頬を触ると、カレンはむにゃむにゃと寝言を言いながら、涎を……


「って、うぉぉいっ!」


光速もかくやと言わんばかりに、俺は涎の直撃を避けるように跳ね上がった。

なんという罠か。


「あ、れ? お姉様?」


ぐしっと涎を拭いながら、カレンが目を覚ます。

途端、俺の中で、『うっひょー、美エルフ姉妹の体液の交換とか、ちょ、写メ、写メ、この画、良いなぁっ!』と思う心と、カレンに心配を掛けたことを申し訳なく思う心の二つがあることに気がついた。


「え……」


問題は、カレンに心配を掛けたことを申し訳なく思う心が果たして、自分のものなのかどうか。それが確信できる程の根拠を、俺が持たないことだ。

そんなこんなで混乱する俺は、目尻から自然、零れた涙を無造作に拭いとる。


……よろしくね、ケイ……


それは、この世界で一番最初に自己紹介した時に無意識に聞いた声、或いは魔法陣の輝きに紛れて意識の外にあった、真なるこの身体の持ち主の声、か。

この身体は年齢的なものから、あの夢に重ねた自分と同一ではないだろう。

だが、あれは実際にあったことだと確信しているし、この身体のベースとなった”誰か”の存在もおぼろげではあるが感じ始めている。

その残滓みたいな、儚く響く"自分"の声を聞きながら、俺は背筋を起こしてカレンに向き合った。


「カレン、俺にエルフのこと、色々と教えてくれないか?」


□■□■□■□■


「じゃあ、ハイエルフっていうのは、エルフの祖先みたいなものなのか?」

「そうです。ハイエルフの8氏族から私達エルフは枝分かれをしていったと、聞きました」

「それは、カレン様の故郷でですか?」

「はい、アンジェロ様。あの、アンジェロ様。

 アンジェロ様はお姉様より勇者の称号を受けたのです。カレンなど、呼び捨てで構いませんよ?」

「カ、カカカカ、カレン……さん」

最後は尻すぼみになりながら、顔を真っ赤にしたアンジェロが初恋相手であるカレンに一生懸命アプローチをしている様子が微笑ましくて思わず、によによしてしまう。

ふわぁとかわいらしいあくびをしたアンジェロに、オーネイが寝所に行くことを促している。


「カレンみたいに湖だったり、例えば、森だったり、ハイエルフってのは普通はどこに居るんだ?」


同族となれば、もしかしたら召喚術も詳しいのかもしれない。

そんな軽い気持ちでカレンに問いかけてみたものの、カレンの表情は晴れない。


「元々は、南大陸のリ・ミリノー大樹海に居たとされています」

「されています?」

「はい。ハイエルフが歴史上、その存在を確認されているのは、1000年も前に遡るからです」

「1000年?」

「ええ。1000年です」

「余が知る限りでは、1000年も昔にあって今も歴史に残っている事柄といえば、魔王の物語ぐらいしか……」

アンジェロが物知り顔で言う。カレンは先ほどから顔を上げない。

「アンジェロ様、魔王の物語として語り継がれるその歴史は同時に、人族とエルフ族、それにドワーフ族とがお互いの袂を分かった歴史でもあるのですよ」

オーネイがアンジェロの肩にそっと手を置いた。

息を飲むアンジェロ。

それは、人族とエルフがこの場に同席する今、出すべき話題では無かったのかもしれない。

「ま、1000年も昔のことだ。

 お日様だってこの世界を中心に回ってるくらいの間違いがあって当然の昔だろ。

 今の俺達にゃ、笑い飛ばせるくらい昔さ」

なんて冗談めいて言っては見るものの、エルフって長命なんだよなぁ、と今更ながらに自分の空気の読めなさを恨んだ。


「え、母たるこの大地が世界の中心に決まってるじゃないですか?」

「ケイ様……そのような当たり前の話を間違いなどと……エルフ族はもしやそのような世迷い事を」

「エルフの聖女よ……如何な世間知らずとて、それは余りに……」


え、なにこの可哀想な子を見る包囲網は。

月の満ち欠けとか、ええと、あれだ、他天球にも衛星がある理由が、ってそこまで見ることの出来る道具が無いってね。

取りあえず、先ほどの話題の気まずさからは脱却したけど、俺の株は下がりっぱなしらしい。

何時か証明してやるからな、と異世界で無駄に使命感を抱く俺だった。


さて。

俺が気を失っていた間、フラッシュバックしたあの映像ほどの時間ほどは経っていなかったようだった。

アンジェロとオーネイが剣の手ほどきを終えて、そろそろ寝ようかと引き上げてきたと同時に俺は、目を覚ましたらしい。

膝枕での覚醒から、涎を避けての緊急退避までの一連を見て、冷ややかな一瞥をくれたオーネイではあったが、俺がカレンにエルフのことを聞いたことに興味を引かれたアンジェロの身を慮って同席するだけの優しさは残っていたようだ。

俺は俺で、寝起きではっきりとしない状態での流れだったが為に、らしいとかようだとしか言いようが無いのだが、それでも俺は、今の状態を少しでも把握するべく必死だったのだ。

オーネイから、疲れて転寝してしまうくらいならば、明日にでも聞けば良かっただろう、あれではアンジェロ様も可哀想だ、と明くる日に小言を言われるはめになってしまった。


さておき、エルフのことである。


「こほん。

 俺が、そのハイエルフだとして、それは他のエルフとは人目で分かるような違いがあるのか?」


そう、カレンが俺をハイエルフだと断じたのには何かそれと根拠付ける理由があるはずだ。


「ええ……そうですね。

 ハイエルフは、まずその白く透き通るような肌に、何にも染められない輝く銀の髪を持つといわれています」

「ほう」

「ですが、枝分かれをしたエルフの中には先祖返りとして時折、そのような肌や髪の色を持って生まれてくる者もいます」

「じゃあ、俺はそれなんだろ」

「いいえ。

 お姉様の使う召喚術、人族風の言い方をすれば召喚魔法でしょうか。それが使えることこそ、ハイエルフ足る確固とした証拠です」

「人族だって、召喚魔法を使うんじゃないのか?」

エリオースは俺の魂を召喚したと言っていたが、まあ、あの変態(エリオース)のことだ。

あれは人族としては埒外にあります、と言われればそんなもんかと納得しようもあるのだが。


「人の使う召喚魔法などは、精々武具や道具を呼び出す程度だな」

ここで、腕を組んで我関せずな態度を取っていたオーネイが突然口を挟んだ。

「リオーマンで多く使われていた契約魔法などはそういう使い方でした!」

きらっきらの笑顔でアンジェロが言う。

「契約魔法とか、召喚魔法とかって同じ結果のくせに言い方が違うのか?」

「厳密に言えば、契約魔法と召喚魔法では、召喚される物の在り様が変わる。

 その辺りを詳しく研究しているものも居るには居るが、学問と呼ぶには程遠いものでな。

 これが正解、これが正しい呼び方だ、とは言えぬのが実情だ」

妙に饒舌になったオーネイを半目で見遣ると、向こうもそれに気付いて鋭い視線を向けてくる。

だがすぐにぷいと背けてしまうあたり、初対面での敗戦がトラウマか何かになっているのかもしれないと思いつつも、俺は更なる疑問を投げかける。

「まあ、呼び方は分かった。

 だが、エルフ、いや、厳密に言えばハイエルフの召喚術は人族の使う召喚魔法とやっていることは一緒だろ?

 それだけで、ハイエルフ固有の魔法なんです、っていわれてもな」

「だって……」

少し、考える素振りとしたカレンだったが、小さな口を大きく開けて、あくびをした。

「ふわぁ。

 そうですね……カレンの考えすぎでした。お姉様、夜遅くまで申し訳ありません。そろそろ、寝所に向かいましょう!」

先ほどのあくびは何だったのかと言わんばかりに元気良く俺の腕をつかんで立ち上がったカレンは俺の背中をぐいぐい押して船室へ向かおうとする。

「お、おい。カレン、ったく……

 じゃあ、アンジェロ、後ついでにオーネイ、また明日なっ!」

そう言って、我々もと言わんばかりのオーネイと、少しだけ寂しそうにするアンジェロを尻目に船室に向かったのだった。


月明かりが窓の隙間から覗く寝室、マールレーンが既に就寝をしている中、俺達はベッドに腰掛ける。

一国の王女と同じ待遇で先代と今代の同盟国の聖女として扱われている為に、同室であることを幸いにカレンは何時もよりおとなしい。

何時もであれば、隙あらば抱きついてくる上に、その先を狙って手管を弄してくるカレンだったが、今日に限って言えば少し神妙な面持ちで俺の横に控えていた。


「お姉様」


ぞくっとするような静かな声で、俺の耳元に囁くカレン。

それは淫靡ではなく、本当に誰にも聞かれたくないことを告げるような繊細さで、囁かれた。


「お姉様のように、命そのものを創生し召喚するような術は、神の血族に連なるとさえ言われたハイエルフにしか為しえません。

 ゆめゆめ、その術の偉大さと存在の危うさをお忘れなきよう……」


「カレン、おま、ぇ、ぅっ」


言い終わる間も無く俺はカレンに押し倒され、覆いかぶさられた。

あかん、これ、貞操の危機だっ!

そう思ってぐっと目をつぶるも、何時まで経っても何もされないことに焦れて、そっと目を開けるとそこにはカレンの可愛らしい寝顔があった。


「ま、お約束、ってね」


そう呟いて俺は、緊急用にこんなこともあろうかと呼び出していたばんぺん君でカレンを起こさないよう、ベッドに寝かし直す。

そうして、カレンの最後の台詞を反芻した。


命の創生と召喚、それは確かに、ばんぺん君と概念召喚をして伝書鳩の作成をしてみたことがあるから可能なのだろう。

作成と言って良いものかは別として。それを言うのであれば、ばんぺん君も生み出す命の一つとも言えるし、ばんぺん君を作成する、等と確かに軽くは言えないだろう。

だが、ばんぺん君にしても鳩にしても、用事が終われば、無に帰る存在だ。

魔力の篭め様によっては、例えば今着用している……厳密に言うと寝る時は全裸になっているのだが、召喚魔法で呼び出すスク水なんかも半永久的に留めておくことが可能だったりする。

魔力や術によって存在を繋ぎとめられているものはたとえ命あるものであっても、命と呼べるのか。

その辺りが俺には良く分かっていない。

だから、カレンに神の所業の如く言われてもいまいち、ぴんと来ないのだ。

カレンがこのことをアンジェロやオーネイの前で言わなかったのは、この召喚術がみだりに知られて良い存在では無いということ。

それだけが理解できた。


体力が切れて、すーすーと寝息を立てるカレンの髪の毛を整え、俺はカレンの額に口付けをし、御礼を言った。


「ありがとな、カレン」

「んんぅ、お姉様、もっとぉ」


あどけない寝顔に似つかわしくない吐息と台詞を吐いたカレンをこつんと小突くと、毛布をかぶり俺も床に着いたのだった。


今だ、章のタイトルになっている話題が出てこない件について。

次話くらいで回収したいと思いつつ、先週は更新できずに申し訳ありません。

週末にはまた更新できるよう頑張ります。

誤字脱字誤用ご指摘お待ちしております。

もちろん、感想もお待ちしています。

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