3・「なんて、なんて破廉恥な格好なんだっ!」
次話、投稿します。
目の前に変態。もしくは、ド変態。
超ド級変態、あれか、超ドレッドノード級変態てことか。
そして、恐らくは、プロポーションだけは少なくとも完璧少女な俺。
東井 慶、異世界で変態を行った?キング オブ 変態、その人だ。
まあ、そろそろ現実逃避の自己紹介もどきはいらないだろう。
白スクに身を包んだ俺は、なんとも頼りない感覚に身を委ねながら、変態を見下ろしていた。
いい加減、鏡なり、水面なり、自分自身を確認できる何かが欲しい……
「で、エリオース、といったか。
俺は帰れるんだろうな?」
なんてことはない、ここで勇者様!とか、気まぐれで!とか言われようとも、俺は元の世界に帰りたいのだ。
来月にはコミケもあるし、欲しい新刊、新作も山のように残っている。
あ、来月には俺がメインで関わってた仕事の納期も一個あった、まあ、それはどうでもいいが。
ともかく、俺には元の世界に帰るべき理由がきっちりとあるのだ(きりっ)
と、多分だけど、いい感じの表情を決めて聞いてみたものの、目の前のド変態の表情は冴えない。
「え、えっと、その」
いわゆるしどろもどろである。
「いいから、はい、か、いいえ、で答えろ。言い訳は要らない」
この時点で、俺は嫌な予感がびんびんしていた。
まあ、白スク一枚では肌寒くて、鳥肌というか、肌に感じる寒気みたいなものがあったのは事実だが。
余談ではあるが、寒いと男も女も乳首は立つのね、とかそんな悠長なことをふと思ったことは内緒だ。
「は、はいぃぃ!」
「…それはどっちの"はい"だ?肯定か?返答か?」
我ながら厭らしい言い方だなとは思うが、この変態、恐らく俺の何かを待っているのだ。
そう、彼自身のM性を引き出す、なにかを。
残念でした。
簡単にはご褒美はあげてやらないもんね。
「元の世界に帰れるかというと、ですね…」
変態が数瞬、視線での駆け引きの後に折れた。
奴が覚悟を決めたそのご褒美とばかりに俺は、自分の視線の温度を一層下げた。
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エリオースの口が開く。
その口から、答えが紡がれるその瞬間だ。
壁一枚向こうに感じる、複数の気配、喧騒。
まあ、普通に足音と喧騒が聞こえただけなんだが、一瞬の沈黙の後、それは訪れた。
ッドッカーン、カランカランカラン。
月並みではあるが、爆発音だ。
扉をふっ飛ばしたのだろう、金具が散らばって落ちる音が少し癇に障る。
すでに気配は感じていたし、嫌な予感は半ばアラートのように俺につきまとっていたので、なんかあるだろう的な感覚でその爆発に備えることが出来た。
その備えは或いは幸運だったのだろう。
爆発音と共に薄暗い部屋は埃や煙でたちまちに満たされ、通常であれば身を固める他に無かったぐらいの惨状が目の前にあった。
「ちいっ」
とっさに身をすくめた変態の襟首を掴んで、爆発音の鳴った、恐らくは扉があったのだったのだろう壁面側からもっとも距離が取れる位置まで下がる。
これがファンタジーの常識を覆す、スタングレネードとか、銃器を使っての突入だったら、無理ゲーだっただろう。
とりあえず、いきなりの展開ではあるが、少しでも生存確率を高くするためには少しでも状況を良く見て、判断を早くしなければいけない。
ファンタジーとはいえここまで手荒な進入方法を試みる奴らだ、この後、魔法で突入ぶっぱみたいな状況は避けたい。
そろそろと身構え口元を腕で隠しつつ、目を顰めて白煙の先を睨む。
「おい、エリオース、念のため聞くがやつらは敵か?」
「ええと、敵、ですかね?」
ほとんど断定に近い疑問形だ。
まあ、変態の事だ、きっと敵が多いのだろう。
まさか、呼び出された俺がいきなり、敵判定を食らうことはないとは思うのだが、油断は出来ない。
「第5教区代表司教、エリオース殿は居られるか!
居られるのであれば、返事を!
我は聖騎士ディオネーズ、エリオース殿に異端の疑い在り、その審問故に参った!」
うわー。
生真面目系というかなんというか、そんなことを馬鹿正直に言わなくてもみたいな口上を上げて、一人白煙の向こうに立ちはだかる。
白をベースにしたフルプレートの鎧のふちには青色、その意匠は恐らく金であろう縁取りと茨のような文様、そして裏地が紫色のマント。
まあ多分、良いご身分な騎士様なんだろうな、と思わなくも無い。
が。
絶望的に背が低い。
うん、いや、年若いのかな、先ほどの声を聞く限り……
などと考えていると、ディオネーズと名乗ったその……少年が一歩足を踏み出す。
戸惑いもせずこちらに向かってくるあたり、自分の力量に相当の自信があるんだろうなぁとか思う。
まずは、様子見だ。
「抵抗は諦められよ。エリオース殿」
今の俺はこの変態の召喚に巻き込まれた被害者だ。
きっと、恐らくテンプレ的には見目麗しい少女的な存在であるだろう。いや、そうであって欲しい。
美少女はそれだけで武器なのだから!
と、ドヤァなんて顔に出てしまう前にいかにも被害者ですっ、みたいな表情を繕う。
「エリオース殿ほどのお方が、亜人の術に手を染め、夜な夜な怪しい儀式を執り行っているとの密告があった」
ジャリ。
ジャリ。
一歩一歩、歩を進めるディオネーズ。
ご丁寧に、これまでの経緯を説明しながら、だ。
エリオースは敵だといったが、問答無用にかかってこない分、こちらもどう出るべきか、考えあぐむ。
しかし、よく見ると、ディオネーズはフルプレートにフルフェイスの兜までつけている。
が、きっと顔が小さいのだろう、その兜の大きさとつけている鎧のバランスが絶望的だ。
だめだ、ここで笑っちゃいけない。
これはそういう番組じゃないんだ!
と、そんなことを考えているとあと数歩で俺が先ほどまで居た寝台にたどり着くその位置で、ディオネーズが立ち止まる。
こちらを凝視しているようにも見えるが、残念ながらフルフェイスの兜ではその視線、表情までは計り知れない。
「ば、馬鹿な。エ、エルフだと!」
はい、TSに続いて、エルフたん来ました!
「し、しかも!」
からのー?
「なんて、なんて破廉恥な格好なんだっ!」
ん、破廉恥?
あれ、もしかして俺の白スク水のことかい?
「人心を惑わす異教の亜人までいるぞ!
皆の者、すみやかに捕縛せよ!抵抗するなら武器の使用も止む無しっ!」
え、問答無用で俺まで捕縛ですか、そうですか。
抵抗するべく、新しいエロ本を呼び出した瞬間、途端に眠気に襲われた。
すでに襟首は離していたが、すぐ近くに居たエリオースはとっくに眠らされていたようだ。
視界の端に変態を見とめ、続いてディオネーズを睨みつけようとしたが、俺の意識はそこまでしかもたなかった。
ああ、こんなことなら、さっさとディオネーズの背の低さを笑っておくべきだったなあ。
そんな後悔をしながら、俺は冷たい石の床に沈んでいった。