2・「ド変態って呼んでもらって良いですか?」
次話投稿します。
よろしくお願いいたします。
なお、作中に登場するエロ本、エロゲのタイトル、著者、制作会社は全てフィクションです。モチーフはあったりなかったりしますが。
目の前にはエンドロールが壮大な音楽と共に流れている。
感動的なエンディングだ。
そうだ、ついに俺たちは悪の権化、ド・変態を倒したのだ。
世界は平和になったのだ。
と現実逃避もそこそこに、自分が今素っ裸であるという事実が急に恥ずかしさとなって襲ってきた。
けして現実逃避の為に、両手を広げて如何にもエンディングです!のような雰囲気のある表情を演出していたことが恥ずかしくなったわけではない。
ほんとだよ?
さておき、今手元には一冊の本。
さきほど、ド・変態に投げつけたのはコミケのカタログだった。
今持っているのは、先月発売されたばかりの蜂奈良美先生の最新刊だ。
理屈は分からないけど、どうも俺は漫画本が作れるらしい。
作っているのか、呼び出しているのかはわからないけれど。
手元に本が納まる度になんとなく喪失感を感じているので、ひょっとしたら魔法なのかもしれない。
理屈は分からないけど。
うん。
なんで生み出せるのが、エロ関係ぶっちゃけ、エロ本だけなのかと問い詰めたい。
いやカタログがいけるのであれば、ひょっとしたらエロゲとかも生み出せるのか?
パソコンも電源もないから、生み出せても意味が無いけどな!
はは、は!
………
………………
ここまで、1分弱。
俺は禁断のグッズを手にしていた。今まさに。ナウ。
この結果に目を背けるのは止めよう。
そう、俺の手元にあるのは、『でんせつのしろスクみず』。
なんとなく、ひらがなだけにすると装備品ぽくなるかなーと思ったら予想外にそう思えたので、そういうことにしておこう。
エロゲも難なく生み出せたまでは良かった。
さっき言ったじゃないか、素っ裸である事実が急に恥ずかしくなってきたと。
なにか着る物ないかなと思ってたところに、エロゲだよ。
初回特典に何故か白のスクール水着がついてきた「スク水学園2~伝説の白スク水を狙え!~」(すたじおアートフェスト作・2011年)を生み出すのは最早必定だろう。
と、色々と自分に言い訳しながら白スク水を着用する。
何故男であった自分がスク水を着る事が出来るかって?
そりゃ、自分もチャレンジしてみたからだよ!
スク水、猫耳カチューシャ、白ハイニー装着の、ガワラ立ちしたとある先生の画像を見たときに、ピンときたからさぁ。
人生、どこでどんな経験が役に立つか、わからないものだね!
うんうん。
「うひょぉぉぉぉぉぉぉ、その服はぁぁぁ」
そして、ド・変態が鼻血を滴らせながら、這いよってきた。
□■□■□■□■
げしっ。
這いよる変態の顔面を踏みつけて、睨み付ける。
あっ、変態にとってはご褒美だこれ。
「おい、変態、お前の名前は変態というそうだが?」
ふーっ、ふーっ、と鼻息荒く変態が器用に踏みつけられた顔面は足裏から外さずに何度も頷く。
おい、マジにこれご褒美だろ。こいつにとっては。
「俺の名前はケイ。こんな状況だ。俺も怒りはしない。まずは、落ち着いて説明をしろ」
その瞬間、俺が座っていた石造りの寝台の周りを光が囲う。
よく分からないけど魔法陣ぽいなにかだ。
自分を基点として、もしくはそれが自分が正しくその中央に居たから図形の中心を基点としたのかもしれないが、ある種の脈動のように光が流れ陣を描いたのだ。
それをファンタジーと言わずしてなんというのだろうか。
思わず、踏みつけていた足を下ろしてその風景に唖然とする。
異世界とか魔法とか、つまりはそういうことか。
「いや、あの……」
変態が言葉を濁す。
逡巡、のち、変態が立ち上がり襟を直す。
「こほん、いや私は確かに変態ですが、名前は『変態』で」
「同じだろうが」
「あ……れ……?」
なんて冗談のようなやり取りをすると、目の前の変態がぶつぶつ言いながら考え事をしだした。
「あっ!」
「なんだ」
変態が咳払いをひとつ。
「すみません、翻訳が行き過ぎまして。
私の名前は『エリオース』、古ラブラス語で変態という意味です。」
「ほう」
「で、私の名前はいくつかありまして」
「またの名を、って奴か?」
「まあ、そのようなものです。
それで、遠くミリノ大森林では『カラール』、神聖エルブ語で変態、大陸向こうのアレノア王国では『ブランブラー』、アレノアン公用語で変態、つまりは」
「お前が変態ってことだろ、このド変態」
ここまで来て先ほどの変態自己主張の意味がようやく分かった。
翻訳の術式とかあらまあ都合の良いこと、と思わなくも無いが俺が女になっていることからして色々ファンタジーな世界に来たんだろう。
異世界キターとか、浮き足は立たない。
そう、自分が男であるのに、女になっていることが感覚的にすごくひっかかっているのだ。
いや、TS物はわりと好きですよ?
もし自分が女になったら…とかその妄想だけでオカズになるくらいだし。
だが、今はっきりと分かる。
あれは、自分が男だからこその下敷きがあってのものだと。
例えるならば、和服を着てお箸を持って喜び勇んでパーティに出かけたら、手掴みで骨付き肉をがぶりつくような野性味溢れるパーティだった、そんなコレジャナイ感。
より分かりづらいな。
例えるならば、陵辱物ぽいタイトルのエロゲを買ってきて、さあやるぞ!と意気込んでいたら、途中から鬱展開まっしぐらの感動エロゲだった、とか。
ちなみに、俺がエロゲに求めるのは、実用性、その一点突破のみだ。
感動物も一服の清涼剤としては良いんだけれど。
さておき、問題はこの状況だ。
中身は男だがプロポーションは絶妙な女が一人、そして幾つもの名前を持つ変態が一人。
うん、身の危険しか思い浮かばない。
ちなみにこの部屋に鏡が無いので、自分の現在の容姿は分からない。
分からないのに、何故に自分のプロポーションが分かるのか。
そりゃ、スク水着たときに見たからだよ、ちくしょう。
性転換とかじゃなければ、スーパー眼福タイムだったのに、俺の行き場のないリビドーを返せよぅ。
「こほん、それではですね、せっかく貴方にお越しいただいたわけですし」
変態がかしこまる。
「わ、私をド変態って呼んでもらって良いですか?」
沈黙。
もう良い、こいつには本も、蹴りも効かないだろう。
徹底的に冷たく、見下げてやる。
「な、なんなら、お兄ちゃんと呼んでも」
目線できっと、この部屋の温度が一気に下がったであろう、そんな冷めきった目で変態を見下ろす。
あ、これも多分こいつにはご褒美だ。
そんなことを思った。
そして、ここまでかけて全く状況が進展していないことにも気付いた。
俺、帰れるのかなぁ……