4・「人を辞める気はあるか?」
次話、投稿します。
皆さんは触手物と呼ばれるジャンルはお分かりになるだろうか?
分からない方も当然居るだろう、しかし、触手は江戸時代で既に春画にも描かれるくらい、日本人とは縁の深いものである!
のはずである。
何を力説しているかと思われるだろう。
今、俺は精神を半分眠らせてこの世界に居る。
おぞましい肉壁に囲まれた異空間。
「蝕姦1~3」(フォービドーン作・2003~2011)で主人公の女の子が触手に魅入られた後踏み入れる世界である。
実は色々と自身の持つ技能召喚を試してみたのだが、世間に言うところの抜きゲ偏重であった俺にはもろもろと問題が多すぎた。
物語への自分の理解とイメージにかなりの部分が依存してはいるが、一つ、物語の主人公が使っていた技能しか召喚できない。
大抵犯される女の子が主人公なのだからかよわくて当たり前であろう。
二つ、例えば剣を使った技能であったなら、剣が無いと使えない。
剣の代わりに木の枝でも発動しなくも無いが、木の枝に抱く無意識の認識が問題なのであろう、技能の威力に耐え切れず半端な再現しか出来なかった。
三つ、これは全くもって反省すべき点ではあるが、使える技能が女の子をアレコレする為の能力に偏重しすぎている。
主人公が女の子でない場合、例えば戦うヒロイン物で主人公が悪役であった場合。
うん。
そりゃ物語の目的がヒロインをアレコレすることだからさぁ。
こほん。
そんなことで、自分がこちらの世界に女として封ぜられた以上、実に使い勝手が悪いのだ。
今は、もっと色々なエロゲやエロ本に手を出しておくべきだったと反省している。
アンリミテッドなアレや長編シリーズでもあり大ヒットとなった戦国なアレはメーカー的な好き嫌いで所持していなかった。
女戦士や戦うヒロインものは大抵が主人公が敵の首領だし、女の子が主人公だとしても技が発揮される前に大抵囚われの身になっていたり、どうやって作れば良いのよ?という武器に依存していたりする。
或いは、人を捨てねばならぬという可能性があり、今一歩踏み込めないものがあったり……触手を装備する戦うヒロインものは2まで出ていたが、常時発情状態になるのもなぁと、そんな次第なのだ。
さておき。
四方に展開した肉壁の内、3つに囚われた襲撃者は力なく"それぞれの"異空間で捕らえられ頭を垂れていた。
この分だと、同時に捕獲できるのは4名、ってところか。
しかもめったに感じない魔力とやらの消耗感をひしひしと感じているので、そんなに長続きして使えるものでは無いっぽい。
触手を喚び出す技能の元となった作品とこの異空間を作り出した作品は別なので、合わせ技もありなのか。
そう思いつつ、3つの異空間で囚われの襲撃者……残念なことに三人とも男なのだが……の頬をぺちぺちと叩いて起こす。
「おい。
起きろ」
そうして呼び掛けたのは俺の分身。
触手を形作り自分を模したものだ。
異空間と言えど女の子にはきっと優しくない空間だろうし、肉体ごとこちらに来れるかは後で確認でも良いだろう。
だからこその分身体クリエイトである。
一応、この異空間は俺が作り出したものなので割りと色々な融通が利くらしい。
おそらく通常空間でばんぺん君やばんぺき君をこの精度で俺の身代わりにさせようとしたら無理だろう。
あと、何故か自分のイメージのはずなのに、エルフ体なんだよなぁ。
それもまっぱだよ、真っ裸だよっ!
拘束されている彼らは頭も触手に覆われ、全身がちがち触手固め状態だ。
1だったか2のエンディングで主人公はこうして頭まで拘束されて終わりの無い触手責めの快楽漬けエンドがあったはずだ。
そこでは触手に脳まで犯され覚めることの無い夢の世界に囚われていて、なんて設定のはずで……なにが言いたいかというと彼らのプライベートな記憶をちょこっと覗いちゃったぞ☆と。
ちなみに全部を読み取ろうとするとえらい時間が掛かりそうだったので今回はお仕置きの趣旨に合わせて、彼らが最も大切に思う異性をテーマに覗かせていただいた。
「あ?」
頭だけ拘束を外された彼らが虚ろな瞳でこちらを見る。
「ひっ」
三人とも言葉こそ違えど似たような反応が返る。
「おーし、気がついたな!
それじゃあ、尋問タイムの始まりだっ」
こういう時は最大限に効果を発揮するよう少しでも自分の所作、台詞を演技立てないと面白くない。
自分の表情作りに自信は無いが、邪悪に見えるであろう笑みを浮かべて、指をぱちんと鳴らした。
果たして現れるのは、触手で形作られた彼らの大切に思う異性、今回は妻であったり恋人であったり、娘であったり。
うむ、空間自体が薄暗いからちょっと粗があってもわからないかね?
人体の神秘というかすぐ近くで見ている俺には不気味の谷状態だが、彼女達を見た彼らがもがもが言いながらもがいているから成功だろう。
そして指一本動かせない彼らがこれから見せられるのは、大切な彼女達が触手に犯され快楽に堕ちていく、バッドエンドなシーンである。
「まあ、お仕事だったからしょうがないだろうけど。
恨む気持ちも無くは無いが、精々大切な物を奪われる悪夢を見てくれ」
舌を噛まれても困るので当然触手による猿轡をかましている。
せっかくのシーンを見逃してもらってももったいないので強制的に触手で目を開かせる。
声にならない嗚咽やら叫びを上げている彼らを背に俺は一旦、現実世界に戻ることにした。
まあ、本格的な尋問もこいつらがある程度壊れてから聞いた方がスムーズだろう、とそう思って。
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「ひどいですっ!ケルビンさん!!
私達は大丈夫だからと思っていたのにっ」
いや、一応男を入れるリスクくらいは持っておこうよ、マギー。
精神を元に戻すと、ばんぺん君で後ろ手を縛られたケルビンがぽこぽこ、マギーに叩かれている場面だった。
「しかも、ケイさんを押し倒すなんて、男なんてけだものさんです!」
「え?
男は獣だろ?」
素で返してしまった。
まあ、心の中では獣だけど、意気地が無くて行動に移せないヘタレも多いけどな。
元の世界に居た時は俺がそうだったし!
「ケイさんまでっ!
って、無事でしたかっ?
ちょっとの間、茫然としてたのでショックが強かったんだろうってミーニャさんが」
「ああ、いや、ちょっと後始末をな。
マギー、心配してくれてありがとうな」
ぽんぽんと頭を撫でてやるとマギーも納得してくれたようだ。
こういう時、おまわりさんこいつです!って言われかねなかった元の世界の男の頃よりは良いよなって実感する。
元の世界の俺はお世辞にもイケメンじゃなかったからなぁ。
「さて。
ケルビン、縛らせてもらっているが」
「エ、エルフたん、エルフたんをこんな危険な目にぃぃぃぃ」
「その前に、バークレイ、煩い」
ぽこんと喚び出したエロ本を頭に投げつける。
こいつ本当にエルフマニアなだけなのか……
「あー、バークレイは心底、心配してたんだろう、そこは察してやってくれねえかな」
ようやく声を捻り出すケルビン。
恐らく待っているのは最後の沙汰なのだろう。
先ほどから言葉はほとんど発しない中ようやく捻り出した一言であった。
お喋りで調子者だが、まあ、まじめな奴ではあるよな。
「バークレイ、矢に向けてお前が盾になるように俺に飛び掛ってきたのは理解している。
だから、その血走った目で見るの、やめてくれないかな?」
そう言って、ばんぺん君でそっと先ほど投げつけた一冊の本を見せる。
「若奥様はエルフ!1~3」(KAZUMA-95式著・1995~1997年)の内、1巻だ。
ちょっとの間なら本体から独立して動けることが分かったばんぺん君をぷちっと分割して、ページをめくるよう指示を出す。
バークレイはばんぺん君で縛られたままだし、とにかく今の奴に近づきたくないからね!
あいつ、眼力だけで絶対エルフを孕まそうとしてるわー。
差し出された本を見た瞬間、かっと音が鳴りそうなくらい目を見開くと、バークレイがおとなしくなった。
「で、だ。
ケルビン、何か言い残すことはあるか?」
無い、という代わりに目を閉じてケルビンが首肯した。
「よし……」
というものの実は特に懲罰は考えていない。
バークレイはあれはあれで、俺を味方の攻撃から真剣に守ろうとしていた。
ケルビンも調子はあれだけど、別働隊の挙動に目を配りつつ、俺を守ること前提でバークレイの縄を送還したのだろう。
まあ、付き合いは短いが、それなりに信用しても大丈夫だろうと思う。
が、肝心の契約魔法の詳しいところが分からない。
今、この時点でミッションは失敗、彼らが軍に隷属させれている身分としてはどうなるのかが予想が付けれないでいる。
とはいえ、それを聞いて答えてくれるか、或いは、答えられるかは微妙ではあるが……
「そうだな。
ケルビン、バークレイ、お前ら、人を辞める気はあるか?」
そこで、俺は爆弾発言を落としてみることにした。
そうして、これからのことを考えて、少し楽しくなってにやりと笑った。
ケルビンはただ引き攣った笑顔を返し、バークレイはひたすら「若奥様はエルフ!1」に夢中であった。
来週も平日と土日で3回更新できるよう進行したいと思います。
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