3・「きつーい尋問タイムなんだけど」
次話、投稿いたします。
「実は、俺っちら、この国の兵士なんだわ」
ケルビンが頬を掻きながらしれっと言う。
「平兵士でもなく、契約兵士って奴でね。
この国独特の雇用でさ。契約兵士。
要は、国に使い捨ての戦力になった奴隷のようなもんさ」
一語一語俺に聞こえるように、いや自分に言い聞かせるように、なんだろうな。
先ほどの饒舌ぶりから、一転、落ち着いた喋り方をするケルビンは、ぱちんと自分の太ももを叩いた。
「ヴァレネイから逃げてきたっていうエルフを探して俺っちらはこの森をうろついてたんだ。
だから、あんた達には最初から目的があって近づいてきた、嘘ついてたんだわ。
すまん!」
まあ、戦闘経験はあるんだろうなぁっていう動きを見せてたから兵士だと言われてそういうものかと思ったんだが。
「あのさ。
ネタばらしが早過ぎないか?」
「いやぁ。
人を騙すのが性に合わなくてさ。
その上、さっきの魔法封じだろ?
だったら、こうして正直に言って頭を下げれば一緒に来てくんねぇかなーって」
あきれて言葉も出ない。
取り合えず、無言で焚き火を突っつく。
実は先ほどの「魔骸の黒縄」は、火の近くでないと発動しない。
そもそも物語の中では「大悪の焔」と呼ばれるマジックアイテムが照らす範囲でのみ発動していた魔法なのだ。
ストーリーでもそれが効果を発揮する為の石造りの暗い牢屋でしか調教が行えず、物語中盤に捕らえた姫を火の効果の届かない外に出すか出さないかでフラグ管理がされているイベントがあるくらいだ。
大悪の焔がなんなのか呼び方だけしか分からないエロゲの設定だけのアイテムだが、いまこの状況下では恐らく目の前の焚き火が照らす範囲でしか魔法は発生しない、っぽい。
これも検証が必要だなと思いつつも、かたやケルビンの話である。
「あ、いや。
もちろん、答えはNOなんだが」
まずはお断りを入れておかないとね。
NOって通じるのか?と一抹の不安を覚えるも、ケルビンはやっぱりかー、と肩を落としている。
「だって、お前、なんだっけ?その契約兵士?
奴隷のような物だって言ったけど、ような、じゃなくて奴隷そのものだろが」
「本人の口からは言えないでしょ」
そりゃそうだ。
「そんな雇用形態のある国が捜索するエルフなんて捕まった後、どんな扱いをされるもんかわかったもんじゃねー」
契約兵士ってのがどんなものか詳細は分からないが、契約社員みたいなものだろ。
つまりイコール社畜、すなわち、奴隷だな!
エロゲなら調教コース直行だわな。
「わはは。そうだわな」
しばらく沈黙が続く。
「あのさ。俺っちの昔話聞いてくれるか?」
まあ、時間はあるしな。
「聞いてやらんでもないぞ?
せめて火の番の暇つぶしくらいにはしてくれよ?」
そうして、ケルビンの昔話が始まった。
ケルビンは元々、ヴァレネイの教会騎士に従う従士だったらしい。
従士となって何度目かの戦いで彼の主人となる騎士は死に、リオーマンに捕虜となって後、契約魔法によって兵役を課せられたそうだ。
契約魔法。
それは、物、人、獣などと契約を結ぶ魔法である。
例えば、ケルビンの使った縄の召喚。
これは極初歩の契約魔法で、自分の体重より軽いもの、それもずっと軽いものだ、それと契約をすることで自分の影のような空間に収納が出来るという魔法。
契約に関わる魔力や対価をほとんど必要としないだけあって、狩をするものは獲物を縛ったり罠をはったりする利便性から縄を契約することが多い。
また、ケルビンに使われているとされる兵士としての契約魔法。
これはこの国が秘匿する魔法術式の一つでもあるらしい。
強制的に兵長となるものを主として戦い、命令を強制できる契約を結ぶことが可能だそうだ。
これにより、相手が家族であろうが、元の主人たる騎士や国元であろうが、戦いを強制できる奴隷兵士を作ることが出来る。
まあ、戦いの無い平時では比較的自分の自由が許されることもあり命令さえなければ普段は狩をして自分の食い扶持を繋いでいる、それがケルビンとバークレイの状況らしかった。
狩をしていたということ自体は嘘ではないが、俺達をというより俺を実は探していたということが彼のついた嘘の一つである。
「テンプレ過ぎて、面白くもなんとも無い……」
それが俺の感想だった。
あのさ。
せめて、亡国の王子でした!とか、ヴァレネイのスパイです!とか劇的な身分であってくれよ。
なんていうか、異世界来たのに、魔法はあるのに、すっげー人間くさい。
まあ、魔法で収納、なんてのはちょっと便利だなと思ってしまったが。
「奴隷、って言ったけどさ。
あれか?
手柄を立てたり何年か奉公したら解放されたりするんだろ?」
どうせ、と続けたくなるが思いの外、ケルビンが無反応なので口をつむり、じっと反応を窺ってみる。
「そんなわけないよ。
最前線に立たせておけば、契約兵士なんて大抵消耗品だし、代わりはすぐ集まるし」
まあ夢の無いこと、と思わなくも無いが異世界にドリームを求めるほうが本当は間違っているかもしれない。
「本題なんだが、それでどうするんだ?」
「いやぁ、そろそろ気付いてくれないかなーって思ってるんだけど」
「ん?
さっきから近づいて来ている別働隊、のことか?
それとも、そこで解き放たれた変態のことか?」
言い終わる間もあるか無いかくらいの勢いでいつの間にか縄を解かれたバークレイが火を飛び越えてこちらに向かってくる。
それとほぼ同時に同じく向かい合って挟んでいた焚き火を飛び越えるケルビン。
瞬間。
今まで彼らが居た場所に数本の矢が突き立っていた。
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今の体勢を説明しよう。
ケルビンに両手を捕まれて押し倒されております。
うわー、すげー男の顔が近ーい。
なんて、心は男の俺からすればどんなボーイズラブなシーンだよと思うのだが絵的にはか弱いエルフが押し倒されており非常にどきどきなシーンなはずだ。
と、思っていたら追撃で放たれたろう矢が鈍い音を立てて突き立った。
俺を、正確には俺とミーニャやマギーを囲うように屹立した固定型触手「万壁の肉手」通称ばんぺき君は矢が立とうが石が当たろうがうねうねと身を捩るだけである。
ばんぺん君の一つ上位の触手だ。
戦略上、設置場所から移動できないのがたまに傷だが、その防御性能は勇者渾身の一撃をも耐え切るほどだ。
当然、勇者レベルだと一撃で消滅はしてしまうのだが。
「これって、俺も含めて殺しに来てるだろ」
「いやぁ、どうなのかなー」
押し倒してはいるが一向に目を合わせようとしないケルビン。
お前、嘘をついているな!?なんて。
態度から聞くまでも無いんだけど、ああ、バークレイはとっくにばんぺん君により亀甲縛り状態だ。
触手で亀甲縛りなんて、是非女の子相手にはやってみたいシチュエーションなのだが何故にその相手が男なのか。
小一時間こうなった経緯をレポート提出させて重箱の隅を突くようにねちねち問い詰めたい。
誰を?
責任者をだよ!
なんのだよ!
とセルフで突っ込みを入れるが、取り合えず膝を立ててケルビンのお腹を狙って一撃。
見事みぞおちにヒット。
奴が悶絶すると同時に体勢を入れ替えて、俺がマウントポジションを取ってみる。
「……あっ」
即座に今の体勢に気付く。
あかん。これあかんやつや。
男相手の喧嘩ならこれでも良いけど、今、俺、女だったわ☆
等と反省をしているとに弓矢や石つぶてが通じないばんぺき君に焦れたのか、襲撃者達が抜刀して襲い掛かってきた。
もちろん、ばんぺき君にはそこのへんに転がっているような粗製濫造の武器ではびくともしない。
剣撃を受けるも、それが肉に挟まれ抜けなくなって襲撃者の一人がばんぺき君の波立つ肉壁に取り込まれる。
取り合えず、ケルビンの両手を握ったままなので、起き上がろうとした奴の胸に強かにヘッドバッド。
奴の顔にヘッドバッドなんてしたら、間違いが起きるだろ!
ちゅーとか!
乙女かっ。
心の中でとてもセルフ突っ込みが多くなっていることからは目を背けつつ、膝の土ぼこりを払う。
胸を強打されたケルビンはごほごほと咳き込み苦しそうにしている。
四方に張られたばんぺき君が、時間差で捕らえた襲撃者……声の感じからすると3名かな?をうねうねと飲み込んでいる。
武器を放さないからそんなことになるんだ。
ば、化け物っ、とかそういう声は敢えて聞かないことにしておこう。
声にならない叫びを残しながら完全にその体躯の中に飲み込みきったのはそれからすぐのことであった。
「ケイ、大丈夫かい!?」
「ケイさんっ!?」
ミーニャとマギーが寄ってくる。
俺はいまだ咳き込むケルビンを手放し、ぺたんと座り込んで二人を迎えた。
「良かった。
二人とも無事か?」
「ああ、ケイがばんぺん君だっけか、それで起こしてくれなきゃ、今頃永遠の眠りについてたところさ!」
たはは、と笑うミーニャ。
それはしゃれにならないな、と返すとマギーが肉壁に飲まれた襲撃者の断末魔を聞いて青い顔をした。
「ケイさん、これって……」
「ああ、心配するな。
殺しちゃいない。
ま、これからきつーい尋問タイムなんだけどなっ」
努めて冷静に、面白おかしく伝わるように歯を見せて笑った俺に、マギーはただただ弱弱しく笑うほか無かったようだった。
明日も投稿予定です。
誤字誤用ご指摘お待ちしております。