2・「言い訳をさせてもらっても良いかな?」
次話、投稿します。
遅くなってすみません。
さすがに今回はエンディングロールは流れない。
だって、まだまだ俺たちの戦いはこれからだっ!なんだもの。
あれ、これって打ち切りフラグですかそうですか。
さておき、エルフと分かると目の色変えてすっ飛んできたバークレイとやらを鮮やかに沈めた俺は次にケルビンへと目を向けた。
「あー。
いまさらなんだけど……すまんっ!」
土下座である。
いや、こっちの世界でも土下座ってあるのか?
「あんた、そこまで」
「そ、そんなっ!」
マギーとミーニャが立ち上がり大層驚いている。
「なっ!知っているのか、ライ○ン」
と口の中でもごもごと呟くだけにとどめ、こほんと咳払いをしてから二人に聞いてみる。
「いや、謝ってるんだろ?あの姿勢」
「あ、はい」とあっさり返すマギー。
「まあ、背中を見せるってくらいだ、話くらい聞いてやれよ、ケイ」
そう言ってさっさと座りなおすミーニャだったが、俺には良く分からない。
「背中を見せるってことがそんなにすごい行為なのか?」
「ええ、背中を見せる、正確には首の後ろから肩上までの背骨が分かる部分を見せるっていうのは相手に契約魔法をかけられても良いとされる行為ですから」
ここで新しい単語である。
契約魔法と来たか。
まあ、それは後で聞くとしてまずは話を聞いて見なければ何も進まない。
「分かった。
謝意は受け取ったから、まずはその変態を何とかしてくれ」
バークレイは幸せそうな笑みを浮かべ「エルフ、エルフたん……」と呟いている。
それを変態と言わずしてなんと言おうか。
「あ、ああ。
助かったよ。
普通の人なら問答無用で切り捨てられてもしょうがない変態だからな。
いや、普段は寡黙で仕事もまじめにこなす奴なんだが」
そう言ってケルビンは手際良くバークレイを縛り上げる。
普段は寡黙っぽいむっつり系で仕事をこなして司教なんて立場まで行った自称変態なら心当たりガあるぞ?
この世界の変態はむっつりが多いのか、むっつりだから変態なのか?
「こいつは昔から森の精霊族エルフに憧れを持っていてな。
この国で聖女とされるエルフ様が国民の前に姿を現さなくなって20年、こいつの中でもエルフ熱が上がっていく一方でさ」
許してやってくれよ等と意味の分からない締めでケルビンが締まらない笑みをにへらと浮かべる。
「そいつの事情は分かったが、俺たちは見ての通り女ばかりだ。
男は怖い狼だからな、正直、その……困る」
と言って上目遣いで相手を見る。
うん、一度これやってみたかったんだ。
女になったらやってみたいリストトップ10の一つだからな。
「あー、そのなんだ、こんな出会い頭だったからさ。
俺っちらはどっか別の場所で野宿するわ、はは」
まあ、理解が早くて助かることで。
自分のことはいまだ男だと思っているが、実のところ俺たち3人はとても危うい。
女3人なんて盗賊からしてみれば格好の的だろう。
ミーニャに俺のばんぺん君が居ればそこまで無様に負けは拾わないだろうが、と言ったところで盾はあるに越したこと無いのか?
なんともぐるぐると思考が回る。
「いや、いいんじゃねーか?
あたしたちは寝ずに番をするけど、ケルビンだっけ、そこの色男さんが寝ずに番をしてくれるならいいんじゃねえか?」
「ミーニャ、お前、誰彼構わず色男扱いしてないか?」
苦言の一つも出るというものだ。
たしかに、ケルビンはすこし草臥れた感じのちょっとワイルドな探偵さんみたいな感じだし、第二の変態バークレイはいかにも生真面目委員長な鼻筋のきりっとしたイケメンさんだ。
だが、お前、エリオースも色男扱いしてたよな?
あいつもそれなりに整った顔だったけどさぁ。
「いやぁ、あたし達ドワーフはさ、女は結婚するまで髭をのばせねーからさぁ。
髭を剃るの結構大変なんだわっ。
それにそろそろあたしも身の振りを考えないとなぁ!」
驚愕の事実である。
ていうか、ミーニャ、お前、髭なんて生えるのか。
ドワーフって、そういう種族だっけか。
「お。
そこの男前なお姉ちゃんは庇ってくれるのかい?
俺っち、精霊様に誓うよ、変な気は起こさないから、なっ?」
「わ、私も大丈夫ですよっ!」
同情なのか、マギーも同意しだした。
「はぁ。
まあ、良いよ。
その代わり役に立てよ」
そういうとケルビンは大げさなくらい首を縦に振って目を輝かせた。
□■□■□■□■
ばんぺん君。
それは全ての触手の母にして祖。
最も弱い力でありながらその汎用性はあらゆる状況に対応する。
「万遍の魔手」そう古文書に記された古の魔物の一つは、ゲームの主人公の些細な読み間違えにより「ばんぺん君」としてネームドモンスターとして使役されることになる。
そんな説明がチュートリアルであったかと思う。
ばんぺん君がそうであるように、俺の召喚術は俺のイメージや願望で「送還」されるまでの時間を調節できるらしい。
今も木や揺らめく焚き火の陰に隠れるようにして3体ほどが見張り番をしている。
これは俺が眠りに就いたとしても消えることが無い。
比較的潤沢にあると思われる俺の魔力が尽きるまでは恐らく出しっぱなしでも構わないのだろう。
そういう意味では、ミーニャや俺が着ている衣装も召喚物の一つであるからして喚び出しっぱなしが通用している時点でお察しである。
さておき、ミーニャとマギーは眠りに就き、俺は今、ケルビンと共に夜警番をしている最中である。
「さっきさ」
「お、俺っちかい?」
「お前しか起きてないだろ。
まあ良い。
そこの変態二号を縛った縄、どっから出した?」
気になっていたことをこの際、聞いてみる。
「ああ。
なんだ、あんた、契約魔法を見るのは初めてかい?
まあ、エルフならそうかもな。
このリオーマンはさ。
知ってるだろうけど、契約魔法の祖なんだわ。
強力な契約魔法になると人格も生活も縛るくらいのがあるんだけどそれは王家秘伝でね。
俺達一般の国民には物と契約して自分の影に収納させるとかそういう使い方が一般なのさ」
ケルビンはほんの少ししか関わっていないのだが、いわゆる語りたがりだ。
聞いてもいないことまでぺらぺらと喋ってくれる。
しかしその裏には俺の注意をそらしたい為に別の話題に誘導したいとか、そういう魂胆も混じる、はずだ。
お喋りというのはビジネスでも大抵そういう意図が入る。
「お前ら。
エルフを捕まえると何かあるのか?」
ずばり聞いてみる。
明確に俺が、困るという意思表示をした時。
或いは、バークレイを、恐らくは相手が見たことの無いエロ本召喚で昏倒させた時。
彼らが一晩の供を諦める、或いは撤退を考えなくてはいけない局面は何度かあったはずなのだ。
「いや、バークレイのは純粋なエルフ熱だよ?」
とあっさりと言うケルビン。
それは、或いは本当なのだろう。
現にバークレイは拘束されたままだ。
「バークレイは、な」
そう言いつつ、俺は一つだけ気になっていたことを突っ込む。
「だって、お前。
まだ縄を隠し持ってるし、さっきから出そうとしてるだろ?」
焚き火の木を突っつきながら何気なく聞いてみる。
空気の通り道を作ってやらねば、火はすぐ消える。
煌々と燃え盛る必要性も無いが、消えても困るんだ。
「あちゃー。
ばれてた?」
「うん。
ばれてた」
そうして、細長い薪をもっていた腕とは逆の腕を顔の位置まで上げて、人差し指を立てる。
相手に視認されるかどうか分からなかったが、新しく身に着けた技能召喚の一つ、「魔骸の黒縄」を顕現させた。
「な、なんだよ。
その黒いの」
「お前のと同じ『縄』さ」
正確に言えばちょっと違う。
これは「ヴィーナス・プリズン~美姫虜囚~」(クアッドテイルスタジオ作・2009年)の主人公の魔法の一つだ。
かつて英雄として崇められるも、大国の謀略により命の危機に陥った主人公が討ち取った魔王の力を得て、その復讐の為に神に愛されていると言われる美姫を攫い淫らな調教を施していく。
神に愛されその権能の一部すら宿すと言われる美姫を力を持たぬ乙女に封じ込めるための、封印の魔法「魔骸の黒縄」。
実に都合の良い力であるが、この世界の魔法にもそれが通じるとはまさか思わなかった。
さっくりとケルビンの契約魔法とやらで召喚?されているであろう縄を封じ込めたのだが余りにケルビン自身が動揺しないので興味を持ったのだ。
「まあ、今更お前らをどうこうするつもりは無いよ?
ただ、あまり動揺してくれないから、逆に興味が沸いてさ」
「いやぁ、この3人の中で一番のべっぴんさんにそこまで興味を持たれちゃ男冥利に尽きるってもんだな。
一応聞くけど、色々と言い訳をさせてもらっても良いかな?」
いいとも!
とは言わないが、先を促すように俺は先っぽの焦げた細長い薪を焚き火に投げ入れて、ケルビンの顔を見遣った。
「面白い言い訳じゃなかったら、くびり殺すからな?」
そう言ってにこりと笑うと、ケルビンはわざとらしく両肩を上げた。
そうしてこほんと咳をすると、彼の”言い訳”を語り始めたのだった。
ちょっと都合主義っぽい回でした。
すみません。
誤字誤用ご指摘お待ちしております。