13・「俺のチートがエロ本召喚って」
次話投稿します。
エリオースがゆっくりと崩れ落ちていく。
俺は、エリオースを襲った凶弾の放たれた先を睨みながら、エリオースの身体を抱き止めた。
「ケイさん、さっき三人で逃げてくれって言いましたよね?」
「馬鹿、しゃべんな。
あと逃げてくれじゃねぇ、切り抜けようなって言ったんだ」
「ハハ。
僕は戦力外ですかね?」
「ハッ。
お前みたいな変態は一度痛い目にあった方が世の為だろう?」
お互い軽口を叩きながらも、俺は目を離さない。
その先には同じく倒れ伏せたディゲネオスを抱いてこちらを睨むディオネーズ。
あの光弾が何かは分からないが、連射は出来ない、らしい。
油断は出来ないが、ディオネーズはそんな駆け引きをする奴じゃ、ない。よね?
「貴様っ、エルフっ、よくも、よくもお姉様をこんな目にっ!」
え、それお姉様なの?
お兄様って言ってたじゃねーかと驚愕する。
ええい、ここに到って情報をぶち込んでくるんじゃねー。
思わず頭を掻き毟りたくなるが、そんな暇も無いくらい今の状況が逼迫している。
「ケイさん」
「なんだ、あんまりしゃべんな、あ、逆だ、眠いなら喋り続けてろ」
「どっちですか。
ケイさん。
自分が一番、命が軽いだなんて思わないで」
「言うな。
喋るな。
俺はお前なんて戦力に考えてなかった、それだけだ、深読みすんな」
「そうでしたね。
痛たた。
じゃあ、ケイさんの声でおにいちゃんと呼んでくれませんかね?」
「この、ド変態っ」
ともかく我慢をした。
こみ上げてくるものを全力で我慢した。
エリオースの身体から生暖かい液体が止め処なく流れているのを支えている手で感じる。
エリオースを正視することが出来なかった。
「うへへぇ。
ご褒美です」
「お前、そんな笑い方したことねーだろ」
しかし、状況は刻一刻とやばい方向に向かっているらしい。
ディオネーズがその腕に法力を集めだした。
奴がその魔法に慣れていないのか、法力とやらが足りないのか、次は無いことくらいしか今の俺には判断できない。
「そんなケイさんのご褒美にお礼しましょう。
今から、障壁法術を使います。
どこまで耐えられるか分かりませんが、これで何とか逃げられるはずです」
「待ってろ、お前を背負ってやるから、痛いのは我慢しろよ!」
「いえ、障壁法術は術者が固定されていないと意味がありません。
だから、ケイさんたちだけで逃げてください!」
マギーとミーニャが馬に飛び乗る。
ディオネーズの法術はいよいよ発射寸前とばかりに大きな光球を形成した。
本当待ったなしの状況だ。
「大丈夫、教会所属の司教で重罪確定人です。
教会の沽券の為にも私は生かされます!
だからっ」
「エリオースっ」
「いけよっ、ケイッ、お願いだから、生きてくれっ!」
エリオースが大声を振り絞る。
俺は、ミーニャの力強い腕に引き上げられて、乱暴に馬上の人とさせられた。
「エリオースっ!!!」
馬が走り出す直後、閃光と共に金属音にも似た衝突音が背後で鳴り響いた。
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俺たちは、馬に跨り、とにかく先を急いだ。
薄暗くどこまでも続くように見えるこの林は、しかし、今や俺にとっては道を親切にも示してくれる安らぎすら覚える場所となっていた。
この林を抜けるとエステカリオン平原。
カリヨンとは平和の意味らしい。
エステとは享受する、分かち合うの意味。
平和を分かち合う平原と名づけられた国境はこの線からこちら、この線の向こうはあちら、というものでは無いそうだ。
元々は断頭者の丘とその城砦までが今から行こうとしている国リオーマン王国のものだったらしい。
逃げるならば敵国しか無いかと漠然と考える。
「ケイ、しっかり捕まってな。
ぼーっとすると振り落とされるよ」
「あ、ああ。
すまん」
「ケイさん、先ほどのエリオースさんのこと……」
「言わないでくれ」
マギーもミーニャも気を使って言葉を選んでいる様子が手に取るように分かった。
追っ手の気配も無い、三人も肉体的にも精神的にも消耗しきっている今、馬のスピードを歩行レベルまで落とした。
「ああもう!
ケイさ。
あんたさ、あたしから見ても死ぬ覚悟でいたよね」
現在の俺は当たり前ながら馬なんて乗れない為にミーニャの後ろにくっ付いて乗っている。
だからその顔は見えないが、馬の鬣を握っている両腕に少しばかり力を込めている。
「まあ、な。
俺はこっちでは親も兄弟も居ない孤独の身だしさ。
だから」
「だから、何なのですかっ!
ケイさん、言ってくれたじゃないですか。
一緒に来ればいいよ、って。
約束はちゃんと、ちゃんと守ってくださいよぅ!」
最後は涙声だ。
「ご、ごめん」
こういう時、男は弱い。
いや、今は女だけど。
泣かれるとつらい。
「ケイさー、あたしから見てもって言ったよね。
まあ、正直に言うと、あたしも捕まって断罪者の丘についた時に同じく捨て鉢だったからさ。
だから、わかったんだ。
あたしも人のこと言えないし、クソみたいな人族もいけ好かない教会もあって、嫌な世界かもしれないけどさ」
「エリオースさんも言ってたじゃないですか。
生きていきましょうよ。
生きて、いきましょうよ」
何時の間にか馬はその歩みを止めて馬に乗りながらも三人でそっとお互いの肩を寄せ合った。
誰かは泣いているのかしれない。
鳥のさえずり以外音の無い静かな空間にただ鼻を啜る音だけ聞こえた。
それは自分もそうだったかもしれないが、返事の代わりに強くゆっくりと俺は頷いた。
エリオースが生きているかどうかは分からない。
あの変態なら殺しても死なないだろうと思うがそれは楽観すぎるだろう。
俺は異世界に前触れも無く喚ばれた。
色々と無くしたものも得たものもあるけれど、まずはこの世界で生きていこう。
この世界で、一生懸命生きて生きて、最後には絶対笑ってやろう。
そう誓った。
それからふと思い出し可笑しくなってくすりと笑ってつぶやいた。
「それにしても俺のチートがエロ本召喚ってのはどうなの?」と。
なんというかまとまっちゃいましたが、一応、まだ続ける予定です。
閑話を挟むか悩みますが、今週末には第二章を開始したいと思います。
感想、誤字御用ご指摘お待ちしております。