12・「お前は変態なのか?」
次話投稿します。
今回のエロ本には明確にモチーフが存在します。
記述的にやばそうでしたらもう少しぼやかします。
ディゲネオスは追いかけてくる間、はね上げていた面頬部分を静かに下げた。
まあ、そうでなきゃあれがディゲネオスとは分からなかっただろう、今やフルプレートに身を包んだ騎士一名様ご案内である。
対してカレンドロは甲冑の頭の部分すら付けていない。
目は血走っているし相当頭にきているのだろう。
ディゲネオスは一見落ち着いているが、昨晩感じなかった魔力の迸りを肌に感じる限り相当怒っているのが分かる。
お前らも不条理にレッテル貼られて嬲られる側の怒りが理解できたかい?と思うが今は絶賛睨みあい中だ。
俺は先ほどから触手出ろ触手出ろと念じていたがさっぱりであった。
こういうのには大抵想像力がネックになるんだが、命のやり取りをしている場面で落ち着けっていってもそりゃ無理だろと思う。
しょうがないから別の手だ。
喚び出したるはエロゲのディスク。
からの、投擲っ!
「秘技、エロゲカッタァァァァァァァァッ!」
思い切り奇声を上げてみる。
は、恥ずかしい。
が、奇声に思わず身を竦めたディゲネオスの傍を銀色の円盤が掠り通る。
「ちぃ」
お前はどこかのニュー○イプかと言わんばかりの台詞を残し気持ち大きめの幅を持って投げられた円盤をかわす。
そうだろうそうだろう。
銀色の正体不明の円盤だ。
硬いかどうかも分からないものが俺の手から無数に投擲されているのだ。
当たっても大丈夫か分からない上に時々カーブを描くのだ。
ちょっとだけでいいから回避に徹してくれよと思いつつマギーとエリオースに小声で声をかける。
「俺とミーニャで隙を作る。
マギーたちはまず、逃げてくれ!」
「で、でもっ!」
「いいからっ、っと!」
ディゲネオスが一瞬避けそこなう。
当たってしまっては威力が大して無い事に気付かれるので、避けた方向に本を落としてやる。
がんっ。
自分から当たりに行った形になるディゲネオスがたたらを踏んだ。
本とディスクの組み合わせも良いな。
以降、所々本も当ててやろうと思いつく。
「その変態を頼むぞ、マギー。
三人で必ずこの場を切り抜けよう」
返答は聞かなかった。
ディゲネオスが捨て身を覚悟したのかこちらに向かって来たからだ。
その判断力は評価するが、真っ直ぐにこちらに向かってくるのは悪手だぞっと!
まずは牽制、触手を喚び出そうと健闘していた際に手元に出していたエロゲ「テンタクル・キング」を投げつける。
あれ。
そう言えば何でエロゲが出てきたんだっけ?
触手を喚び出そうとしていたはずなのに?
そう思うと、先ほど投げたエロゲから微かに黒いもやのようなものが見えた。
あれって、ひょっとして成功寸前だったってこと!?
「ちょ、待って!」
そのエロゲ!と言わんばかりに自分の腕を焦って伸ばす。
その焦りが相手にとって別の焦りと伝わったのか、口角を吊り上げて飛来するエロゲを一蹴、さらに最短コースでもってディゲネオスが迫る。
エロゲを投げて測ったが為に距離感と位置をなんとなく把握できたので、取り急ぎ気を入れ替えてここでもう一つの召喚をする。
完璧に行くか分からないが、ここでもう一手打っておかねば後が無い。
「あねぶる~姉とブルマーと~」(アークベル作・2003年)初回特典のブルマをディゲネオスの兜にかぶせるてやるっ!
喚び出した位置が少しだけずれたのだろう一瞬空間に固定されて出現したブルマをびよーんと頭に引っ掛けながらディゲネオスが仰け反った。
やばい、想像以上に絵面がやばい。
急に視界が途切れたのだろう、奴は声にならない獣じみた叫び声を上げ頭を掻き毟るがブルマーは伸びるだけで破れはしない。
そこかしこの突起に引っかかっている為普通に脱着するのにも一苦労するはずだ。
やがて、と言っても数秒だろう、奴は兜ごと脱ぎ捨てた。
ま、それが正解だと思うがね。
「ディゲネオス。
お前は変態なのか?
今のは女性の下着に類するものだ。
お前は神聖な戦いの場にそんなものを被ってくるのか?
もう一度言うぞ。
お前は変態なのか?
それともグリンファリオン家というのは、お前を筆頭として変態の集まりなのか?」
真っ直ぐに目を見据えてふふんと鼻で笑う。
まあ、被せたのは俺だけどな!
ぎりぃっ。
こちらまで聞こえるくらいの歯軋りをしてディゲネオスが口を開く。
「黙れっ、貴様こそ神聖な……」
「戦いを汚したのはお前だろ、変態お兄さん」
相手の台詞にかぶせてみる。
うむ。楽しくなってきた。
が、そろそろこいつとの争いもけりをつけたい。
俺は背後に仲間を抱え決定的に戦う手段に欠けているが、騎士どもは俺たちを殺すことに戸惑いが無い。
時間がかかればかかるほど不利になるのだ。
ちらと見るとカレンドロに対するミーニャも防戦一方になっているようだ。
そしてもう一度睨みあい。
息を整えつつ、ディゲネオスが吼えた。
「貴様ぁぁぁぁぁ」
目と目が合えば、こちらのものだ。
俺には出来るかどうか分からない技能召喚に今一度すがることにしたのだ。
大丈夫、さっき何となく出掛かってじゃないか、触手!
あ、だけどとりあえずは別の技能で試そうな、と。
喚び出したるは一冊のエロ本。
「JKとブルマー」(完顔盈歌著・1997年)の中の一遍、進め生徒会長!の主人公の異能の発動を願った。
果たしてそれは成功した、ように見える。
急に顔を赤くしたかと思うと腰が砕けたかのようにその場で膝付くディゲネオス。
本当は身体のどこかが触れていないと発動しないはずなんだけど、まあ結果オーライだろう。
件の作品の主人公の異能は一つ。
触れている相手の性的興奮を自在に操ることが出来る、それだけなのだがよくよく考えるととても恐ろしい能力なのだ。
彼女、そう生徒会長さんは女性なのだが、その力を生かし生徒会で無茶な法案を次々に通すべく女性徒を快感漬けにしていくのだ。
と、作品の説明は良いだろう、ともかくもディゲネオスである。
俺も男だったから分かるがここで賢者タイムに入って冷静になられては困る。
本当にしょうがないけれど、一度ロックしたディゲネオスの快感中枢的な何かを高○名人もかくやとばかりに連続で刺激した。
いやー、本当にしょうがないなー。
「あっあっあっ」
最早声になっていない。
なんだろう、この悪役感。
あれだ。
敵の脳みそを改造する悪の博士かなにかか。
さておき、その内腎虚で死ぬんじゃないか?くらいの回数、ディゲネオスを絶頂させ取り合えずはしばらく再起不能になるだろう。
そうして俺はカレンドロと対峙するミーニャの元へ向かった。
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そういえば、技能召喚には恐らく本、もしくはエロゲを喚び出すことが一つの条件であるらしいと考える。
まあ、英雄譚召喚からの技能召喚だから、第一段階をすっ飛ばして技能召喚てのが出来ないのだろう。
と適当に理由をつけつつ、ミーニャの横に並んだ。
「ミーニャ。
すまない、遅くなった」
「はは。
こちらとしてはもうちょっとだけ早く来て欲しかったんだけどさ、良いところに来たよ、ケイ」
そう言って背の丈は俺より低いがマッシブな体型のミーニャが膝を折る。
「ドワーフ如きがここまで保ったものだ。
がぁ、ここまでだよ、エルフゥ。
貴様もろともここで叩き切ってくれるっ!」
ちっ。
舌打ちをする。
カレンドロも幾分か血を流しているようだが、戦いに酔っているのか全く弱っていない。
ある種の興奮状態らしい。
あれか、狂戦士みたいな状態か?
「さっさとイッてくれよ。
俺に任せてくれれば、ディゲネオスみたいに天国に連れて行ってやるぜ?」
凡そ、女性のいう台詞じゃないよなぁと思いつつも、男のノリでカレンドロに軽口で返す。
というより、敵の法力とやらの威圧が半端無く高まっている為、対峙するだけでも気力が絞りとられている状態なのだ。
こちらの手が限られている上、相手のミスを誘う以外に勝機を見出せる気がしなかった。
今のカレンドロに恐らくエロゲカッターという名のプラスチックソーサーが効かないだろう。
だって、あれ、多分お構いなしに突っ込んでくるぜ?そんな雰囲気だ。
ついでに言えば。
先ほどからカレンドロにもディゲネオスに掛けた技能召喚と同じ事をしているのだが、一向に影響が無いように見えるのだ。
「あははぁ!
天国だと?
むかつく敵を叩き切る、それも飛びっきりの美女を切るなんざ、それ以上に興奮できる要素なんてねぇよ!」
ええと、あれか。
エロ本的にいえば、いきっぱなしなのぉ!ってことか。
男が言うとこれ以上おぞましい台詞は無いな、と思うが現状、カードを一つ潰されたようなものなので俺もすっかりと余裕を無くしていた。
むしろ敵の興奮状態を助長しているのであれば悪手だろう。
ざわざわと林の木々が風で揺れる。
エルフとなって色々と得たものがあるが、こう言った時に木々の、緑の声無き声も何となく感じられるようになったようだ。
今のこの木々のざわめきは不安によるものだ。
木々も何かしらこの目の前のカレンドロから異常な力場みたいなものを感じているのかもしれない。
カレンドロは、どう切ってやろうか?と言わんばかりに、構えを何度か変えつつ、じりじりと間合いを詰めてくる。
そうしてあと幾許かでカレンドロの間合いに入るだろうその時。
もうすっかりと技能召喚は諦めていたが故に手に握ったままのエロ本の作者に思い至る。
あれ、あの作品ならいけんじゃね?と。
「イけない健康優良児1~3」(完顔盈歌著・1994年※第三巻発行年)。
三冊を重ねてイメージする。
強く強く、それは或いは呪いである。そうイメージした。
作品自体は実はそんな呪いだのなんだのという内容ではない。
わりと明るく軽いノリの漫画だ。
主人公の女の子は健康優良児である、唯一つ、今までいったことが無いことを除いて。
そんなモノローグから始まったはずのこの物語は先ほどの技能召喚とは真逆の効果を持つはずだ。
「さあ、命乞いくらいしてくれよ?
てめえの軽口は嫌いじゃなかったが、生意気な奴のする命乞いを聞きながら肉を切り裂くことほど気持ち良いことはないからなぁ」
ざわり。
さきほどの木々の不安な様子から一転。
木々から漏れ出す雰囲気は一言で言えば、不穏だ。
エルフになったからこそ分かるこの空気。
後は声に出して言うだけだ。
「愚か者よ。
その身に消えぬ呪を刻み、悔いて身も魂も朽ち果てるが良い」
そう言うや否や、カレンドロは野生の勘を持って一気に間合いを詰めようとする。
しかし、それでは遅いのだ。
踏み出した足には既に知れず異常促成した雑草が絡みつき、幾重にも重なり合うが故に強固となった蔦がカレンドロの下半身を絡み取った。
そうして注ぎ込まれる呪い。
うん、ちょっとかっこよく厨二風に言ってみたけれど、オチとしちゃこれ以上に無く最悪の決着だ。
そう思いつつ、カレンドロに宣言してやる。
「カレンドロ。
今の気分はどうだ?
興奮するか?いきそうか?
絶頂感はあるか?
思い出せ、これまでを。
これまでにそうやって切り捨ててきた時のお前自身を。
そして、絶望してくれよ。
お前は一生、絶頂出来ない。
何にも満足出来ない、そんな人生を送るんだ」
既に下半身のみならず両腕まで拘束されたカレンドロは、自分の身に起きた変化を俺の言葉以上に把握したのだろう。
いっそ凶悪な……いや、野生じみた顔で、声で、目で呪詛の声を発した。
「エルフっ、くそエルフぅぅぅぅぅぅ!」
「あ、俺の名前はケイだからな、反省してケイ様って呼べばその蔦くらいはなんとかしてやるよ。
じゃあなっ!」
先ほどからじりじりと後退はしていたのだが、ここで一気にミーニャの腕を取ってマギーたちの居る場所まで走る。
後ろでカレンドロがより汚い言葉で罵っているのだが知ったこっちゃない。
マギーとエリオースの居るところまで辿り着く。
馬車は壊れている。
馬は二頭、逃げ出してはいない。
なんとかいけるだろうか?
そう思った瞬間、俺の背後から閃光。
振り返る。
崩れ落ちるエリオースに、彼が俺を庇ったのだと理解した。
「お、おい、エリオースっ!」
今度こそ、余裕を無くした俺の絶叫が林の中に木霊した。
なんたるオチ。
決着としてはヒドイの一言でした。
本当すみません。
次話で第一章は終わります。
第二章に入る前に少しお時間空くかもしれません。
感想誤字誤用ご指摘お待ちしております。