11・「俺と一緒に来ればいいじゃん」
次話投稿します。
作中のエロ本、エロゲはタイトル、著者、作者、全てフィクションです。
モチーフはあったり無かったりしますが。
「ケイ、って言ったっけか」
「ああ」
「あんた……いや、あんたたちはこれからどうするんだ?」
馬車の上。
かつては俺たちを収監していた鉄の檻は無く天蓋を覆っていた幌も無い、馬2頭立てのぼろぼろの馬車の上でミーニャが問うた。
「何も」
そう、本当に何も考えていないのだ。
この世界のことが全く分からないのだし。
「わ、私は教会から逃げた以上、元の村には戻れませんし……」
マギーが瞳を伏せて言う。
「俺と一緒に来ればいいじゃん。
ま、どこに行くかも決まってない当ての無い旅になるけどさ!」
無責任である。
というより、この世界で変態以外に始めて知り合ったまともな知り合いなのだ。
簡単には逃しまへんでぇー。
冗談はさておき。
「ミーニャさんはどうするつもりだい?」
逆に聞き返してみる。
ミーニャは自己紹介の時に言ったようにハイランドオネ……ハイランド鉱脈を受け継ぐ一族の出だそうだ。
ハイランド鉱脈とはヴァレネイの南西に位置するスワハイランド山脈の中の一鉱脈のことらしい。
昨年、新しい採石場所を求め一族で移動するための露払いとして戦士階級のミーニャが選ばれたそうだ。
もちろん他にも露払いとして選ばれた戦士階級の山ドワーフは居たらしいのだが、ミーニャだけ単独で行動していた時に教会騎士に捕縛された。
当然、ドワーフも異教徒扱いだ。
着ぐるみ剥がされて、連行されてきたとのことらしい。
露払いという役目を果たせず、また自分が戻ることで教会の目が一族に向いてしまう。
その恥と危惧を以ってミーニャは「あたしも戻る場所がねーんだよな」と呟いた。
ははっと乾いた笑いを漏らしながら、その小麦色の頬を掻いたミーニャは伸ばし放題とでも言える様な真っ赤な髪の毛にその顔を隠して泣くのを我慢するかのように肩を震わせた。
「ふ、復活ですっ!」
やがて空気に耐えられなくなったのだろう、エリオースがまあ、空元気だろうに無理やり大声を上げた。
「ケイさん、マギーさん、ミーニャさん!
ご安心を!
この林を抜け、エステカリオン平原を抜ければ、隣国リオーマンです」
ふんす、とも言えないくらいのか弱さで胸を張るエリオース。
「林に平原かよ、結構あるだろそりゃ」
と、現実的な答えを返す俺。
「いえ、エステカリオン平原は、国の境、です。
そこまで辿りつけば、さすがにヴァレネーシアス教の聖騎士、と言えど、大軍を持って、追いかけて来ることも、無いはずです!」
マギーが一生懸命思い出しながらわたわたと言う。
なんていうか、たどたどしく言葉を紡ぐ際に一瞬目をつむり言葉を出そうとしている所が天使である。
「まあ、あれだけ峠でやらかしたからな。
追っ手も早々ついてこれねーだろ」
ミーニャは適当に言う。
本当に適当だ。そして、なにか身に着けろ。
ぼろを纏っているが色々見えている。
「さておき、ケイさん。
ケイさんの右手を見てください」
「ん、右手?
ってなんだこりゃ!」
右手に浮かぶ目を象ったかのような文様。
「それは、ケイさんが英雄譚召喚をマスターした証拠です。
さきほどのミーニャさんの腕の文様について説明がありましたよね?
あれと同じものです。
ケイさんが種族特性を修めると証としてそう言った文様が浮かぶのです!」
「おい、これは消せるのか!?」
「け、消す?」
いや、だって、ようはタトゥーだろ?
日本人にとってはタトゥーは刺青だ。
おっさんだと言われようがファッションタトゥーと言っても所詮タトゥーであり刺青だ。
「ケイ、慣れてくれば自由に出したり消したり出来るぞ?
最もあたしたち精霊種にとってはそれが一つの成人の証みたいなもんだからな、わざわざ消そうとする奴の方が珍しいぞ!」
ミーニャがかんらかんらと笑いながら言う。
ともかくも自分の意思で消したりできるらしい。
せっかくきれいな身体になったのだ、きれいなままで居たいものである。
「エリオース。
ってことは、俺は次の技能召喚が使えるってことか!?」
ちょっとだけ期待。
「はい!
あ、でも技能召喚は成功するまでに大変な修行と訓練が必要になるのですけれど……」
まあ、俺も簡単に使えるとは思っては居ない。
だが、色々と試すのもありだろうと思いつつ、心の中のエロ本リストからやってみたい技や魔法をピックアップしていた。
うん。
エロ本、エロゲにある能力って大抵そっち方面なんだよなぁ……
この世界で触手とかどういう扱いなんだろうなぁ……と遠い目をして俺は一向に光の見えないこの林の先を見ていた。
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この世界に魔物とか魔王などという存在は居るのだろうか?
少し気になってミーニャに聞いてみた。
「ミーニャさん、この世界に魔物や魔王なんて居るんですかね?」
「おいおい、あたしもマギーみたいにミーニャって呼んでくれよ!」
まずは質問に答えて欲しいところではあるが、心の中ではミーニャ呼ばわりだったので特に問題はないだろう。
だがしかし、ミーニャのこのマッシブな身体を前にミーニャさん呼ばわりしたくなるこの気持ちも分かって欲しい!
こほん。
「はいはい、それでミーニャ、俺はこっちに召喚されてきたばかりから全くの常識が分からないんだが……」
「そうだな、マモノってのがどういう存在か分からないが、魔王なら1000年前に居たって話だぞ。
今の時代にゃそんな存在はいないなぁ。まあ、おとぎ話だよ」
「え?
魔王はともかく、魔物っていうのはそうだな、たとえばゴブリンとかオークとかオーガとか」
触手は敢えて言うまい。
とりあえず御三家?だっけか、どっちかっつーとエロゲでお世話になる御三家なんだが聞いてみる。
「ゴブリン?オーク?オーガ?
聞いたことねえなぁ」
ミーニャが首を傾げる。
「えーと、固有名詞は通じないか。
人に害を為す生き物の総称みたいなもんだよ。
と言っても狼とか熊とか自然発生するような生き物じゃなくてさ」
どう言えばいいのだろう?
この辺りのニュアンスって伝えにくいよな。
「狼や熊、猪なんかは居るし、冬になればえさを求めて人里に下りてきたりもするけど、それとは違うのか?」
違うというように首を横に振って、馬車の縁にもたれかかる。
あー、多分魔力溜まり、とかそういう概念と現象がないのだろう。
伝わらないってことは恐らく、そういう存在も居ない、ってことか。
てことは冒険者なんてのもいないんだろーなーと漠然と考える。
次に気になるのは技能召喚のことだ。
この短時間で俺が英雄譚召喚をマスター出来たのは、魔力チートのおかげで湯水のように召喚を行ったからだろう。
多分、直前のエロ本メテオレインが一番の経験になったのだろうと思うのだが、あれ自体は使い勝手の良い手段ではない。
ま、城壁が崩せる時点で物理的におかしいだろうと思わなくも無いくらいの威力はあるが、対人戦、特に2人や3人相手では当てること自体に難が出そうだ。
だからこその技能召喚である。
技か。
なんかあったかな?と考えた。
アイテムまで込みで呼び出せるのなら、一瞬で女の子を堕落させちゃうようなアリエナイ媚薬とか。
女の子をエッチな気分にさせちゃう催眠マシンとか。
NTRで有名なゲームに、呑ませると即堕ちするくらい不思議な効果を持った日本酒なんてものもあったな。
技かー。
童貞の癖にAVを見て模倣した、処女なのに絶頂させちゃうテクニックとか……
だめだ、エロにしか向かない。
そして相手は全て女の子だっ!
敵が全て女の子なら良いんだろうけど、カレンドロとかディゲネオスとかだったら目も当てれない。
ていうか、薬なんてどうやって飲ますんだっていうの。
あ、そういえば触手好きな王子様が魔王を自称して各国を攻めるエロゲがあったな。
「テンタクルキング~勇壮なる王女を触手の生贄に~」(エイスクロウ作・2011年)だ。
あれって主人公が確か魔法で触手を召喚して使役するんだよな。
触手ね。
俺の触手アーカイブからとりあえず、メジャーどころだけで20作くらいを思い浮かべる。
あれだな、パッケージも合ったほうがイメージしやすいよな。
そう思い件のテンタクルキングを召喚してみた。
マギーやミーニャが居るのでどきどきだが、パッケージの裏さえ見なければ爽やか系な絵だから大丈夫だろう。
そんなことを思い、頭の中で様々な触手の形を思い浮かべていたその時だった。
「皆さんっ、避けてっ!」
マギーが叫ぶ。
瞬間、爆発的な魔力の高まりを感じ、エリオースを引っ掴んで馬車から飛び降りた。
マギーは既に飛び降りたのかごろごろと転がっていたし、ミーニャも素晴らしいバランスですたっと着地をしている。
直後馬車が爆ぜた。
馬が狂乱しているが、こちらはそこまで気を配る余裕が無い。
そこに血走った目を剥いて、こちらを睨むカレンドロとディゲネオスが立っていたからだ。
「見つけたぜぇ、エルフゥ。
てめえはここでぶっ殺してやるぅ」
酔っているのかと言わんばかりにまともに言葉を紡げないカレンドロに、尖ったような魔力の威圧で刺してくるディゲネオス。
「あっれー、生きてたんだ。
俺なら、か弱いエルフを前に敗北して這いつくばった時点で首くくって死ぬけどな!」
そう言ってマギーとエリオースを後ろに精一杯の虚勢を張る。
マギーとエリオースは飛び降りた際の衝撃で負ったダメージから回復せず。
特にエリオースは拘束からのダメージが完全に回復していないのだろう、真っ青な顔で蹲っているほどだ。
とは言うものこちらも何かしらと手立てを立てなくてはいけないのだ。
教会騎士はこいつらしか追ってこれなかったのか、他に敵は居ないのか、用心深く周りを見渡しながらどうやって逃げるかそれだけを考えていた。
「おい、ケイ。
なんか秘策はあったりするのか?」
ミーニャが手斧を構え隣に並ぶ。
「奴らの注意を引き付けている間に少なくともマギーとエリオースが逃げる隙を作りたい」
「それでその後は?」
「俺たちも一目散に逃げる!」
ほとんど手が無いのと一緒じゃねーか!とお互いに笑いながら、俺たちは二人を睨む。
ディゲネオスの相手を俺が。
カレンドロは、あたしじゃ長時間の足止めは無理かもね、と弱音を吐くも仕方ないなと頷いたミーニャが。
目標、逃亡。
勝利は無くてもいいが戦力的に心許ない俺たちは挫けそうになる心を奮い立たせ何とか敵に向かい立ったのだった。
次回触手は出るのか?
出ないのか?
乞うご期待?
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