第一話
何で数学ってこんなに面倒なんだろう。二次不等式だの三角比だの、日常生活で絶対求めない答えを要求される。もし数学というものが人間だったなら、相当嫌われるだろうな。・・・と言っている俺は理系クラス。数学は面倒で嫌だと言いつつ、数学を中心とした学習を受けている。矛盾していると思うだろうが、理系のほうが進学、就職に強いと聞いたから入ったまで。それ以外に特に思い入れはない。
ふと、目線を黒板から足元へ移す。そしてその目線をゆっくり後方へ動かす。そこには、紺色のハイソックスに包まれ、学校内で履くサンダルを脱ぎ捨てた女子生徒の足があった。その足は不定期に指をくねくねと動かし、まるで足フェチである俺を誘っているかのように見える。ああ、触ってみたい、嗅いでみたい。どんな感触なのか、どんな匂いなのか、体験したことのない俺には何一つ分からない。こうやって、授業に飽きると後ろの席の女子生徒の足を眺めるのが日課となっている。周りから見ると、俺は頭を下げて寝ているようにしか見えない。バレる心配はない。あ、足が見えなくなった。今まで脚を伸ばしていたのだが、膝を曲げて足を椅子の下へ持っていってしまった。くそ、授業中の楽しみが・・・
トントン、と背中を叩かれた。振り向くと、後ろの女子生徒「相沢奈野」が二つ折りの紙切れを渡してきた。一瞬、俺が落し物でもしたのかと思ったが、見覚えがない。まさか、告白的な・・・?紙にはこう書いてあった。
「私の足、あまり見ないで。恥ずかしいよ。
そんなに私の足が気になるなら、部活終わったあと、この教室に来て」
一気に顔が青ざめた。ある意味告白だ。まさか、足を見ていたことがバレていたなんて・・・
でも、この教室に来て、は引っかかる。一体何をするつもりなのだろう。
恐る恐る振り向くと、相沢奈野は微かに笑みを浮かべていた。
愛想笑いしか出来なかった。
陸上部に所属し、尚且つ部長を務めて5ヶ月。部長の仕事にもすっかり慣れ、蟠りのない時間が過ぎていく。時々、女子部員の脚を眺めつつ、練習に励む。そして部の練習も終わり、解散したところであの紙切れを思い出した。ある意味合っていた告白の紙。まさか、セクハラとかで訴えられるんじゃないだろうか、と恐怖感を抱きつつ教室へ向かった。
11月に入り、すっかり秋を迎えた6時の空は暗い。少し肌寒いなか、教室に入ると、相沢が椅子に座って待っていた。
「相沢さん」
あまり面識がないのでさん付けで呼ぶと、彼女は顔を向け、立ち上がるとこちらへ向かってきた。恐怖感が増す。俺はこれからどうされるのだろう。恐る恐る、口を開いた。
「あの、知ってたんですか?」
彼女の顔色を伺う。整った顔立ちで、ショートヘアの彼女は怒っているように見えない。
「うん。寝ているわけでもなさそうなのに、頭を下げて何やってるのかなーって気になってたの。私が脚を伸ばすと頭を下げるし、椅子の下に持ってくと頭上げるでしょ?それで気づいたの」
「ごめん、変なことして・・・でも、悪気はないんだよ、ただ、見ていたかっただけで・・・」
ついカミングアウトしてしまった。ああ、どうしよう、今まで誰にも言わなかった性癖を、よりによって女子、しかも整った顔立ちで可愛いとまでと思える女子に知られてしまった。
「見ているだけでいいの?」
相沢さんが言った。でも言っている意味が分からない。
「何が?」
訊くと、彼女は近くの机に座り、脚をこちらに向けて言った。
「私の脚、見ているだけで良いのかって。本当は、触ったりしたいんでしょ?」
紺色のハイソックスに包まれた足裏を見せ、指をくねくねと動かした。
「修也君だけ、特別だよ・・・?」
その言葉だけで、俺を動かすには十分だった。有無を言わず、相沢さんのふくらはぎに手をつけた。
俺とはぜんぜん違う柔らかさ・・・ふにふにしていて、ずっと触っていたくなる。
撫でる様に、ふくらはぎから足首へ、足首から足裏へ手を滑らせる。5本の指すべてを使って、ハイソックス越しに足の甲から足指、踵まで、そっと撫でるように触る。
「ふふっ、くすぐったいよ・・・」
嫌がってなさそうだし、今度は親指を使ってふにふにと揉んでみる。
「気持ちいい・・・」
少しむくんでいるせいもあり、足裏でもすごく柔らかい。女の子の足って、こんなに柔らかいんだ・・・
鼻を近づけて匂いを嗅いでみたが、蒸れてなくて匂いはあまりしない。だんだん欲求が増し、ハイソックスを脱がそうと手を動かす。
「やりたい放題だね」
「特別なんでしょ」
ハイソックスを脱がすと、ツヤのある、スベスベの綺麗な足が姿を表した。
ハイソックス越しには分からなかった、ぷにぷにとした感触。ほんの少しだが、足の裏独特の匂いがする。
口を開き、舌を付けようとした時、
「はい、おしまい」
と、俺の手から足が離れた。
「もう少し位いいじゃん」
駄々をこねたが、結果は同じだった。もう少しで舐められるところだったのに。
「まさか、修也君がここまで足フェチとは思わなかったよ」
「悪かったな」
脱がしたハイソックスを履き直し、相沢さんは俺に訊く。
「もっとしたい?」
「なにを?」
「今日みたいに、私の足で遊びたい?」
遊びという表現が少し引っかかるが、したい。
「正直、したいです」
それを訊くと、相沢さんは笑みを浮かべて、そしてこう言った。
「私の足が欲しかったら、私と付き合ってください。ずっと好きでした」