プロローグ
AM:7:40
16回目の桜舞う季節
長い桜並木の坂を登りきり
妙な達成感に包まれている中、
お世辞にも桜とマッチしているとは言い難い
石造りの門前に立つ。
朝早いというのに坂を登る人達が多いところはさすがマンモス校と言うべきか。
「ねえ、雪ちゃんせっかくだから写真撮らない?」
「いいよ別に」
「えー?そんなぁ、お父さんからもおねがいしてよぉ」
「そうだな、雪矢、母さんと並んで撮ったらどうだ?高校生活スタートを記念してさ」
「わかったよ、撮るよ、はい」
俺は校門から振り向き…
その時俺の視界を遮るかのように綺麗な桜と共に黒髪が揺れていた…そして眼前にはお姫様のような美少女。
「じゃ、お父さんお願いね。ほら雪ちゃーんぼぉーとしてないでこっち来てよぅ」
「あ、うん」
俺は母さんの隣へ向かう、
気になってもう一度校門を見たが、もう彼女の姿は見えなかった。
……可愛いかったな今の娘
けどまあ気にしたところでどうにもならないので、俺は父さんの方へ向く
「さっさと撮ってよ、父さん」
「そんなせかすなって、雪矢はもっと笑え、母さんの方が幸せそうな顔してるぞ」
母さんは満更でもないようでえへへぇとはにかんでいる
「はい、ピーース」
ちょっと溜めて父がシャッターを押す、
カシャッ
デジカメのくせに一眼レフのような音を鳴らす。
父さんは画像を確認してから、デジカメをしまう。
一呼吸置いて、母さんが懐かしむように俺に話しかける
「お母さんもお父さんも驚いてたのよ、雪ちゃんがランシェルを第一志望にしたいって言って」
「合格出来ないと思ってた?」
「それもあるけど、もっと大事なことよ」
「なんだ?学費?」
考えてみればそうだ 、ランシェル学園は校舎を見るだけでも相当な名門だとわかるし学習内容も一般のそれよりもずっと力を入れているだろう
そしてフリーダムがカリキュラムとして入っている、設備がどうのとかのレベルではない
お金がかかっても不思議ではないだろう
「ランシェルのような素敵な学校に行きたいという息子に対して、親が足を引っ張るわけにはいけないでしょ、心配しなくて大丈夫よ」
「まあ、ここまで頑張ってきたのは雪矢なんだ、父さんは雪矢に最大限のサポートするだけだよ」
我ながら素敵な両親を持っていたと、
今更ながら思う
感謝せねば。
……でも
「じゃあ、驚いた理由って何?」
「ちょっといじわるな言い方だけど雪ちゃんは
中学の時に何度も生徒指導入ってたでしょ?だからもっとやんちゃな高校に行くと思ってたのよ。
でも雪ちゃんはランシェルを目指した、ランシェルは名門だから雪ちゃんには窮屈なんじゃないかって。」
「でも雪矢自らランシェルを望むのならそれも良いじゃないか。きっとランシェルは雪矢を成長させてくれる、そう父さんと母さんは思ったんだ。」
父さんは続けて
「父さんと母さんは雪矢が元気でいてくれればそれで良いんだ、フリーダムに入り浸るだけじゃなく勉強もしっかりやるんだぞ。」
俺のことをホントにわかっているんだな、
俺はもう一度心の中で父さんと母さんに感謝して
「寮生活だからしばらく会えないけどたまには手紙出すよ」
これが今できる最大の孝行だろう
「メールはダメよ、可愛い便箋に入れてラブレターを書くみたいに丁寧に書きなさい。」
「善処するよ」
「絶対ね」
「……。」
全くこの母親はなんでこう若々しいのだろうか
8時近くになり坂を登る生徒とその親が増えてきた、そろそろ入学式の会場へ行かなくては。
それにそろそろ冬谷がくる時刻だな
AM:8:00
「雪矢!待たせたな、遂に入学式だぜ!」
予定時刻ピッタリにご登場だな
「それに…冬谷も一緒だからね、不安もあるけど、期待もあるさ。」
「そうね、頑張って雪ちゃん。
冬谷くん、迷惑かも知れないけど、息子の事よろしくね。」
「いえいえ雪矢がどうしてもって聞かないんで、ここでも付き合ってやりますよ。」
口が達者だねぇ相変わらず
「雪矢、怖い顔してるぞ。なんだ?俺じゃ不服か?」
少し気にくわないが全然不服じゃないね
軽く首を振る
「じゃあ早く行こうぜ、置いてくぞ!」
待ってたのは俺なんだが
「じゃあ父さん、母さん行ってきます。」
「ええ、行ってらっしゃい」
「気を付けてな、頑張ってこい雪矢。」
俺の前には未来が待っている
「早くこいよー、雪矢ー!」
はいはい
俺は冬谷の元へ走り出す
どんな未来が待っているのだろうか?
桜舞う中、俺は想う
期待と希望を胸に俺の高校生活が始まった。
プロローグ終了、
第1話へ続く