表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋人形劇の閉幕  作者: ささ
第一幕  スカイブルー――開幕の空色
3/18

02

以来、僕は毎日その天使――歌手の元を訪れている。

 縁側に腰をかけ、風流さのかけらもない野生味あふれる庭を眺めながら話す内容は、他愛もないものばかりだった。

 例えば、僕の身の上話――年齢が十七歳であること。中学を卒業してから着の身着のまま自転車での旅をはじめ、未だ根無し草の風来人であること。およそ二年間の旅での体験談――などを話したが、頷く歌手がどれほど内容を理解しているのかは、僕にはわからなかった。なにせ歌手は、この民家のある敷地を取り囲む垣根の外には出たことがない、というのだから。

 ただし本人いわく、『私は旧式ではありますが、字の読み書きは難なくこなせますの。お家にある書物は、図鑑、辞書、実用書、小説……絵本にいたるまで、すべてに目を通しましたので、そこまで外の方と乖離した思考、知識量ではないはずですわ。私をつくられたかたやお客人から、外のお話を聞く機会も幾度もございました。見くびらないでくださいまし』……らしい。話しているうちにわかってきたのだが、歌手は見た目と立ち振る舞いの優雅さに反して、頑固で気位の高い一面も持ち合わせている。

 もっとも僕としても自分の旅の軌跡などは聞いてもらいたくて自己満足で話しているだけなので、たとえ歌手が内心では要領を得ない他人事として捉えていたとしても、いっこうに構わなかった。(未知のおもしろい話、とか思われていたら、それはもちろん嬉しいけれど……)

 一方の歌手はといえば、終始僕の話の聞き手に回ることが多く、自分の話はほとんどしなかった。それどころか、僕からの歌手に対する質問をさらりとかわすこともままある。

 たまに歌手から聞ける歌手の話は、この廃屋の敷地がすっかり森の一部になった以降におこった出来事の話だった。天使の噂話を真に受けこの場所を訪れる奇特な人物が僕の他にも過去に何人かいたようで、そんなお客との思い出話。

 歌手の過去の断片に触れるのは楽しかった。……おおよそは。その思い出話には、歌手にとって特別な思い入れのあるらしい登場人物がでてくるときがある。

 そのたびに僕は密かに動揺し、その動揺を隠した。

 『愛するかた』と表現されるその人物について訊くには、まだ僕の心の準備はできていない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ