02
――冷たい。
気がつけば、いつからか頬に心地よい感触。冷たい、なのに気持ちが安らぐ。懐かしい気さえする。
僕は冷たさの先に視線を向けた。
歌手が僕に手を伸ばしている。僕の頬に触れ、手を往復させている――なでている。冷たいつくりものの手で。
歌手の目と僕の目が合う。
「顔が熱くなっているわ」
どこか不思議そうな様子で歌手がつぶやいた。
「なんで」
僕は自分の顔の表面をすべる歌手の手をつかむ。なかばすがる思いで。僕の手は震えている。
歌手の指が、遊ぶように僕の指に絡ませられる。
「大丈夫よ」
「なんで……なんで僕に、優しくするの」
「おかしいかしら。ナツルもよく私に優しくしてくださるわ」
「僕はきみに、ひどいことを。なのに」
「いつもは優しいもの、そうでないときもあるでしょう。恒久的に続くこと、同じでいられるものなんてないわ。永遠はないのよ。それに貴方……」
歌手は僕の頬から、僕の手から自身の手を離す。僕にそっと差し出して見せた手の平は、透明な液体で濡れていた。
歌手のその手を握りしめていた僕の手にも、滲んでいる液体。
「なん、で」
僕は……。
「ナツル。泣かないで」
僕は今、泣いている。
歌手は僕の頭をなでる。
「いいえ。違うわ。泣きたいのよね」
あやすような穏やかな口調で。
「それなら、泣くといいわ。そして、よろしければでいいの。よろしければまた、私と親しい、優しいナツルに戻ってね」
言って、歌手は微笑んだようだった。
僕にはよく見えない。
再び視界をふさぎだした水が邪魔だった。