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恋人形劇の閉幕  作者: ささ
第四幕  ウォーターブルー――氷晶と水色
12/18

02

 ――冷たい。

 気がつけば、いつからか頬に心地よい感触。冷たい、なのに気持ちが安らぐ。懐かしい気さえする。

 僕は冷たさの先に視線を向けた。

 歌手が僕に手を伸ばしている。僕の頬に触れ、手を往復させている――なでている。冷たいつくりものの手で。

 歌手の目と僕の目が合う。

「顔が熱くなっているわ」

 どこか不思議そうな様子で歌手がつぶやいた。

「なんで」

 僕は自分の顔の表面をすべる歌手の手をつかむ。なかばすがる思いで。僕の手は震えている。

 歌手の指が、遊ぶように僕の指に絡ませられる。

「大丈夫よ」

「なんで……なんで僕に、優しくするの」

「おかしいかしら。ナツルもよく私に優しくしてくださるわ」

「僕はきみに、ひどいことを。なのに」

「いつもは優しいもの、そうでないときもあるでしょう。恒久的に続くこと、同じでいられるものなんてないわ。永遠はないのよ。それに貴方……」

 歌手は僕の頬から、僕の手から自身の手を離す。僕にそっと差し出して見せた手の平は、透明な液体で濡れていた。

 歌手のその手を握りしめていた僕の手にも、滲んでいる液体。

「なん、で」

 僕は……。

「ナツル。泣かないで」

 僕は今、泣いている。

 歌手は僕の頭をなでる。

「いいえ。違うわ。泣きたいのよね」

 あやすような穏やかな口調で。

「それなら、泣くといいわ。そして、よろしければでいいの。よろしければまた、私と親しい、優しいナツルに戻ってね」

 言って、歌手は微笑んだようだった。

 僕にはよく見えない。

 再び視界をふさぎだした水が邪魔だった。

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