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建ち並ぶビル。照り返しが酷いコンクリートで補整された道。
溢れる人波。
忙しなく、そして流れる。
その中でぽつりと、だが異色異彩“電波オーラ”垂れ流しな2人が、その道を遮るように堂々ど真ん中に立ち尽くしていた。
というか、紙を見つめていた。
頭には丁寧にお団子のように髪をまとめ、夏----しかも八月を迎えたというのに----暑そうなフリルふんだんのロリータ調のワンピース。肩掛けの花型鞄。
なんでもお揃いだった。
まるで双子のように。実際そうなのであろう、見た目もそっくりで愛らしい10歳前後の少女だった。
でも唯一違う----というか、それが絶対的な違いなのだが、2人は色違いで左右対称だった。
お団子の位置も、鞄の向きも、覗き込んでいる紙を持つ手も反対だった(手を繋いでいた為だろう)。
全体的に右に寄ってるのが蒼くて、左に寄ってるのが紅かった。
傍目からすれば普通じゃなかった。色だけじゃなく、雰囲気も。
「どうしよ、蒼花。」
紅い方が右を向く。
「困ったね、紅花。」
蒼い方が左を向く。
「「迷っちゃったね!」」
手を繋いだまま2人は笑い合う。屈託のない無邪気な笑顔。
全然困った風には見えなかった。
2人は魔女だった。
いや、現在も魔女であるから、だった、では不適切である。
そして厳密にいうなら、『魔女会』という一つの団体に属する一人前の魔女だ。
能力者が蔓延る現代の世界で似たような能力者たちの集まりは重要視されていた。
魔女会も、その集まりの中では名の知れた大きな団体だった。
年齢が幼い割に強力な魔女だった2人は団体でも一目置かれる存在だったのだが、それだけではなかった。
悪戯好きなのだ。
それはもう並ではない。使い魔を飴に変えてしまったり、つまらない魔術書を破るだけならまだ良いが、最高機密文献を破損された日には魔女会全体で処罰会議が行われるほどだった。
度重なる悪行。
今回はその罰なのである。
『いいこと?紅花、蒼花。2人にはこれを預けます。ああダメ、その包みを開けてはいけません。それを開けるとクロレラさんが2人を醜いカラスに変えてやる!って憤っていたから……これを2人に一つづつ預けます。そしてこのメモを頼りに、それをある人に渡してきて頂戴。お遣いがしたいって言っていたでしょう?じゃあ、出来るわよね?…届けるまでは絶対に開けてはだめよ?』
そして今に至る。
流石に立ち尽くすのに疲れたのか、建物の陰へと移動すると、困ったら使いなさいと言われ渡されたがま口小銭入れを開け自販機でジュースを買っていた。
困るの意味合いが小さいところが年相応である。
ペットボトルに可愛いキャラが描かれた『リンリンちゃん』りんごジュースを2人で分け合う姿も年相応で微笑ましかった。
そう、微笑ましかったのだ。
ペットボトルが真っ二つに割れるまでは。
中身が噴き出す。
甘い果実の匂いを撒き散らし、2人の小さな掌を濡らす。
誰も気付かない。
過ぎ行く人波は何も感じない。
感じれないのだ。
そう、ただ2人だけが。
じっとりとベタベタと。
手を濡らしたジュースのように。
目の前の街路樹の陰に張り付くその訳のわからない黒いものが。
ただこちらをじっとりと見つめているのを。
咄嗟に。
何方からとも無く走り。
ただその陰に追いつかれぬよう2人は走り。
次の角を、ひと気の少ない裏路地へと曲がり小さく呪文を唱えると、その細い体躯からは想像も出来ない脚力をもって外壁を駆け上がる。
建物の真上に降り立つ頃には汗で可愛い服もびっしょりだった。
「蒼花、あれ何…?」
「知らないよ…?あんなの知らない…あんな…」
「「混沌とした死の塊…」」
「追っかけてこないかなぁ…やだよぉ蒼花ぁ…」
半ベソをかき蒼花にぎゅっと抱き付くと紅花はさらにその目に涙を浮かべる。
「大丈夫…なはずだよ?紅花、大丈夫。ワタシたちはユーノウだって総長に言われたよ。もし追っかけてきてもあの変なのくらいやっつけれるよ」
そっと紅花の頭に手をおき撫でると頷きあう。
「うん、だよね!アタシたちはユーノウだもの!蒼花と一緒なら大丈夫!」
「うん、だから行こう!お遣いしたらご褒美も待ってるんだから!」
そして再び笑い合う。
ただ、2人は知らない。
この後またアレに会うなんて。
それが、何かなんて。
知らなければ、良かったのだ。