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勇者と魔女

作者: 寺越巧

それは、何度目かの邂逅の事である。勇者と共に旅を続けるパーティーメンバーはため息をつく。これで本当に何度目だ、この魔女が我々の邪魔をするのは。


勇者が精霊や神々の力を得ようとする度に現れる魔女。その力は大魔女と呼ばれるに相応しい強大なものだったが、世界に加護を受ける勇者の前では赤子同然の存在。当然簡単に阻止されてしまうし、その度に動けなくなるまでたたきのめされる。それでも諦めきれないのか何度だって突撃してくる。



その度に何度もまたかと勇者パーティーに言われるが、それでもめげずに魔女は勇者の力を狙う。精霊や神に授けられるのは世界を救う救世の力であり、唯一勇者のみが恩恵を受けることが出来るという。そんな力を私利私欲の為に使おうとする魔女に授けられるはずがないということをいい加減理解すべきだ。


「きゃぁぁ!」


今日も魔女は勇者の放つ必殺の精霊剣で簡単に倒されてしまう。



ボロボロになってうずくまる魔女に、パーティーの一人である弓使いの少女は近づくと爪先で魔女を蹴転がし顔を拝む。絶世の美女とはいかないが、整った顔を持つ魔女の顔が苦痛に歪んだ。



「いい加減にしたらどう?私達は世界を救う大事な御役目の途中なの。」


「うるさい小娘が!」


急に大声を発したせいか、魔女はゴホゴホと咳き込む。時折血が混じっているあたり、内蔵にダメージがいっているのだろう。



ボコボコにされて地面にはいつくばる魔女を尻目に興味を無くしたように少女は勇者に促した。



「さ、勇者様!早く精霊セレーヌの加護をいただいちゃいましょ!」



「・・・ああ」



そういって勇者が洞窟の最奥にあった祭壇を見上げる。すると辺りをまばゆい光りが包み、続いて人でない、美しいものが現れた。



「勇者アークよ。よく来て下さいました。私は音の精霊。四大に比べれば微々たる力ではありますが、どうぞよしなに。」



そういうと精霊セレーヌは光の粒となり、それは勇者の身体を包み込む。



勇者に音の力が宿った


遠音を覚えた

音速波を覚えた

心音を覚えた



光の粒に目を閉じていた勇者は目を開き、精霊の加護を確かめるように耳をすます。



それを動かぬ身体を無理矢理起こして見ていた魔女は再び身体を崩れ落ち、ガリガリと美しい爪が割れるのも気にせず床を掻く。



「どうしてっ!そいつばかりなの!?何で私じゃ駄目なのっ!」



罵声を浴びせようとした仲間達を留め、魔女の前に立つ。




「俺が選ばれてしまったからだ。」



そう告げる勇者。普段は表情の乏しい、その顔が寂しげに歪んでいた。



「なんでっ、



なんで・・・




あんたばっかりそんな目に合うのよ。」



顔を俯け、小刻みに震えていた魔女はきっ、と顔を上げる。その顔は涙に濡れていた。




「あんなに戦うの嫌いだったじゃない!彼女もずっとまってるのよ!こんなんじゃあんた、一生神様に縛られて自由になんてなれないじゃない!」








わあわあ子供のように歎く魔女。ホントは勇者の幼なじみで大した魔力なんてなかったけれど、彼を助けるため血ヘドを吐きながら頑張った。ついには大魔女と呼ばれるほどに。


報われなかったけど。


彼女は努力の天才だったけど、世界の加護を持つ勇者を越えられない。だから、勇者は死地へと幾度となく赴いていった。

彼を村へと帰したい。世界なんてどうでもいいととれるこの言動は世界から私利私欲との判定を受ける。




「ドロシー、お前は村に帰りな。戦場にお前は似合わない。」



パシュッという音ともに魔女から魔力が吸い取られ、勇者に吸収される。



「全部、俺がもっていくから。」



勇者の気持ちに答えた精霊の仕業でした。また別の精霊が応え、彼女を村へと送り返そうとします。




「ばか!このばか!帰ってくるって約束も残さないで!あの子がどんな思いでいるのか知ってて!」


「すまない。でも、無理なんだ。俺が救わないと。その為の力なんだ。その為だけの、力なんだよ。さよなら。ドロシー。」


「アーク!」


ふっと掻き消える魔女、いえただの女性を見送ると、勇者は仲間達を振り返った。




「さあ、世界を救いにいこう。」




その後世界は幾度となく救われ、勇者は伝説となった。

彼が村に戻ったという話しは後世には伝わっていない。






+++++++++++++++


世界に愛される勇者と見放される魔女。

勇者と魔女ともう一人勇者の恋人が幼なじみ。ホントは結婚して村でのんびりほんわかとしたかった。しかし世界の危機に立ちあがざるを得なかったため一人村を出る。魔女は身体の弱い恋人に必ず連れて帰るからと追いかける。最終的には彼が得る力を自分が手に入れれば、彼は帰れると力を奪いにかかるも返り討ち。

最後は鍛えた魔力を全て失って村に強制送還。全て取られたからもう魔女にはなれず、勇者の恋人を慰めながら一生を村で過ごす。

勇者はその加護の力で世界を救うも、その力に寄せられまた世界の危機が訪れるといういたちごっこ。結局、彼は世界は救えても自分達は救えない。そんな悲劇を何度も繰り返してる。


彼等の定められた運命は


勇者アーク

「破滅的加護」

世界から加護を受けるも自分の幸せは二の次な人生を送る。



魔女ドロシー

「実らぬ努力」

どんなに願っても叶わないことは存在しちゃうの。



恋人リーザ

「遠き愛」

ある意味最大の傍観者。愛する人と結ばれることはないが、思いを胸に今日も遠くから見守ります。



誰か一人だけなら救いもあったかも知れないけれど、三人セットだから手に負えない。

隠れたお題は「世界と彼女、どっちが大事なの!」

「仕事と私」とは比べもんにならんほど一択じゃん。

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