愚かな勇者
誰にも俺は理解されない。
「勇者殿!」
「勇者様!」
周りの人間が俺を勇者と讃える、俺にそんな資格があるかわからない。
「勇者様どうかこの世界を救ってください」
いきなりこの世界来ていきなりこれとは・・・初対面の人間に何を言っているのだろう、気が狂ってる。
「・・・分かった、何をすればいい?」
俺を理解しないあの世界にいても仕方がなかったので今回のことには感謝している、だからこの願いを引き受けよう、俺に何かできるとは思わないが。
「魔王を、魔王を倒してください・・・どうかお願いします」
見目麗しい美姫が俺に頼み込む、この人は俺を理解できるのだろうか?
「別に頼まれるのならそうしよう、だが俺にそんな力があるとは思えない」
「いえ、勇者様は強い魔力をお持ちです、それがあれば魔王にも勝てるでしょう」
ご都合主義バンザイといったところだな、まぁどうでもいいか、勝てる見込みがあるのならばそれでいい。
「そうか、では引き受けよう」
「ありがとうございます」
深く腰を折って謝礼をする美姫、周りの人間が慌てている、苦笑する、俺はそこまでの人間でもない。
「俺はそこまでお礼を言われる程の人間でもない」
「ですが・・・」
「それに俺はこの世界に来たばかりで右も左も分からない、けどあなたは上に立つ人間だということぐらいわかる、臣下の前でそういうことはしてはいけないんじゃないか?」
「それは・・・そうですが・・・」
周りの人間も同意するように首を縦に振る。
「・・・そうですね、分かりました、勇者様こちらへこの世界のことについてご説明します」
敬語を使うがあくまで姿勢は同等で、さすが上に立つ人間は違う、そこらへんは嫌味なまでに完璧だ。
遠巻きからこちらを見ていた赤い女騎士がこちらを訝しそうに見ていた、それが少し気になった。
ここの生活にも少し慣れた、剣の使い方と魔法について学び一ヶ月が経つ。
今日も日課の剣の練習をしている、最初に比べあまり進歩しているとは思えない。
「おい・・・」
後数週間するとここを出で行かなくてはならない、いつ行かないといけないのか分からなかったので日程を作ってくれたのはありがたい。
「おい貴様!聞いてるのか!おい!」
「ん・・・?なんだ?」
話しかけてきたのは召喚された時に訝しげな視線を向けてきた女騎士だった。
「ぐ、騎士を愚弄するか!?」
「いや、なんだそれ、新手のいじめか?」
たまにあることだ、あんな奴が魔王を倒せるのか?といった風の人間がよくいる、まあそれは当然のことだ、魔王に勝てなかったら誰も勝てないからな。
「ち、ちがうわ!」
「じゃあなんだよ」
剣を杖にして腰をかがめた老人のようにする。
「そんな剣で魔王に勝てるものか!」
「さぁ?どうかな?」
手に顎を載せる、まあ俺もこんな奴に敬意は払いたくないのである。
「ぐ!貴様ぁ!」
剣を抜いて切りつけてくる、当然切られるのは痛いので剣の腹で受け止める。
「そんなに気になるなら試してみてよ?」
「いいだろう!」
「ほい、俺の勝ちね?」
騎士が剣を振る前に剣を相手の首元に置く。
「な、どうやって」
言われるまで気がつかなかったのか驚愕する騎士、ああ滑稽だ。
「これでいいか?」
「え・・・」
「俺はお前に勝ったからもう帰ってもいいよな?」
「あ、ああ・・・」
呆然とした騎士を置いて俺は城の中に向かう、ああつまらん。
「待ってくれ!」
「・・・なんだ?」
「私も、私も一緒に連れて行ってくれ!足は引っ張らない!いらなくなったら捨ててもいい!」
「分かった、勝手にすればいい」
「・・・本当にいいのか?」
「道案内は居た方がいいからな」
「道案内・・・ははっ、そうだな、道案内か・・・ははは」
何がツボにはまったのかは知らないがとりあえず美人は笑っても美しいとしておこう。
旅の道連れだとか、そういうことはどうでもいい、ただついてきたいのなら勝手にすればいい、魔王を殺せばいいだけの旅だ。