とある憑依した2話
『感情がある人』
僕は感情がありません、いえ、間違えました感情はあります、でも感じないんです。
他人が成功しました、喜びます、でも喜んでません、見せかけだけの張りぼてです。
彼女が出来ました、彼女は僕とは上手くいっているのでしょうか?相手の感情が分かりません。
キスをしました、ファーストキスだそうです、よく分かりませんが、大切なものなのでしょう。
死にました、涙は出てきません、でも、横に誰もいません、よく分かりません。
墓参りに行きました、死のうかと思いました、でも理由が思いつきません、世に言う後追い自殺ですが悲しいと思わないのでどうしようかと思います。
お腹が痛いです、刺されました、赤いです、分からないです、最後まで、涙が、出無いんでしょ、うか?
「何で泣いているの?」
誰が泣いているのでしょうか?
「ふむ、お金がなくなりそうだ…どうしようか…」
このままでは生命の危機どころか、この話が終わってしまう、おっと、そういう話はダメだったか?
「所でここはどこなんだろうな?」
私はあの後お金を崩しながら右へ左へふらふらと放浪していた、憑依だか何だか知らないが私以外にオカルト、つまり妖怪とか神的な何かとかそういったものは何一つ見当たらない、いまだに自分の名前も分からない。
「どうしたものか…」
この娘の親は捜索願を出していないのか、まったくそういった兆しがない。
ここがどこかは忘れてしまったが、都市開発の進んだ町である、そこの繁華街に私は今いる。
「取り敢えず、ラーメンでも食べようかな」
私の目の前には美味しそうなラーメン屋さんが建っていた。
醤油のいい匂いが私の腹を刺激し腹が鳴った、ちょうどお昼だしここで食べることにしよう。
やれやれ、お金は後で考えよう、そうしよう。
「醤油ラーメン一つお願いしまーす」
椅子に座って人のよさそうなおじさんに頼む。
「はーい!醤油一つね!」
この体は何とか一人で食事処に入っても声をかけられない、胸は小さいが背は大きいのが幸いした。
といっても机より頭二つほど大きいだけだが…自分で言って悲しくなってきた。
「醤油ラーメンお持ちしましたー」
赤いどんぶりに入ったラーメンから醤油のいい匂いがする、美味しそうだ。
「はふはふ」
おお、どんぶりが熱いから汁もラーメンも超熱い、こういうのは初めてだな…熱くて上手い、麺が太いのが少しあれだがそれは人それぞれと言うモノだな。
『○○市で起こった殺人事件ですが犯人はいまだ消息は掴めておらず、警察は被害者の知人の怨恨の線で捜査を進めています』
「んにょ?」
物騒なことだ…思わず箸を置きテレビを見つめる、若いお姉さんがハキハキと情報を提出していく。
『被害者の緒方さんですが、最初の発見者の緒方さんの母親が見た時、緒方さんは全身を5~6回刺さされて死んでいました、今日はこの事件について○○大学の犯罪心理学教授の近衛氏をお呼びしました』
テレビを見ると頭部が剥げているオジサンがスーツを着て偉そうに喋っている。
『警察は怨恨の線で捜査を展開していますがこのことについてどう思いますか?』
『ふーむ、その線は濃いでしょうな』
ふむ、このオジサン私と同じ口癖を…むぅ。
『どうしででしょうか?』
『被害者は喉から腹部をかけて何度も刺されていてそして股間の部分を包丁で深く刺されています、これはかなり恨みがあった人間の犯行と思われます』
「うーむ、怖いことをする女性もいるものだ」
なんだか既視感を感じるが…。
『しかし被害者の宅からは30万円相当のお金とバックなどが盗まれているらしいですが』
『物取りの犯行に見せたかったのか、どうしても金が必要な状況だったのか…どちらにしてもこれからの詳しい警察の調査で分かっていくでしょう』
その他一切のことは分かりません!ってやつですね分かります。
『はぁ…そうですか、貴重な意見ありがとうございました』
そして画面が変わり殺された男の写真が写る。
「あ、あいつか」
そこには私が殺した男が写っていた。
取り敢えず麺が伸びるから食べよう。
「うーん……っと」
大きく背伸びして日差しを浴びる、口が臭い、今日は銭湯見つかるだろうか?
出来れば健康ランドがいいなぁ。
それよりもお金がないのをどうにかしたいな。
「ふむ、援交でもするか?」
何をバカなことを、と額を押さえて低く笑う、この小さな身では引っ掛かる客もいないだろう、あの男みたいな存在は考えたくないが。
「どうするかな、っと」
フラフラと歩きまわり、ポールを綱渡りし、石橋の端を歩いて渡り、子供だからかは知らないがとても身体能力が上がった、鬼ごっこでは誰にも負けないだろう。
「おお、公園だ、公園じゃないか、公園行こうか?いや行くべきだろう」
ん、これは反語じゃないな?まぁいいか、道路に面した人気のない公園を見つける、ここで遊ぼうか。
公園の遊具で何が好きかと言ったらそりゃぁブランコだろう、ブランコほど時間を潰せるものはないだろう。
「よ…ほっ…うりゃっ…しょっ」
ブランコの乗り方は言うまでもない、引いて押して引いて押してだ、それをするたびに少し出るお腹が可愛らしい、ふ、私は何を言っているのか、少し黙ろう。
次第に大きくなるブランコ、今の格好は茶色の縦セーターに短いスカートなので見えてしまうな、ああ、ついでに白だ、ん?聞いていなかったか、すまん。
「…つりゃっ!」
体重の関係上仕方がなくシートが半円を描くほどで限界が近づきそこから飛び降りる。
しまった、下じゃなくて上に飛んでしまった。
私の体は空中で一回転して視界が空色と緑色と茶色と黒色で目まぐるしく変わる……黒?
トス、柔らかいものが受け止められる音と自分の体に走った軽い衝撃で驚いた。
黒髪を掻き揚げ固めてやくざ面した男が私を見下ろしている。
彼が私を受け止めてくれたらしい。
「ありがとう」
「!?」
私が感謝の言葉を言うと心底驚いたという風に私をまじまじと見てくるヤンキー、きっと感謝されることになれていないのだろう、そうだろう。
「ところで」
「なんだ?」
「その顔は人さらいか何かかね?」
「お前…アホだな」
この反応と見るにただのヤンキーと言うわけでもなさそうだ、変態っぽいけど。
「ほほぅ、アホとな、何をもって私をアホと評するのか理由を要求するよ」
「普通泣くか騒ぐくらいするだろ、というよりそう見えるんだったら言わないだろ?」
「ふ、それこそ阿呆だな、私は見た目で人は判断しない…多分」
それに中身が子供じゃないからね、君ごときはもう怖くないさ、いろんなことがありすぎたよ。
「多分か?」
「誰だってレイプ魔に近寄りたくないだろ?だから多分なのさ」
「まぁ…そうなのか?」
「そんなものさレイプ魔さん」
ニヤリと笑うとそんなことを言われるとも思わなかったらしい男は驚き口を開ける。
「んなぁっ!?」
間抜けた声と共に驚きで腕の力が弛み私は身を捩り地面に着地して一端彼我の距離を取る。
「どうして俺がレイプ魔なんだ!」
「ふむ、レイプ魔じゃないと主張するかね?べたべたと触っておきながら、このスケベー」
体を抱く振りをして身をくねらせる、ロリコンはこれで顔を赤くする、こいつはどうかな?
「おいこら大人をあまりからかうんじゃないぞ?」
にこやかに笑う彼、くく、確かに子供が見たら泣くな、それにロリコンじゃないらしい。
「ふふ、21歳なんてまだまだ若造さ」
「なんで知ってるんだよ…」
「勘だ」
(21)的な感じで言ってみたんだがあってるとはな。
「ところで21歳の若造が私に何か用があるのかい?」
「用も何もこんな時間に子供がうろつくもんじゃないだろう、まだ学校の時間だろ?」
「さぁどうかなぁ、もしかしたら早めに学校が終わったのかもしれないよ?というより君の風体を鏡で再確認してからもう一度その言葉を吐くんだね」
「うっせぇ、顔は元からだ、それだったらお前以外の子供がいるだろ」
「ふむ、君は実に面倒くさい性格だね、でも馬鹿でもないし、そこまで不良でもないらしい」
「おいこら」
無視してバックを置いてあったベンチに座る、ブレ○ケアは飲んでおいたから大丈夫、臭くない…多分、つい気にしてしまい息の匂いを確認する私、ふむ、臭い。
もう一個ブレス○アを飲む、ラーメンはダメだったか。
「お前、人に嫌われるタイプだろ?」
私のあまりの物言いにジト目になる。
「さぁ、どうかな?人にもよるさ」
誰にだってこの口調なわけじゃない。
「ジュース飲むかい?」
カバンから出したヤクルトを進める、乳酸菌、きっとあれが膨れるはず乳だけに…すまない面白くなかったな。
「お、おう?」
私から受け取ったヤクルトを普通に飲み始めるヤンキー、こいつ面白いな。
「……」
「……」
二人の間をしばらく無言が占める。
「なぁ」
「ふむ、何かな?」
「お前虐められてんの?」
「ふーむ……」
確かにそうとも取れるな、でもこの場合誰に虐められていることになるのだろうか?神様は訴えられるだろうか?
「まぁ……虐められてると言えば虐められてるかな?」
「やっぱりか、なら俺が助けてやるよ」
「ほほぅ、それが漢気とやらかね?それとも人さらいの甘い言葉かね?」
「なわけねぇだろうが、俺はまだ犯罪者にはなりたくねー」
私は犯罪者だがね、それでもいいというのなら。
「そうか、なら家に泊まらせてほしい」
ちょうど家がなくて困ってたんだ、しばらく泊めてもらおうではないか。
「え?」
「え?」
助けてくれないのかね?