芋栗南瓜は正義です
「あなたなんて、婚約破棄よ!」
王立学園の放課後。生徒たちがお茶とお菓子と共におしゃべりを楽しむサロンで、場違いな叫び声が響いた。
サロン中の人の目が、叫んだ女生徒と、向かい合っている男子生徒に集まる。
婚約者のジルバートとお茶を飲んでいたマリサも、驚いて目線を二人に向けた。
「もう……、もう、無神経なあなたとは無理です!」
走り去る女生徒を男子生徒が追いかけて行き、二人の足音が遠ざかるとサロンは静寂に包まれた。
「何があったのかしら」
「凄い怒ってたな」
ジルバートとひそひそ話していたら、隣のテーブルのマリサの友人がササッとやって来て教えてくれた。
「あの方、婚約者にモンブランケーキに載ってた栗を食べられましたのよ」
「えーっ!? それは許せない! 万死に値するわ!」
「全くですわ」
頷き合ってるマリサたちに、ジルバートが恐る恐る尋ねる。
「あの……、何を怒ってるんだ……怒ってるんでしょう?」
二人に睨み付けられて、思わず丁寧語に直してしまうジルバート。
「「乙女に、芋栗南瓜は聖域なのよ!」」
「は……はあ、いもくりなんきんですか。って、それ何?」
「何てデリカシーの無い事を聞くのよ! 淑女が『イモとクリとカボチャだ』なんて言える訳ないでしょう!」
「ごめん!」
何故責められるのか分からないが、完全に迫力負けしてるジルバート。
「よりによって、モンブランの栗を奪うだなんて……。あれがあってこそのモンブランですのに」
「そんな無神経な男性を伴侶にはしたくありませんわねぇ」
うんうんと納得しているマリサたちに、ジルバートは、なんか良く分からないがモンブランの栗には手を出すまいと心に誓う。
マリサの友人が隣のテーブルに戻り、二人で冷めた紅茶を飲んで少し落ち着く。
考え込んだマリサに
「マリサ。食べないならそのスイートポテト一口くれよ」
と、ジルバートは紅茶のスプーンでマリサの注文したスイートポテトをすくってパクりと食べた。
「……ジルバート……」
地の底から響くようなマリサの声に、スプーンをくわえたままジルバートが固まる。
「私、たった今言ったわよね」
「ん?」
マリサは笑顔なのに、背景に吹雪が見えるのは気のせいか。
「芋栗南瓜に手を出すなって。スイートポテトって何から作られてるか忘れた?」
数秒の沈黙の後に、ジルバートが青ざめて答えた。
「……イモ」




