「オカッパなあいつの話」
長いと思っていた休日が終わろうとしている。普通の土日休日と月曜の奇跡的に出来た休み。名目は創立十周年の今年だけの休日となっていた。なのに俺ときたらこの休日を生かせないでいる。
一日目はいつもの土曜だから溜まった洗濯物や掃除をして買い出しに出かけた。そして次の日は日曜だから人出を気にしてネットとテレビで過ごした。そして今はその日曜日を終えようとしている。
「なんて普通の日なんだろう」
三日も休みがあるって言うのにやったのは通常のことばかり。
ここは後一日をどうしても楽しみたい。何をしようか……。何をしたら面白いと言える日になるんだろうか。考えた。
「あ……。あいつ誘ってみようかな」
同期だけど春から同じ部署になったオカッパ頭の変なヤツ。
「名前は確か……安西京、あいつ変なヤツなんだよな」
だから気が合うかもしれないと思った。
「あいつ映画とか好きかな」
さっそく教えられたLINEに連絡を入れてみる。すると数分で返事がきた。
『暇って言えば暇だけど』
『だったら映画とか一緒に行かないか?』
『いいけど。映画って一人でも観れるよね?』
何で俺と? と不信感いっぱいで言われてしまった。
『観れるけど、誰かと何かしたいんだよっ!』と訴える。すると間髪入れずに返しがきた。
『寂しいんだ』
「寂しい? 俺が?」
そこで指が止まって考えた。今までそんなこと考えてもみなかった。
「俺って寂しい奴なんだ……」
少なくともヤツにはそう見えるらしい。
「ここはどう返したらいいのかな……」
画面を見たまま固まっていると、また相手からLINEが来た。
『深く考えないでいいよ。明日映画に行こう。場所は? 何が観たいわけ?』
「考えてなかった……」
そこまでの余裕がない。
「誰と」は決まったが、「何を」の詳細がまだ決まってない。映画ってのは口実に過ぎなくて、俺は……ヤツと会いたかったんだ。
『それも俺が決めるの?』
またLINEが来て慌ててしまう。
「えっと……」
『じゃあ明日の朝十時に岡町の駅前で』
『OK。じゃ、おやすみ』
「おやすみ……。って、何かあっけないってか何で言うか」
それでも明日は用事が出来たことにちょっといい気になる。
〇
そして翌日。
「何。唐突なあのLINE」
「ごめん。お前しか思いつかなかった」
「それは光栄。で、何が観たいんだよ」
「まだ決めてない。お前は何が観たいんだよ」
「今観たいのないから何でもいい」
男二人。これで恋愛物はまずないよな。
「だったらアクションとかどう」
「いいよ」
二人して映画館の入っているビルに向かって歩き出す。まだ俺は相手のことをよく知らない。
「安西ってさ、パッと見女みたいだけど、それで困ったこととかないのか?」
「別にないかな。あ、でも今回みたいなのは案外あるよ」
「今回みたいなの?」
「そう。突然誘われるの」
「あれ、俺駄目なことしたか?」
「ああ、いいよ。気にしないで。ところで、どう呼ぶ?」
「何が?」
「名前」
「……ああ。俺のことか」
「そう」
「三好でいいよ。お前のことは安西でいい?」 もう呼んでるけど。
「いいけど」
「……」
「最初に。どうしてか知りたい?」
「何が?」
「髪型」
「ぁ、ああ。特徴的だしな。社会人でスーツにその髪型は悪いとは言わんが目立つ」
「ヘアドだよ」
「ヘアド?」
「ヘアドネーション。病人に髪の毛を寄付するヤツ」
「ぁ、ああ。そういう」
「そう。俺髪質いいからね」
「確かに。艶々だもんな」
「だから会社からもちゃんとOKもらってる。でも大概間違われてるらしいけど」
「?」
「いいよ。分かんないならそれで」
ふふんっ、と鼻で笑われてその時はさっぱりだったけど、あれはたぶんそういう意味だったんだろうなと帰ってから思った。
さて問だ。俺は明日からあいつとどう付き合えば正解なのか。それをこれから深く考えようと思った。 終わり
20260424 ふじきり




