ep.31 Exploitation
『プレイヤー1が第二階層へ到達しました』
ついに、第1位が第二階層へ進んだ。
直後、タブレットのマップに第二階層へ切り替えるUIが表示された。迷わず押すと、画面は第二階層のマップへ切り替わった。
「1-」が「2-」に変わっただけか......構造そのものは第一階層と同じだな。
現在、オレは1-e7で二問目を解いている最中だ。第1位との差は二マス。普通なら簡単には覆せない差だが、奴はまだあの脆弱性に気づいていない。この程度の遅れなら、いくらでも取り返せる。
まずは進路を一つ潰しておくか。
口元を手で隠し、小さく宣言した。
「2-d1・2-d2、ロック」
直後、全体アナウンスが流れる。
『2-c1・2-d1、オープン』
『2-c1・2-c2、オープン』
『2-c2・2-c3、オープン』
一息に三本......第二階層へ到達した瞬間から、もう三回も宣言を重ねたのか。攻める気満々だな。だが、その情報をそのまま信じる理由はない。
二問目を解き終えたオレは、すぐに宣言する。
「1-d7・1-e7、オープン」
正面のドアが解放され、GOALマスへの道が開いた。スタンドの上に置かれたノートパソコンを抱え上げ、そのままGOALマスへ踏み込む。ボタンを押した瞬間、純白の光が全身を包み込んだ。
『プレイヤー2が第二階層へ到達しました』
五秒後、アナウンスと同時に第二階層のSTARTマスへ転移する。予想通り、持ち込んだノートパソコンも一緒に転送されていた。
『第二階層へようこそ』
『これより、新たなタクティカルポイントアクション「フェイク」について説明します』
やはり来たか。第一階層のノートパソコンを持ち込めば、STARTマスで問題を解き進めながら、新ルールの説明も同時に聞ける。これが、第1位がまだ気づいていないCTFラビリンス、二つ目の脆弱性だ。
『フェイクは、タクティカルポイントを一点消費し、偽のオープン宣言を全体アナウンスへ送信するアクションです』
『フェイク使用後、そのプレイヤーが次に行うオープン宣言は、一度だけ全体アナウンスされません』
『例として「2-d1・2-d2、フェイク」と宣言した場合、全体アナウンスでは「2-d1・2-d2、オープン」と通知されます』
『説明は以上となります』
アナウンスが終わると同時に、正面のドアが静かに開いた。数分後、オレは二問目を解き終える。
第1位、お前がさっき流した三回のオープン宣言はすべてフェイクだ。
モニターに映っていた奴の映像を思い返す。二問目を解き終えた直後、視線と首は右――2-e1の方向へ向いていた。もし本当に2-c1へ進んでいたなら、左を向くはずだ。つまり、実際の現在地はおそらく2-e1だ。
その確認は簡単だ。
「2-c3・2-c4、ロック」
今後『2-c3・2-c4、ロック』というアナウンスが流れれば、フェイクではなく本当にc列へ進んだことになる。逆に流れなければ、c列には来ていない。ロックは、そのまま位置特定の罠になる。
オレは2-d1で二問目を解き終えると、わざと左――2-c1の方向へ顔を向けた。そして、口元を隠しながら早口で続ける。
「2-c1・2-d1、フェイク」
「2-c1・2-c2、フェイク」
「2-d1・2-e1、オープン」
「2-e1・2-e2、オープン」
直後、全体アナウンスが流れ始める。
『2-c1・2-d1、オープン』
『2-c1・2-c2、オープン』
そこで途切れた。フェイクを二度使った影響で、本物の宣言は二回とも伏せられたのだ。
モニターへ映る視線を一切動かさないまま、後退する。そのまま静かに2-e1へ入り込んだ。
これでいい。
第1位から見れば、オレは左を向いたまま2-c1へ進んだようにしか見えないはずだ。実際には、真逆のe列へ移動している。
さらに、収穫もあった。フェイクの効果は重複する。一度きりではなく、連続使用した回数だけ本物の宣言を隠せるということだ。
問題を解きながら、頭の中では一つの作戦が形になりつつあった。フェイクを三回使用すれば、本物の宣言を三回連続で隠せる。
2-e3、2-e4、2-e5、2-e6、2-e7、そして2-d7。最短ルートを一気に駆け抜け、そのまま第三階層へ上る。
第1位は、オレがc列を進行中だと誤認している。実際のオレはe列だ。奴の警戒がc列へ向く以上、e列にロックが置かれる可能性は低い。この誤認が続く限り、オレだけが最短ルートを進める。
数分後、2-e1と2-e2でオープンポイントとタクティカルポイントをそれぞれ四点ずつ獲得したオレは、いよいよ作戦を実行へ移す。
口元を隠し、素早く宣言する。
「2-c2・2-c3、フェイク」
「2-e2・2-e3、オープン」
宣言を終えるや否や、オレは2-e3へ向かって駆け出した。
『2-c2・2-c3、オープン』
偽のアナウンスが流れた直後、モニターに映る第1位も口元を手で隠し、そのまま走り始めた。
『2-c3・2-c4、オープン』
奴も同じ作戦で来たか......。
『2-c3・2-c4、ロック』というアナウンスが流れなかった時点で、確信は裏付けられた。第1位はc列ではなくe列を経由し、GOALマスを目指している。
ならば、ここで仕掛ける。
「2-e5・2-e6、レッドロック」
「2-d6・2-d7、レッドロック」
これで奴の最短ルートは封じた。間髪入れず、さらに宣言を重ねる。
「2-c3・2-c4、フェイク」
「2-e3・2-e4、オープン」
速度を落とすことなく走り続ける。モニターの向こうでも、第1位は速度を緩めることなく走り続けていた。
『2-c3・2-c4、オープン』
『2-c4・2-c5、オープン』
『2-c4・2-c5、オープン』
『2-c5・2-c6、オープン』
互いのフェイクが入り交じり、偽のアナウンスだけが施設中へ響き渡る。
そして――。
『2-e5・2-e6、ロック』
第1位の足が、ぴたりと止まった。数秒前に仕掛けたレッドロックが、奴の進路を完全に塞いだのだ。
――読み通りだ。
オレは迷わず畳みかける。
「2-e5・2-e6、オープン」
「2-e6・2-e7、オープン」
「2-e7・2-d7、オープン」
GOALマスまでの道を、一気に開通させる。
最短ルートを封じられた第1位は、別ルートへの切り替えを余儀なくされた。
『2-e5・2-d5、オープン』
『2-d5・2-c5、オープン』
『2-c5・2-c6、オープン』
『2-c6・2-c7、オープン』
『2-c7・2-d7、オープン』
遠回りのルートを経由しながら、奴もGOALマスへの道を切り開いていく。
口元を隠したまま宣言しながら走るのは、思った以上に息が上がるな......。
息を整える暇もなく、GOALマスへ向かって走り続けた。
やがて、2-d7へ到達する。視界の先には、第三階層へ転移するボタンが淡く光っていた。
――先に上がるのはオレだ!




