第3話 巻き戻された昨日(ロールバック)~書き換えの瞬間と“02”の影~ [3/3]
B君の“二つの昨日”について話し合ったあと、教室には妙な沈黙が落ちていた。
蛍光灯の光がわずかに揺れ、黒板の白と黄緑の文字が影を落とす。
A君『……なあ、B。昨日の記憶が二つあるって言ってたけどさ』
B君「うん」
A君『その二つの記憶って……どっちも“本物みたい”なんだよな?』
B君「そう。どっちも“俺が体験した”って感じがするんだよ」
O君《それが一番怖いところだよね》
O君は腕を組み、黒板の「二重記憶」を見つめた。
O君《普通の記憶違いなら、どっちかが曖昧になるはずなんだよ。
でもB君の場合は“どっちも鮮明”》
A君『つまり……どっちも“実際に起きた”ってことか?』
B君「でも、現実は一つしかないだろ?」
O君《うん。だから“どちらかが巻き戻された”》
AB君が白いチョークを手に取り、黒板に新しい文字を書いた。
――「状態の競合」。
AB君【B君の記憶は“二つの状態”が競合していたんだ】
B君「競合って……パソコンかよ」
AB君【記憶もデータだからね】
A君『じゃあ……どっちかが“上書きされた”ってこと?』
AB君【そう。“02”によってね】
その言葉に、3人の視線が一斉にAB君に向いた。
B君「おい……やっぱ“02”が関わってんのか?」
AB君【巻き戻しの痕跡がある以上、関わっている可能性は高い】
O君《A君の欠落にも“02”が関わってるんだよね》
AB君【うん。A君の欠落は“削除”。
B君の巻き戻しは“復元”。
どちらも“02”の領域だよ】
A君『……俺とB、両方に“02”が触ってるってことか』
B君「なんで俺らなんだよ……」
B君は机を軽く叩いた。
怒りというより、理解できない不安が滲んでいた。
O君《ねえ、B君。昨日の記憶……“書き換わった瞬間”って覚えてる?》
B君「……ああ。実は一回だけ、変な感覚があった」
A君『変な感覚?』
B君「昼休みくらいにさ……急に“視界が巻き戻った”感じがしたんだよ」
O君《視界が……巻き戻った?》
B君「うん。
例えばさ、誰かが廊下を歩いてるのを見て……
次の瞬間、同じ人が“もう一度同じ動きをした”んだよ」
A君『……それ、やばくないか?』
B君「で、その瞬間に“昨日の記憶”が変わった」
O君《つまり――》
O君は黒板に歩き、AB君の横に立った。
O君《“巻き戻しの瞬間”をB君は見たってことだね》
AB君【うん。これは重要な情報だよ】
AB君は白いチョークで黒板に大きく書いた。
――「ロールバックの瞬間=視界の反復」。
A君『視界の反復……』
B君「俺、あれ見たとき……鳥肌立ったからな」
O君《それって……“世界が一瞬だけ戻った”ってことだよね》
A君『世界が……戻る……?』
A君は自分の胸の奥に、冷たいものが落ちていくのを感じた。
B君「でさ、そのあと気づいたら……
昨日の俺の行動が“別のバージョン”になってた」
O君《世界の巻き戻しと、記憶の巻き戻しが連動してる……》
AB君【その通り。
B君が見たのは“02の作業痕”だよ】
A君『作業痕……』
B君「おい、02って何者なんだよ……」
AB君【“何者”とは限らない】
O君
AB君【“02”は存在というより“機能”かもしれない】
A君『機能……?』
AB君【世界の整合性を保つための“ロールバック機能”】
B君「じゃあ……俺の記憶が戻されたのも、
世界の整合性のためってことか?」
AB君【可能性は高い】
A君『でも……なんでBなんだ?』
O君《A君の欠落と、B君の巻き戻し……
二つが同時に起きてるってことは――》
O君は黒板の「02」を指さした。
O君《“02”が本格的に動き始めた》
教室の空気が、さらに冷たくなった気がした。
B君「なあ……俺ら、どうなるんだ?」
A君『分からないけど……
確実に“何かが変わり始めてる”』
O君《A君の欠落、B君の巻き戻し……
どっちも“編集の段階が上がってる”》
AB君【うん。
そして――次に起きるのは“統合”だよ】
A君『統合……?』
B君「なんだよそれ……」
AB君【二つの編集が同時に走ると、
“世界の整合性を保つための統合作業”が始まる】
O君《統合作業って……何が起きるの?》
AB君【まだ分からない。
でも――“02”が関わるのは確かだよ】
A君は息を呑んだ。
胸の奥に、昨日とは違う種類のざわつきが広がっていく。
B君「……俺ら、本当に巻き込まれてんだな」
A君『巻き込まれてるというより……
“選ばれてる”のかもしれない』
その言葉に、教室の空気がさらに重く沈んだ。
――“02”の影は、確実に近づいていた。




