第3話 巻き戻された昨日(ロールバック)~巻き戻された昨日の違和感~ [1/3]
放課後の教室。昨日と同じ時間、同じ光景のはずなのに、B君の表情だけが妙に落ち着かない。
机に肘をつきながら、彼は何度も自分のスマホを見返していた。
A君『……B、どうした? さっきからずっとスマホ見てるけど』
B君「いや……なんか変なんだよ。俺の記憶がさ」
O君《記憶? A君みたいに“抜けた”の?》
B君「いや、抜けたっていうより……“戻った”感じ」
A君『戻った……?』
B君はスマホの画面をA君たちに見せた。
そこには昨日のメッセージ履歴が表示されている。
B君「これ、昨日の俺が送ったメッセージなんだけどさ……」
O君
B君「俺、これ送った記憶が“二種類”あるんだよ」
A君『二種類……?』
B君は深呼吸して続けた。
B君「一つは、普通に送った記憶。
でももう一つは……“送ってない記憶”なんだよ」
O君《……それ、矛盾してるよね》
B君「そう。でさ、今日の昼くらいに急に“送ってない方の記憶”が強くなって……
気づいたら、昨日の記憶が“巻き戻ってた”んだよ」
A君『巻き戻るって……どういうこと?』
B君「昨日の俺が言ったことが、微妙に違うんだよ。
例えば――」
B君は机を指でトントンと叩いた。
B君「昨日、Aに“宿題やった?”って聞かれた時、
俺は“まだ”って答えた記憶があるんだよ」
A君『うん、言ってたな』
B君「でもさ……“やったって答えた記憶”もあるんだよ」
O君《二つの記憶があるってこと?》
B君「そう。で、今日になって“やったって答えた記憶”の方が強くなって……
気づいたら、昨日の俺の言動が“そっちに書き換わってた”」
A君『……それ、俺の“欠落”と似てるな』
O君《いや、A君とは違う。
A君は“無くなる”けど、B君は“戻ってる”》
O君は黒板の前に歩き、AB君の隣に立った。
O君《A君のは“欠落”。
B君のは“ロールバック”。》
AB君は白いチョークを手に取り、黒板に大きく書いた。
――「巻き戻し(ロールバック)」。
AB君【B君の現象は、記憶の“巻き戻し”だね】
B君「巻き戻しって……俺の記憶、ビデオかよ」
AB君【記憶は“状態”として保存されている。
その状態が、何らかの理由で“前のバージョン”に戻った】
A君『前のバージョン……』
O君《つまり、B君の記憶は“更新前の状態”に戻されたってことだね》
B君「でもさ、なんで俺だけ……?」
その問いに、AB君は黒板に黄緑のチョークで小さく数字を書いた。
――「02」。
A君『……また“02”か』
O君《AB君、それって……》
AB君【“02”は、記憶の状態を管理する“何か”の番号だよ】
B君「何かって……誰だよ」
AB君【誰、とは限らない】
A君『じゃあ……“仕組み”ってこと?』
AB君【うん。記憶を“戻す存在”がいる】
教室の空気が一瞬だけ冷えた。
O君《unknown-node-02……》
A君『……記憶を戻す存在』
B君「おいおい、マジかよ。
俺の記憶、勝手に巻き戻されてんの?」
AB君【痕跡を見る限り、そうだね】
A君『俺の記憶は“削られてる”のに……
Bのは“戻されてる”ってことか』
O君《編集の方向が違うんだね》
O君は黒板に近づき、AB君の書いた文字を見つめた。
O君《A君は“欠落”。
B君は“ロールバック”。
どっちも“編集”だけど、性質が違う》
B君「じゃあさ……俺の昨日の記憶、どっちが本物なんだよ」
AB君【どちらも本物で、どちらも偽物だよ】
B君「は?」
AB君【記憶は“状態”だからね。
どの状態が採用されるかは、整合性次第】
A君『整合性……またそれか』
O君《世界が矛盾を嫌うってやつだね》
B君「じゃあ、俺の記憶が巻き戻されたのも……整合性のため?」
AB君【可能性は高い】
A君『でも……なんでBなんだ?』
O君《A君の欠落と、B君の巻き戻し……
二つが同時に起きてるってことは――》
O君は黒板の「02」を指さした。
O君《“02”が動いてる》
A君『……unknown-node-02』
B君「そいつが……俺らの記憶をいじってるってことかよ」
AB君【“いじっている”というより……
“調整している”と言った方が近いかな】
A君『調整……』
A君は自分の胸の奥に、昨日とは違う種類のざわつきを感じていた。
B君「なあ……俺ら、どうなるんだ?」
O君《まだ分からないけど……
確実に“何かが始まってる”》
教室の蛍光灯が、わずかに揺れた。
――記憶の巻き戻しは、静かに広がり始めていた。




