第2話 空白の数分(編集の痕跡)~リアルタイム監視と“見えない瞬間”~ [3/3]
4人はA君の席の周りに集まり、机の上に腕時計を置いた。
秒針の音が、静かな教室に規則正しく響いている。
B君「よし……じゃあ、Aが“飛ぶ瞬間”を見張るぞ」
O君《A君、普通にしてていいよ。僕たちが見てるから》
A君『普通にって言われても……緊張するんだけど』
A君は苦笑しながら、深呼吸をした。
B君「まあ、気楽にいけって。何も起きないかもしれないし」
O君《でも、何か起きるかもしれない》
B君「お前は不安煽るのやめろ」
そんな軽口が交わされる中、AB君は黒板の前に立ち、白いチョークを手に取った。
黒板の中央に、白で一文字。
――「観測」。
AB君【今回は“観測”が目的だよ】
A君『観測って……俺、実験台みたいだな』
O君《ごめん。でも、A君のためでもあるんだ》
B君「そうそう。原因分かんないままよりマシだろ」
A君は小さく頷いた。
秒針が進む。
教室の空気が、少しずつ張り詰めていく。
O君《……A君、何か変化ある?》
A君『いや、特には……』
その瞬間だった。
――A君の瞬きが、一度だけ“妙に長く”閉じた。
B君「……あれ?」
O君《今、A君……》
A君が目を開けた時、彼は――席に座っていなかった。
A君『……え?』
A君は黒板の前に立っていた。
本人が一番驚いていた。
B君「お、おい! 今の見たか!?」
O君《見た……けど……》
O君は震える声で続けた。
O君《A君が立ち上がる“動き”が……無かった》
A君『え……?』
B君「いやいやいや、絶対見逃しただけだろ!」
O君《違う。僕、A君の目を見てた。
瞬きの“次の瞬間”には、もう黒板の前にいた》
A君『……また、覚えてない』
A君は自分の手を見つめた。
黒板のチョークの粉が、指先にうっすらついていた。
B君「おい……またチョーク触ったのかよ」
A君『触った記憶は無い……』
AB君は白いチョークで、黒板に新しい文字を書いた。
――「瞬間移動(認識上)」。
AB君【A君は“移動したように見える”けど、実際には――】
O君《“僕たちの認識が飛ばされてる”ってこと?》
AB君【その可能性が高いね】
B君「じゃあ、Aは動いてるけど……俺らが見えてないってことか?」
AB君【うん。“見えない瞬間”がある】
A君『俺が……消えてるってこと?』
AB君【正確には、“観測されていない”】
AB君は黄緑のチョークで、白い文字の横に線を引いた。
――「整合性のための非表示」。
B君「非表示って……ゲームのバグかよ」
O君《でも、説明はつくよ。
A君の行動が“世界の整合性に合わない”時、
その部分だけ“非表示”にされる》
A君『俺の行動が……世界にとって都合悪いってこと?』
AB君【都合が悪い、というより……
“見せない方が整合性が保たれる”んだ】
B君「じゃあさ、Aが黒板の前に来た理由は?」
A君『……分からない。気づいたらここにいた』
O君《A君、自分の体の感覚は?》
A君『……歩いた感じは無い。
でも、立ってるってことは……動いたんだよな』
B君「動いたのに覚えてないって……やっぱ誰かに触られてんじゃね?」
その言葉に、A君の肩がわずかに震えた。
A君『……俺の中に、何かいるってこと?』
O君《“誰か”とは限らないよ》
AB君【うん。“仕組み”かもしれない】
B君「仕組み?」
AB君【世界の整合性を保つための“編集システム”】
A君『編集……』
A君は黒板の「整合性のための非表示」を見つめた。
A君『じゃあ……俺の三分も、今の瞬間も……
全部、“編集された”ってこと?』
AB君【痕跡を見る限り、そうだね】
O君《A君は“編集の対象”になってる》
B君「対象って……なんでAなんだよ」
A君『……俺にも分からない』
A君は胸の奥に、言葉にできないざわつきを感じていた。
それは恐怖ではなく――“選ばれてしまった感覚”だった。
AB君【A君。
君の欠落は、まだ“序章”だよ】
A君『序章……?』
AB君【これからもっと“深い編集”が始まる】
その言葉は、教室の空気を一気に冷やした。
O君《……A君、僕たちがついてるからね》
B君「そうだぞ。何があっても、俺らが見張ってやる」
A君は小さく笑った。
でも、その笑顔の奥には、消えない不安が残っていた。
――“見えない瞬間”は、確実に増えていた。




