第12話 記憶を取り戻す(そして違和感)~現実への帰還と違和感~ [3/4]
光が弾けたあと、
A君はゆっくりと目を開けた。
そこは――
“いつもの教室”だった。
黒板。
机。
窓の光。
クラスメイトのざわめき。
すべてが“今日”のはずなのに、
A君の胸の奥には、
“昨日の残響”がまだ熱く残っていた。
B君「A! 戻ってきたか!」
B君が駆け寄ってくる。
その顔は、いつものB君だ。
……のはずだった。
A君(……あれ……?)
B君の笑い方が、
ほんの少しだけ違う。
昨日のB君は、
笑うときに「ははっ」と息を漏らす癖があった。
でも今のB君は――
「ふっ」と短く笑った。
たったそれだけ。
でも、A君には“違う”と分かった。
A君「……B……?」
B君「ん? どうした?」
A君「いや……なんでも……」
言葉が喉で止まる。
説明できない。
でも確かに“違う”。
その時、
O君がノートを閉じてこちらを見た。
O君《A君……
大丈夫?》
O君の声はいつも通り。
しかし――
机の上のノートが、
A君の目を引いた。
A君(……筆跡……?)
O君の字は、
細くて整っていて、
どこか機械的な美しさがあった。
でも今の字は――
少し丸い。
柔らかい。
“別人のような筆跡”。
A君(……Oの字……
こんなだったっけ……?)
胸の奥がざわつく。
昨日の記憶は戻った。
確かに戻った。
でも――
“昨日の世界”と“今日の世界”が
完全に一致していない。
AB君【A君……
顔色が悪いよ】
AB君が心配そうに覗き込む。
その手にはノートがある。
A君はふと、
そのノートの赤字に目を向けた。
A君(……え……?)
赤字が――
“四重”に見えた。
一本の線が、
四つのレイヤーに分かれて重なっている。
まるで、
“AB君の記憶が四層に分岐している”ような。
A君「……AB……
その赤字……」
AB君【ああ、これ?
ちょっとペンが滲んじゃって】
AB君は笑った。
しかしA君には分かる。
これは“滲み”じゃない。
“重なり”だ。
A君(……昨日のABは……
二重だった……
でも今は……四重……?)
胸の奥が冷たくなる。
昨日を取り戻したはずなのに、
世界が“昨日のまま”ではない。
黒板を見る。
昨日の黒板に書かれていた文字と、
今の黒板の文字が――
微妙に違う。
昨日の記憶では
「一次関数の応用」
と書かれていた。
でも今は
「一次関数の応用(復習)」
と書かれている。
A君(……昨日の黒板……
こんな書き方じゃなかった……)
違和感が積み重なっていく。
B君の口癖。
O君の筆跡。
AB君の赤字。
黒板の文字。
どれも“少しだけ違う”。
その時――
A君の視界の端に、
淡いログが一瞬だけ浮かんだ。
〈!-- 整合性:再計算中。 -->
A君「……っ……!」
ログはすぐに消えた。
まるで“見られたくなかった”かのように。
B君「A? どうした?」
A君「……いや……
なんでもない……」
でも、A君は気づいてしまった。
――この“昨日”は、
本当に“この世界”の昨日なのか?
胸の奥に、
小さな疑問が芽生えた。
A君(……俺の昨日……
本当に……
“この世界”の俺の記憶……?)
その疑問は、
静かに、しかし確実に
A君の中で広がっていった。




