第12話 記憶を取り戻す(そして違和感)~昨日の回収~ [2/4]
光の中へ沈んでいく感覚は、
落下でも浮上でもなかった。
ただ――
“戻っていく”。
A君の意識は、
ゆっくりと昨日の輪郭を取り戻していった。
黒板。
机。
窓の光。
教室のざわめき。
そして――
“昨日のA君”が座っている。
A君(……俺……?)
昨日の自分は、
前を向いて座っていた。
姿勢は少し悪く、
ペンを指で弄んでいる。
その仕草は、
“今のA君”が忘れていた癖だった。
A君(……俺……こんな座り方してたっけ……?)
違和感が胸に刺さる。
しかし、まだ小さい。
昨日の教室は、
“現実の教室”とほとんど同じだった。
ほとんど――
というのが、逆に不気味だった。
黒板の文字が、
ほんの少しだけ違う。
昨日のはずなのに、
“今日の黒板”と混ざっているような、
そんな微妙なズレ。
A君(……これ……本当に昨日……?)
その時、
昨日の教室の扉が開いた。
「A君、昨日さ――」
その声を聞いた瞬間、
A君の心臓が跳ねた。
声の主は――
“昨日の誰か”。
しかし、
その姿は光に包まれていて見えない。
A君「……誰……?」
声は続く。
「昨日の放課後さ、A君――」
その瞬間、
教室の空気がわずかに揺れた。
〈!-- 整合性:再計算中(低負荷) --〉
A君(……また……?
なんで“昨日”なのに……
整合性が動いてる……?)
昨日の人物は、
A君の机の横に立った。
しかし――
顔が見えない。
光に包まれているのではなく、
“情報が欠けている”ような感覚。
まるで、
世界がその人物を“まだ描き切れていない”。
A君「……俺……
昨日……誰と話してたんだ……?」
その問いに答えるように、
昨日の人物が口を開いた。
「A君、昨日さ……
あの話、どう思った?」
A君「……あの話……?」
昨日のA君が答える。
「……正直、俺は……」
その瞬間、
空間が大きく揺れた。
〈!-- 整合性:再計算中(中負荷) --〉
〈!-- rollback-core:同期中 --〉
A君「うわっ……!」
昨日の教室が“二重化”した。
黒板が二枚重なり、
机が二つの配置で揺れ、
窓の光が“朝”と“夕方”で交互に切り替わる。
A君(……これ……
本当に昨日……?
それとも……
昨日の“編集後”……?)
昨日の人物の声が、
揺れる空間の中で響いた。
「A君、昨日さ……
本当は――」
その言葉の“続き”が聞こえた瞬間、
A君の胸が強く締めつけられた。
A君「……っ……!」
痛みではない。
“思い出したくない感覚”でもない。
ただ――
“何かが戻る音”。
昨日のA君が、
ゆっくりと振り返った。
その顔は――
“今のA君”と同じで、
しかしどこか違う。
目の奥に、
“何かを知っている光”があった。
昨日のA君「……A。
聞こえてるんだろ?」
A君「……え……?」
昨日のA君は、
まるで“未来のA君”に話しかけるように言った。
昨日のA君「昨日の俺は……
お前が思ってるより……
ずっと“昨日”なんだよ」
A君「……どういう……」
その瞬間、
昨日の教室が光に包まれた。
黒板の文字が揺れ、
机が溶け、
窓の光が白に変わる。
〈!-- 記憶復元:完了(暫定) --〉
A君は光の中で、
昨日の最後の言葉を聞いた。
「A君、昨日さ――
“あれ”だけは……忘れないでくれ」
光が弾け、
A君は現実へと引き戻された。




