第9話 記憶の深層へ(主観の内部)~本当の昨日~ [4/4]
揺れる廊下を進むにつれ、
A君の視界は“昨日”と“今日”の境界を失っていった。
廊下の左側には、
昨日の教室の扉。
右側には、
今日の昇降口。
天井は“朝の天井”と“放課後の天井”が交互に切り替わり、
床のタイルは“授業中の記憶”と“帰り道の記憶”が重なっている。
B君「……Aの記憶、めちゃくちゃ混ざってるじゃん……
いや、混ざってるってレベルじゃないな……
これもう“事故現場”だよ……」
AB君【混ざってるんじゃない……
“重なりすぎて、境界が壊れてる”】
O君《A君の“昨日”は……
整合性処理で削られた》
A君「削られた……昨日……」
A君は廊下の奥に見える“自分の後ろ姿”を見つめた。
ノイズをまとった“もう一人のA君”。
補完された昨日のA君。
その後ろ姿は、
教室の扉に手を伸ばしている。
A君「……あれが……
俺の“補完された昨日”……?」
O君《うん。
本来の昨日じゃない》
AB君【“本当の昨日”は……
もっと奥にある】
その時、廊下の奥で影が揺れた。
unknown-node-02 の影だ。
影はゆっくりと、
“本当の昨日”がある方向へ動いた。
B君「……あいつ……
案内してる……?」
O君《整合性を保つために……
A君を“正しい場所”へ誘導してる》
A君「……俺の……正しい昨日……」
A君は影の示す方向へ歩き出した。
すると、廊下の景色がゆっくりと変わり始めた。
教室の扉が消え、
代わりに“見覚えのある廊下”が現れた。
しかし――
その廊下は“壊れていた”。
壁の一部がノイズに侵食され、
天井の蛍光灯が“昨日の光”と“今日の光”で交互に点滅し、
床のタイルが“存在したり消えたり”している。
A君「……ここ……
見たことある……」
AB君【A君の“昨日”の廊下】
O君《でも……
完全には残ってない》
A君は壁に触れた。
壁は“手応えがあるのに、透明”。
触れた部分がノイズになり、
すぐに元の形に戻る。
A君「……これが……
俺の昨日……?」
その時だった。
〈!-- rollback-sector: 02-C --〉
〈!-- memory-offset: -24h --〉
〈!-- owner: A --〉
ログが空間に浮かび上がった。
B君「……またログだ……
てか“24時間前”って……
昨日の朝じゃん……!」
O君《A君の“昨日”が……
深層から浮かび上がってる》
AB君【A君……
もう少しで……
“本当の昨日”に触れられる】
A君は廊下の奥へ進んだ。
すると――
廊下の先に“教室”が現れた。
だが、その教室は
“昨日の教室”と“今日の教室”が重なった異常空間だった。
黒板は昨日の文字と今日の文字が同時に書かれ、
机は昨日の配置と今日の配置が交互に揺れ、
窓の外は“昨日の空”と“今日の空”が重なっている。
A君「……ここ……
俺……昨日……ここに……」
A君が教室に足を踏み入れた瞬間――
空間が“音を立てて”揺れた。
〈!-- rollback-sector: 02-C/restore --〉
〈!-- memory-restore: in-progress --〉
B君「うわっ!?
なにこれ……!」
O君《A君の“本当の昨日”が……
復元され始めてる》
AB君【A君……
思い出して】
A君は黒板を見つめた。
そこには――
“昨日の授業の文字”が浮かび上がっていた。
しかし、
その文字は途中でノイズに変わり、
また別の文字に切り替わる。
A君「……俺……
昨日……ここで……
何を……?」
A君は頭を押さえた。
脳の奥で、
“何かが戻ろうとしている音”がした。
A君「……っ……!」
視界が白く揺れ、
昨日の断片が一瞬だけ見えた。
――教室。
――黒板。
――誰かの声。
――“A君、昨日さ……”
A君「……誰だ……
誰が……俺に……?」
その瞬間、
unknown-node-02 の影が教室の中央に現れた。
影は静かに手を伸ばし、
A君の“昨日の断片”に触れた。
〈!-- memory-restore: authorized --〉
〈!-- rollback-sector: open --〉
空間が大きく揺れた。
B君「うわああああああああああ!!」
O君《A君!!
しっかり!!》
AB君【A君……
“昨日”が……
戻る……!】
A君の視界が真っ白になった。
そして――
“本当の昨日”が、
ゆっくりと姿を現し始めた。




