第9話 記憶の深層へ(主観の内部)~断片世界の歩き方~ [3/4]
白い床を踏み出した瞬間、
A君の視界は“教室”から“無音の空間”へと切り替わった。
切り替わった――
というより、
“上書きされた”と言った方が近い。
足元には白い床が続いている。
だが、少し先には黒いノイズのような“穴”が揺れていた。
B君「……ここ……Aの中……?」
B君の声は、わずかに遅れて響いた。
音が空間に馴染むまで、半拍のズレがある。
O君《ここは……A君の“主観領域”》
AB君【記憶の断片と……
ログ領域が混ざった空間】
A君「……俺の……記憶……?」
白い床の先に、
“教室の黒板”が浮かんでいた。
だが、黒板は壁に固定されていない。
空中に、ただ“存在している”。
その黒板には、
A君が見覚えのない文字が書かれていた。
〈!-- rollback-sector: 02-A --〉
〈!-- memory-offset: -14h --〉
〈!-- owner: A --〉
A君「……これ……俺の……?」
O君《A君の“昨日”の断片》
B君「昨日の断片って……
こんなホラーみたいな見た目なの……?」
AB君【違う……
本来はもっと“普通”の記憶の形をしてる】
O君《でも……
A君の記憶は“整合性処理”で削られてる》
A君「削られて……?」
A君が黒板に触れようとした瞬間――
黒板が“砂のように崩れた”。
A君「……っ!」
崩れた黒板は、
白い床に落ちる前に“ノイズ”へと変わり、
空間に吸い込まれて消えた。
B君「おいおいおいおい……
触っただけで消えるとか……
絶対ヤバいやつじゃん……!」
O君《A君の記憶は……
“触れられる状態”じゃない》
AB君【触れた瞬間に……
整合性処理が走る】
A君「……俺の記憶……
こんなに……壊れてるのか……?」
A君の声が震えた。
その時、
空間の奥で“影”が揺れた。
黒い影。
人の形をしているようで、していない。
unknown-node-02 の影だ。
B君「……あいつ……
また見てる……」
O君《監視してるんだ》
AB君【A君の“主観領域”が……
崩れすぎないように】
A君「……助けてくれてる……のか……?」
O君《分からない。
でも……
“邪魔はしてない”》
影はただ、遠くからこちらを見ていた。
その視線は冷たくも温かくもない。
ただ“観測している”だけ。
その時、白い床がわずかに揺れた。
〈!-- 主観領域:深層アクセス --〉
床の先に、
“廊下のようなもの”が現れた。
だが、それは廊下ではなかった。
廊下の形をしているのに、
壁が途中で途切れ、
天井が“別の日の天井”に切り替わり、
床のタイルが“授業中の記憶”と“放課後の記憶”で交互に並んでいる。
B君「……なんだよこれ……
Aの記憶……混ざってんの……?」
AB君【混ざってるんじゃない……
“重なってる”】
A君「重なってる……?」
O君《A君の“昨日”と“今日”が……
同じ場所に存在してる》
A君は廊下の先を見つめた。
そこには――
“自分の後ろ姿”があった。
A君「……俺……?」
後ろ姿のA君は、
教室に向かって歩いている。
しかし、
その姿は“ノイズ”をまとっていた。
B君「おいおいおいおい……
分身とか出てくるの……!?」
AB君【あれは……
A君の“補完された昨日”】
A君「補完された……昨日……?」
O君《A君が“本来歩んだ昨日”じゃない》
後ろ姿のA君は、
教室の扉に手を伸ばした。
その瞬間――
扉が“別の扉”に切り替わった。
放課後の扉。
授業中の扉。
朝の扉。
知らない扉。
扉が高速で切り替わり続ける。
A君「……っ……!」
B君「A!!」
A君は頭を押さえた。
視界が揺れ、
廊下が“別の廊下”に切り替わる。
〈!-- rollback-sector: 02-B --〉
〈!-- memory-offset: -22h --〉
〈!-- owner: A --〉
AB君【A君……
“深層”が反応してる】
O君《A君の“本当の昨日”が……
近い》
unknown-node-02 の影が、
廊下の奥でゆっくりと動いた。
まるで――
“案内している”ように。
A君「……行く……
俺の……昨日を……取り戻す……」
A君は揺れる廊下へと足を踏み出した。
4人は、
A君の“本当の昨日”へ向かって進んでいく。




