第9話 記憶の深層へ(主観の内部)~主観領域への侵入~ [2/4]
A君の「……ありがとう」が教室に落ちた瞬間だった。
空気が、わずかに震えた。
風でも音でもない。
“世界の膜”が薄く揺れたような、そんな震え。
〈!-- 主観領域:接続準備。 -->
無機質なログが、教室の中央に“浮かぶように”現れた。
B君「……おい、今の……見えたよな?」
B君は思わず一歩下がった。
ログは黒板にも机にも映っていない。
ただ“空間そのもの”に直接書き込まれている。
O君《……unknown-node-02 が……応えた》
A君「応えた……?」
O君《A君の“意志”に……反応したんだ》
A君は息を呑んだ。
胸の奥で、何かが“開く音”がした気がした。
AB君【A君……
君が“戻りたい”と願ったから……
内部が外に開き始めた】
A君「俺の……意志で……?」
O君《うん。
A君の欠落領域は……
外側からは触れられない》
B君「だから……Aが“開く”しかなかったってことか……?」
O君《そう。
A君が“戻りたい”と願ったことで……
主観領域が外部と接続可能になった》
その時、ログがもう一行だけ追加された。
〈!-- 主観領域:境界展開。 -->
教室の床が、静かに“二重化”した。
床のタイルが二重に重なり、
片方は教室の床、
もう片方は“見たことのない白い空間”へと続いている。
B君「……なにこれ……
床が……二枚ある……?」
AB君【違う……
“境界”が重なってる】
A君「境界……?」
O君《A君の“主観領域”と……
僕たちの“現実”の境界》
白い床は、ゆっくりと揺れていた。
まるで“呼吸”しているように。
その奥には、
断片化したログのような影が漂っている。
〈!-- log-fragment: 02/??/?? --〉
〈!-- rollback-sector: pending --〉
〈!-- memory-owner: A --〉
B君「……うわ……
絶対ヤバいやつじゃん……これ……」
O君《ヤバいけど……
必要なこと》
AB君【A君の“欠落”は……
この奥にある】
A君「……俺の……中……」
A君は白い床に手を伸ばした。
触れた瞬間、指先が“二重にぶれた”。
A君「……っ……!」
O君《A君……
まだ完全には繋がってない》
ログがまた一つ、静かに走る。
〈!-- 主観領域:同期率 41% --〉
AB君【同期が進めば……
僕たちも入れる】
B君「いやいやいや……
“同期率”って何だよ……
ゲームかよ……!」
O君《A君の主観と……
僕たちの認識を合わせてる》
B君「認識を合わせるって……
そんな簡単に言うなよ……!」
しかし、A君は静かに言った。
A君「……俺は……行くよ」
その声は、揺れていなかった。
A君「俺の“昨日”も……
俺の“今”も……
俺のものだ」
その言葉に、白い床がわずかに光った。
〈!-- 主観領域:同期率 58% --〉
AB君【……A君の意志が……
同期を進めてる】
O君《A君……
君が“開いてる”んだ》
白い床の奥で、影が揺れた。
unknown-node-02 の影だ。
遠くで、静かにこちらを見ている。
B君「……あいつ……
見てるよな……?」
O君《うん。
unknown-node-02 は……
“整合性”を監視してる》
AB君【でも……
今回は……
“邪魔してない”】
A君「……協力してくれてる……?」
O君《A君の意志が……
“整合性の優先度”を変えたんだ》
ログがまた走る。
〈!-- 主観領域:同期率 73% --〉
〈!-- 接続経路:安定化 --〉
B君「……もう戻れない感じしてきたんだけど……」
O君《戻れるよ。
A君が“戻りたい”と思う限り》
AB君【A君の主観領域は……
A君のものだから】
白い床が完全に“教室の床”と重なった。
〈!-- 主観領域:同期完了 --〉
〈!-- 接続経路:開通 --〉
O君《……行こう》
AB君【A君の“深層”へ】
B君「……はぁ……
もう覚悟決めたよ……!」
A君「みんな……ありがとう」
4人は、白い床の向こうへと足を踏み出した。
そこは――
A君の“記憶の深層”だった。




