第7話 B君の消えた一日(代替生成)~周辺整合性の揺れ~ [3/4]
夕陽はほとんど沈みかけていた。
放課後の教室は、薄暗いオレンジ色に染まり、
机の影が長く伸びている。
B君はノートを閉じたまま、しばらく動けなかった。
B君「……俺の昨日って……
本当に“俺の昨日”だったのか?」
その声は震えていた。
A君は胸が締めつけられるような感覚に襲われた。
A君「B……」
しかし、慰めの言葉は出てこなかった。
昨日の自分の“補完”を思い出すたび、
胸の奥がざわつく。
――俺のせいで、Bの昨日が……?
そんな考えが頭をよぎる。
O君《……B君》
O君が静かに口を開いた。
O君《代替記憶の“適用”は……
まだ途中だと思う》
B君「途中……?」
O君《うん。
今のB君は、“昨日がない状態”と
“昨日があった状態”の間にいる》
A君「……それって、どういう……」
O君《言えない》
O君は苦しそうに目を伏せた。
“語れない領域”に触れたのだ。
その時だった。
教室の空気が、
また一瞬だけ“白くノイズ”を走らせた。
〈!-- 周辺整合性:揺レ。 -->
蛍光灯がついていないのに、
天井が一瞬だけ“光ったように”見えた。
B君「……っ!」
A君「B!!」
B君は頭を押さえ、机に手をついた。
B君「なんか……
“知らない昨日”が……
頭に流れ込んでくる……」
A君「知らない昨日……?」
B君は震える声で続けた。
B君「俺……昨日、Aと話したって……
“記憶”が入ってくるんだけど……
その時のAの顔が……
“今のAじゃない”んだ……」
A君「……え?」
O君《……来てる》
AB君【代替記憶の“適用”だ】
B君は息を荒くしながら言った。
B君「Aの髪型も……席の位置も……
教室の配置も……
全部、今と違う……
でも……“それが昨日だった気がする”……!」
A君「そんな……」
A君の胸がざわついた。
昨日の自分の“補完”の時と同じだ。
――“本来の記憶”と“補完された記憶”が重なる感覚。
AB君【B君……
君の“昨日”は、
“別のデータ”で埋められてる】
B君「別の……?」
O君《unknown-node-02 は……
“整合性”を優先する》
A君「整合性……?」
O君《A君の補完で揺れた“周辺領域”を
安定させるために……
B君の昨日が“再構築”されてる》
B君「俺の昨日が……
Aの補完の“ついで”みたいに……?」
A君「……ごめん……」
B君「違うって、Aのせいじゃないって……
でも……」
B君は自分の胸に手を当てた。
B君「俺……
“昨日の俺”が……
どんな顔してたのか……
思い出せないんだ……」
その言葉に、A君は息を呑んだ。
――昨日の自分の顔が思い出せない。
それは、A君が“補完”の最中に感じた恐怖と同じだった。
A君「B……
お前も……俺と同じ……?」
B君「分からない……
でも……怖い……」
夕陽が完全に沈み、
教室は薄暗い影に包まれた。
その時――
また、空気が揺れた。
〈!-- 周辺整合性:補正中。 -->
今度は、黒板の文字が一瞬だけ“別の配置”に見えた。
A君「……今、黒板……」
O君《見えた?》
A君「うん……
一瞬だけ……
“昨日の黒板”が重なった気がした……」
AB君【A君の補完の余波が……
まだ残ってる】
B君「俺の昨日……
どんどん“形”が変わっていく……」
B君は机に手をつき、震える声で言った。
B君「俺の昨日って……
本当に……誰が作ったんだ……?」
その問いに、
unknown-node-02 の無機質な声が重なる。
〈!-- 代替記憶:適用進行。 -->
〈!-- 代替記憶:適用率 八九%。 -->
B君「……っ……!」
A君「B!!」
B君は机に倒れ込むようにして、頭を押さえた。
B君「やめろ……!
俺の昨日を……勝手に……!」
O君《止められない……!
unknown-node-02 の“整合性処理”は……
一度始まったら……》
A君「止まらないって……
そんな……!」
AB君【B君……
君の“昨日”は……
もう“世界の都合”で決まる】
B君は震える声で言った。
B君「俺の昨日って……
俺のものじゃないのかよ……?」
その問いに、
誰も答えられなかった。
そして――
最後の通知が落ちた。
〈!-- 代替記憶:適用完了。 -->
教室の空気が静かに震えた。
――B君の“昨日”は、
今まさに“世界の都合で書き換えられた”。




