第7話 B君の消えた一日(代替生成)~消えた一日の痕跡~ [2/4]
〈!-- 代替記憶:生成完了。 -->
その無機質な通知が消えたあとも、放課後の教室には沈黙が落ちていた。
夕陽はさらに傾き、机の影は長く伸びている。
蛍光灯をつけていない教室は、オレンジ色の光だけが支配していた。
B君は机に手をつき、深く息を吐いた。
B君「……俺、本当に昨日の記憶がないんだよ」
A君「でも……俺たちは普通に話してたぞ?」
O君《うん。
B君はずっとここにいた》
AB君【僕も会話を覚えてる】
しかしB君は、首を横に振った。
B君「……覚えてない。
昨日の朝から……全部、抜けてる」
A君は思わず息を呑んだ。
昨日の自分の“補完”を思い出す。
A君「……まさか、俺の補完のせいで……?」
O君《直接ではないけど……
“周辺整合性”が揺れた可能性はある》
A君「周辺……?」
AB君【A君の補完は“世界の整合性”に触れた。
その揺れが、近くにいたB君の“昨日”に影響した】
B君「俺の昨日が……巻き込まれたってこと?」
O君《可能性は高い》
B君は苦笑した。
B君「……俺、一般プレイヤーのはずだったのに。
なんでメンテに巻き込まれてんだよ……」
その言葉に、A君は違和感を覚えた。
A君「……なぁB。
さっき“一般プレイヤー”って言ってたよな?」
B君「言ったよ。
Aがメンテされてるプレイヤーで……
俺は一般プレイヤーって……」
B君はそこで言葉を止めた。
B君「……あれ?
なんで俺、そんな冗談言ったんだっけ?」
A君「え?」
B君「Aが……何かされてたんだよな?
だから俺、あんなこと言ったんだよな?」
O君《……昨日のA君の“補完”の話だよ》
B君「補完……?
Aが……何されたんだ?」
A君は息を呑んだ。
B君は冗談を覚えているのに、その“前提”が抜けている。
冗談の意味が崩壊していく。
A君「……B、お前……
昨日の俺のこと、本当に覚えてないのか?」
B君「うん……
なんで俺、あんな冗談言ったんだ……?」
その時、B君がふと自分のカバンを探り始めた。
B君「……あれ? 俺のノート……」
机の上に置かれたノートを開く。
そこには――
“見覚えのない文字”が並んでいた。
A君「……これ、お前の字じゃないよな?」
B君「うん……俺、こんな字じゃない」
ノートには、昨日の日付が書かれていた。
そしてその下には、箇条書きのようなメモが並んでいる。
――「1限:Aと会話」
――「2限:Oと確認」
――「昼:ABと合流」
――「放課後:整合性チェック」
B君「……整合性チェック?」
O君
AB君【“行動ログ”だ】
A君「ログ……?」
AB君【昨日のB君の“行動記録”。
でも……これは“B君が書いたものじゃない”】
B君「じゃあ……誰が……?」
B君の手が震えた。
ノートの文字は、確かに“人間の筆跡”に見える。
しかし、どこか均一で、癖がない。
まるで――
“筆跡を模倣した機械の文字”のようだった。
A君「これ……unknown-node-02 が……?」
O君《可能性は高い》
B君「俺の昨日を……機械が書いたってことかよ……?」
夕陽が揺れ、ノートの文字が赤く染まる。
B君はページをめくった。
そこにはさらに奇妙なメモがあった。
――「B:昨日の記憶、欠落」
――「代替記憶:生成予定」
――「整合性:Aの補完に連動」
B君「……俺の昨日、予定だったのかよ……」
A君「予定……?」
O君《unknown-node-02 は“整合性”を優先する。
B君の昨日は……“必要だった”》
B君「必要って……何に?」
AB君【A君の補完の“周辺”を安定させるため】
A君「俺の……せいで……?」
B君「いや、Aのせいじゃないって。
でも……」
B君はノートを閉じ、深く息を吐いた。
B君「俺の昨日って……
本当に“俺の昨日”だったのか?」
その問いに、誰も答えられなかった。
夕陽がさらに傾き、教室の影が揺れる。
その時――
また、空気が一瞬だけ“白くノイズ”を走らせた。
〈!-- 整合性:周辺領域、補正中。 -->
B君の肩がびくりと震えた。
B君「……まただ……」
A君「B、大丈夫か?」
B君「分からない……
でも……なんか……
“昨日の記憶が入ってくる感じ”がする……」
O君《代替記憶の“適用”が始まってる》
AB君【B君……
君の“昨日”は、
今まさに“書き換えられてる”】
B君は机に手をつき、震える声で言った。
B君「俺の昨日って……
誰が作ったんだ……?」
その問いは、
夕陽の消えかけた教室に静かに落ちた。
――そして、誰も答えられなかった。




