第6話 unknown-node-02 の声(保守ノード)~補完される欠落と、“縫い直される記憶”~ [3/4]
A君の視界に浮かんだ「揃エル」の文字が消えたあと、
教室にはしばらく誰も言葉を発しなかった。
A君は机に手をつき、深く息を吐いた。
胸の奥が、どこか“ずれて”いる。
A君「……なんか、変だ。
自分の中に“別の記憶”が混ざってくる感じがする」
B君「別の記憶って……どういう……」
A君「分からない。
でも……“知らないはずのこと”を、
“知ってた気がする”瞬間がある」
AB君がわずかに反応した。
その瞳は、二つの記憶の層を揺らしている。
AB君【……それ、“補完”だ】
A君「補完……?」
AB君【欠けた部分を“埋める”時、
本来の記憶と“仮の記憶”が混ざる】
B君「仮の……?」
O君《保守ノードは、
本来のデータが欠けている時、
“推測値”で埋めることがある》
A君「推測……?」
O君《うん。
“こうだったはず”という形で、
欠落部分を“縫い直す”》
A君は自分の頭を押さえた。
A君「……じゃあ、今俺の中に入ってきてるのは……
本物じゃない記憶ってことか?」
AB君【“本物じゃない”とは言えない】
A君「え……?」
AB君【保守ノードが補完した記憶は、
“世界にとっての正解”になる】
B君「世界にとって……?」
O君《A君の“欠落”は、
世界の整合性から見れば“穴”なんだよ》
A君「穴……」
O君《unknown-node-02 は、その穴を“埋めている”》
その瞬間、
A君の頭の奥で“何かがはまる音”がした。
A君「……っ!」
B君「A!!」
A君「今……“思い出した気がする”……
でも……それが何なのか分からない……」
A君の視界が揺れ、
机の上のノートが一瞬だけ“別の文字”に見えた。
――「戻」。
すぐに消える。
A君「……まただ……」
AB君【A君……
君の記憶は今、“縫い直されてる”】
A君「縫い直すって……何を……?」
O君《……言えない》
B君「またかよ……!」
O君は唇を噛んだ。
“語れない領域”に触れたのだ。
その時――
教室の空気が、
ほんの一瞬だけ“白くノイズ”を走らせた。
〈!-- 欠落領域、補完進行中。 -->
A君「……っ……!」
B君「今の……また聞こえたよな!?」
O君《現実に“混入”してる……》
AB君【A君の補完が、
ログ領域から“表層”に滲み出してる】
A君「俺……どうなるんだ……?」
A君は胸に手を当てた。
鼓動が二重に聞こえる。
まるで――
“二つのA君”が同時に存在しているように。
AB君【A君……
君の“欠落”は、
“戻される”だけじゃない】
A君「戻されるだけじゃ……?」
AB君【“揃えられる”】
A君「揃える……?」
O君《世界の整合性に合わせて、
A君の記憶が“再配置”される》
B君「再配置って……記憶を勝手に動かすってことかよ……」
A君「俺の記憶が……勝手に……?」
A君の視界がまた揺れた。
今度は――
“知らないはずの教室の風景”が一瞬だけ重なった。
黒板の位置が違う。
机の並びが違う。
A君自身の席が違う。
A君「……っ……!
今……“別の教室”が見えた……!」
B君「別の教室!? なんだよそれ!」
O君《……補完の“ズレ”だ》
AB君【A君の“本来の記憶”と、
“補完された記憶”が重なってる】
A君「じゃあ……どっちが本物なんだ……?」
AB君は静かに首を振った。
AB君【どちらも“本物”になる】
A君「……っ……!」
その瞬間、
A君の耳元で、かすかな声が落ちた。
〈!-- 揃エル。 -->
A君の身体がびくりと震えた。
A君「……やめろ……やめてくれ……!」
B君「A!!」
O君《A君の補完は……
もう止まらない》
AB君【A君……
君の“欠落”は、
世界が“揃えようとしている”】
教室の空気が、
静かに、しかし確実に揺れていた。
――A君の“記憶の縫い直し”は、
すでに後戻りできない段階に入っていた。




