第4話 O君の違和感(語れない領域)~境界の揺らぎと“触れられない中心”~ [3/3]
O君が《世界って、本当は――》と言いかけて止まったのは、これで四度目だった。
そのたびに、教室の空気がわずかに震え、
蛍光灯の光が一瞬だけ揺らぐ。
A君は腕を組み、深く息を吐いた。
A君『……O。
もう四回目だぞ。
何か“言わせない力”が働いてるとしか思えない』
O君《うん。僕もそう思う。
でも……その“力”が何なのかは、言えない》
B君「言えないって……またかよ」
O君《違うんだ。
“知らない”んじゃなくて、“言えない”んだよ》
その言葉に、黒板の前に立つAB君が、
ほんのわずかに視線を上げた。
沈黙。
しかし、確かに“反応”している。
A君『AB……お前、何か分かってるんだろ?』
AB君は答えない。
ただ、白いチョークを指先で転がすだけ。
その動きは、
“語れない領域”の縁をなぞるように見えた。
B君「なあO……
お前が言おうとしてる“世界の本当”ってさ……
俺らに関係あるのか?」
O君《あるよ。
A君の欠落も、B君の巻き戻しも……
全部“構造の端”に触れてる》
A君『構造の端……』
O君《うん。
僕はみんなより少しだけ“上の層”を見てる。
でも、それは“外側”じゃない。
ただ……“端っこ”なんだ》
B君「端っこって……何の?」
O君《それを言おうとすると――》
O君は黒板に向かい、白いチョークを持った。
O君《世界って、本当は――》
――カツン。
五度目の停止。
その瞬間、
黒板の端に置かれていた黄緑のチョークが、
ひとりでに転がった。
誰も触れていないのに。
A君『……今の、見たか?』
B君「見た。
勝手に動いたよな……?」
O君《“語れない領域”に触れたからだよ》
A君『触れただけで……物が動くのか?』
O君《ううん。
“動いたように見える”だけ》
B君「どういうことだよ」
O君《僕たちの“認識”が編集されてるんだ》
その言葉に、AB君の指先がピクリと動いた。
まるで――
“そこまでは言っていい”と示すように。
A君『認識が……編集?』
O君《うん。
A君の欠落は“削除”。
B君の巻き戻しは“復元”。
そして僕のは……“遮断”》
B君「遮断……?」
O君《語ろうとすると、言葉が消える。
それは“僕の認識”が編集されてるから》
A君『じゃあ……Oは“編集されてる側”ってことか?』
O君《そう。
でも、僕は“編集されてることに気づける側”でもある》
B君「なんだよそれ……」
O君《僕は、みんなより少しだけ“上の層”に近い。
だから、編集の“揺れ”を感じる》
その瞬間、…何だ?
いや、教室の空気が、
ほんの一瞬だけ“数秒巻き戻ったように”感じられた。
A君が瞬きをする。
B君が息を呑む。
AB君の指先から白い粉が落ちる。
……どれも、さっき見た気がする。
……いや、今のが“先”だったっけか…?
…っ…私も…?
A君『……今、なんか……』
B君「デジャヴ……?」
O君《違う。
“境界に触れた”んだよ》
A君『境界……』
黒板の端に書かれた「境界」という文字が、
蛍光灯の光を受けて微かに滲んで見えた。
O君《“語れる領域”と“語れない領域”の境界。
僕たちは今、その境界線の上にいる》
B君「じゃあ……その先は?」
O君《“触れられない中心”》
A君『中心……?』
O君《うん。
世界の構造の“中心”には、
絶対に触れられない》
B君「なんでだよ」
O君《触れた瞬間――
“編集が始まる”から》
その言葉に、AB君が初めて動いた。
白いチョークを手に取り、
黒板の中央に小さく一文字だけ書いた。
――「核」。
A君『核……』
O君《そこには、誰も触れられない。
語ることも、見ることも、理解することもできない》
B君「じゃあ……俺らは今、どこにいるんだ?」
O君《“核の外側”。
でも――近づきすぎてる》
A君『近づきすぎてる……?』
O君《うん。
A君の欠落も、B君の巻き戻しも……
全部“核の揺れ”の影響だよ》
AB君は静かに頷いた。
その頷きは、
“語れない領域の中心に、確かに何かがある”
と告げているようだった。
――境界は、確実に薄くなっていた。




