第4話 O君の違和感(語れない領域)~語れない構造と“消える言葉”~ [1/3]
放課後の教室。
A君の欠落、B君の巻き戻し――二つの異常が重なった翌日、4人は自然と同じ教室に集まっていた。
B君「……なあ、O。昨日からずっと気になってたんだけどさ」
O君《うん?》
B君「お前、なんか“分かってる顔”してんだよ。
Aの欠落も、俺の巻き戻しも……なんか知ってるみたいな」
A君『確かに……O、昨日から説明が妙に詳しいよな』
O君は少しだけ視線をそらした。
O君《……まあ、多少はね》
B君「多少ってなんだよ」
O君《世界の仕組み……って言うと大げさだけど、
“こういう現象が起きる理由”は、なんとなく分かるんだ》
A君『理由……?』
O君は黒板の前に歩き、白いチョークを手に取った。
O君《世界ってさ……本当は――》
チョークが黒板に触れた瞬間。
――カツン。
その音と同時に、O君の口が止まった。
A君『……O?』
O君《…………あれ?》
B君「どうした?」
O君《……何を言おうとしてたんだっけ》
O君は眉を寄せ、黒板を見つめた。
書こうとしたはずの文字は、黒板に一切残っていない。
A君『書いてない……?』
O君《いや、書こうとしたんだよ。
でも……手が止まった》
B君「止まったって……なんで?」
O君《分からない。
でも、“書いちゃいけない”って感覚が急に来た》
O君は自分の手を握りしめた。
その指先が、わずかに震えている。
A君『O……お前、何を言おうとしたんだ?』
O君《……思い出せない。
さっきまで“分かってた”はずなのに》
O君は頭を押さえた。
痛みではなく、何かを“遮られた”ような表情。
B君「おいおい……Oまでおかしくなったのかよ」
O君《違う。
俺は……“知ってるはずのこと”を言おうとしただけなんだ》
A君『知ってるはず……?』
O君《うん。
A君の欠落も、B君の巻き戻しも……
本当は“説明できるはず”だった》
B君「じゃあ説明しろよ!」
O君《……できないんだよ。
言おうとすると、言葉が消える》
その瞬間、教室の空気がわずかに揺れた。
蛍光灯の光が一瞬だけ暗くなり、すぐに戻る。
A君『今……光、揺れたよな?』
B君「気のせいじゃね?」
O君《いや……多分、気のせいじゃない》
O君は黒板に向き直り、再びチョークを持った。
O君《世界って、本当は――》
――カツン。
また、チョークが黒板に触れた瞬間に止まる。
O君《…………ダメだ。
言えない》
A君『言えない……?』
O君《うん。“語れない領域”がある》
B君「語れないって……なんだよそれ」
O君《説明しようとすると、
“世界の方が拒否してくる”感じがするんだ》
A君『世界が……拒否?』
O君《うん。
まるで“そこには触れるな”って言われてるみたいに》
O君は黒板に残った白い粉を指でなぞった。
その指先が、微かに震えている。
B君「お前……なんでそんなこと分かるんだよ」
O君《分かるっていうか……“感じる”んだよ。
俺、昔からこういうの……ちょっとだけ分かるんだ》
A君『俯瞰してる感じっていうか……?』
O君《そう。
みんなより少しだけ“上の層”を見てる感覚がある》
B君「上の層って……なんだよそれ」
O君《分からない。
でも、俺が見てるのは“世界の外側”じゃない。
ただ……“構造の端っこ”みたいな場所》
A君『構造……』
O君《でも、その構造を説明しようとすると……
言葉が消える》
O君は黒板に向かって、もう一度だけチョークを動かした。
O君《世界は、本当は――》
――カツン。
また止まる。
O君《…………ほら、まただ》
B君「マジで言えねえのかよ……」
O君《うん。
“語られること”を拒まれてる》
A君『拒まれてる……?』
O君《そう。
俺が言おうとした瞬間に、
“世界の方が”言葉を消してくる》
B君「世界が……?」
O君《うん。
だから俺は“知ってるのに言えない”》
A君『……O、お前だけが“上の層に近い”ってことか?』
O君《多分ね。
でも、それが何を意味するのかは分からない》
O君は深く息を吐いた。
O君《ただ一つだけ言えるのは……
A君の欠落も、B君の巻き戻しも……
“世界の構造”と関係してる》
A君『構造……』
O君《でも、その構造を語ることはできない。
語ろうとすると、世界が拒む》
B君「じゃあ……どうすりゃいいんだよ」
O君《分からない。
でも――》
O君は黒板の端に、小さく白い点を打った。
O君《“語れない領域”があるってことだけは、確かだよ》
その白い点は、蛍光灯の光を受けて微かに光っていた。
――世界は、語られることを拒んでいた。




