【疑心暗鬼】
Mはもう何も考えたくなかった。考える事がめんどくさい、この兆候にトラウマが蘇る。考える事を放棄したら人は終わる。そこには自分もなければ自由もない。Mはそんな自分に危機感を覚えた。しかし、考える以外に何もない。ここに、興味は存在するのか。目的はちゃんと見えているのか。シッカリとそこへ向かっているのか。その為に必要な事は何なのか。シッカリとそれが見えているのか。シッカリとそれができているのか。そこに、自分の意志は存在するのか。自分は、自由意志で動いているのか。全てにおいて、疑心暗鬼に陥っていた。自由である事、それが何よりも重要だった。俺のプライバシーは侵害されている。本当にそうなのか?パソコンはハッキングされている。携帯の中身も筒抜けだ。部屋は盗聴されているし、盗撮すらされているかも知れない。営業車にも、いや、あらゆる所に何かが仕掛けられている。行動も監視されている。誰かに尾行されている。本当か?本当にそんな事が有り得るのか?そんな考えがぐるぐる回って落ち着かない。商談中も、テレアポをしている時も、お客さんと原稿の打ち合わせをしている時も、その内容を制作の人間に伝える時も、でき上がった原稿をお客さんの元へ運ぶ時も、奴らの目が気になり、集中力を欠いた。契約なんて、もはや取れる気がしない。焦りがMの心を満たす。いつ、どこで間違えたのだろう。運命なんて信じないけど、きっと避けられない事だった。初めからうまくいくはずなどなかったのだ。もし、この会社に入る前から、こんなクソ行為が行われていたとするなら。絶望感が胸に押し寄せる。
その日、Mは爆弾を作る為に必要だと思われる部品を買い集めた。何が必要なのかは分からない。ただ、必要だと思われる部品を買い漁った。大量の花火、コイル、電気導火線、雷コード、タクトスイッチ、ヤスリ、はんだこて、小箱。そして部屋のゴミ箱へと突っ込んだ。爆弾を作る気なんて毛頭なかった。爆弾などに興味はない。ただ、そうする事で、奴らにプレッシャーを与えたかった。自分はテロを起こすつもりなのだと、ハッタリをかましたかったのだ。俺は本気なのだと、自分でも、どこまで本気なのか分からないまま、その行為に意味があるのかすら判断が付かないまま、Mは動いていた。




