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【覆い尽くす】

 あいつ、宗教でも開けばいいのに。

 M教祖、面白いかもね。

 神様全否定の教祖様?思いっ切り神様に喧嘩売ってますけど。

 俺たちは神に挑む!て、まさかその俺たちの中に、俺たち含まれてないだろうな。

 俺たち、て誰の事だろうね。

 俺は宗教には入らないよ?

 俺たちを巻き込もうったってそうはいかないよ?


 夜、オフィス。Mが自席で原稿を広げていると、Mの様子を窺いながら制作課の女の子が近付いてくる。それに気付いたMは、女の子が手にしている包みに目を向けた。

「Mさん、初契約おめでとうございます」そう言って手にしていた包みをMに差し出す女の子。

「あ、ありがとうございます」戸惑いながらお礼を言い、包みを受け取るM。

 Mは前日に契約を上げていた。入社して八ヶ月、遂に自力での初契約だった。その契約に会社中が沸いた。遅過ぎるMの初契約に、文句を垂れる社員は一人もいなかった。誰もがMの成長を歓迎し、その契約を称えてくれた。Mは素直に嬉しかった。これでようやく自分もみんなの一員になれたような、スタート地点に立てたような、そんな気がした。

「で、何?それ」と言ってMの隣席に座る同期社員がMの持っている包みを指す。

「鏡」と制作課の女の子が中身を告げる。

「鏡?」みんなが不思議そうにMの持っている包みに目を向ける。

「Mさんち、鏡ないんだって。だからプレゼント」と制作課の女の子が口にする。

「Mっちゃんち、鏡ないんだ?」と編集課の女性課長。

「ま、まあ…」と言葉を濁すM。「ありがとうございます」と口にしながら、Mの心に安堵の気持ちが広がってゆく。この子は僕のうちに鏡がある事を知らないんだ。以前感じた薄気味の悪さは僕の考え過ぎだったんだ。僕が家で鏡ばかり見ていた事を、この子は知っていたワケじゃなかったんだ。知っていてあんな話を持ち出したワケじゃなかったんだ。そんな事を考えながら安心していた。すると社長が自席からMに声を掛ける。

「お前、これから頼むぞ。この調子でガンガン契約取ってきてくれよな」

 突然の社長の言葉に戸惑いながらも「はい、頑張ります」と答えて小さく頭を下げるM。すると同期社員が、

「社長からは何かプレゼントないんですか?せっかく初契約取ったのに」とどこか嬉しそうに声を張り上げる。

「そうだな。こんど高級な風俗にでも連れて行ってやるか」と大声で答える社長。

「風俗かよ」社員たちが笑う。

「な、M。行きたいだろ?」と社長がMに訊ねる。

「あ…、はい」と答えるしかないM。

「あ…、はい。じゃねぇよお前。マニアックなビデオでセンズリばっかりこいてないで、お前も彼女でも作れ」と冗談めかして笑い飛ばす社長。

 その瞬間、Mの顔が蒼白になるのをヤッさんは見逃さなかった。

「どうした?」

 Mは固まった。薄気味の悪さと共に。

「いや…、何でもない」そう口にするのが精一杯だった。

 帰宅後、Mは部屋を新聞紙で覆い隠した。壁も、天井も、窓も、鏡も、至る所に新聞紙を貼り巡らせ、自身の住処を覆い尽くした。得体の知れない視線から、自らの生活を守るかのように。そして誰にも知られず所持していたはずの、社長にマニアックと称されたアブノーマルなアダルトビデオの数々を封印し、ホームページを閉鎖した。それから文書作成ソフトを立ち上げたMは、そこへメッセージを発信する。

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