表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/62

【お前らのような人間の方こそが】

 オフィス。この会社では珍しく、仕事をしながら会話が弾む。

「Mっちゃん、ヤッさんちに行ったんですか?」

「ああ、誕生日祝い持って遊びに来たぜ。何で知ってんだ?」ヤッさんが答える。

「みんな知ってますよ。ホームページに書いてあったし」

「子供、Mに懐いた?」

「ああ、うちの子は誰にでも懐くからな」とヤッさん。

「あはは、物怖じしないのはヤッさんに似たな」

「ヤッさんち、ピアノとかギターとか置いてあるんだ?」次々と質問が飛ぶ。

「ああ、嫁が色々やっててな。楽器はあるぜ」それに答えていくヤッさん。

「ヤッさんもギターとか弾けるんですか?」

「いや、俺は弾けないよ」

「お子さん、将来は音楽家かな?」

「さあ、それは分からないが」

「ヤッさんの教育方針は?」

「教育方針?」

「そう、子供の教育方針とかあるんですか?」

「ないよ、そんなもん。何でも好きな事やらせて、まあ、親の責任としては自立してもらう事だな。何をやってもらっても構わないが、いつまでも甘えてもらってちゃ困る。どう考えても親の方が先に死ぬんだから、親なんかいなくても生きていけるように、しっかり育ってもらわないとな。後は、自由にすりゃいいと思ってる」

「放任主義ですか?」

「まあ、そんな感じかな」

「そんな事言って、娘さんの彼氏とかが挨拶に来たらヤッさん怖そうだよね」

「まあ、ろくでもない奴連れてきたらブチのめすけどな」そう言いながら左の掌を右の拳で叩いてみせるヤッさん。

「あはは、怖いよヤッさん」オフィス中に笑いが弾ける。


 夜の会議室。ただ一人、何か用紙を広げて熱心に読み耽っているMに、ヤッさんが声を掛ける。

「何を読んでるんだい?」

 Mがヤッさんに顔を向ける。

「ポスティングスタッフからの手紙だよ。旦那さんと一緒に楽しくやらせていただいています、ていうお礼の手紙」

「へぇ」どこか嬉し気なMの様子に、感嘆の声を漏らすヤッさん。「昨日はありがとうな。娘もMに遊んでもらえて喜んでたよ」

「いやこちらこそ楽しかったよ」

「最近どうだい?ストーキングの方は。まだ続いている感覚はあるのかい?」

「さあ、最近はよく分からないというか、あまり気にならなくなってきたよ」

「そうか、俺も最近は全く気にならないが、でも俺が直接狙われてるわけじゃないからな。お前が気にならないならそれが一番だ」

「気にならないだけでまだやられてるのかな。それとももう俺に興味をなくしてやめてくれたのかな」

「さあ、それは分からないが…、ひょっとしたら、会社の暗く閉鎖的な雰囲気がそう感じさせたのかも知れない、と思ってな」

「暗く閉鎖的な雰囲気?」

「そう、何だか暗くて不気味な会社だったじゃないか。入ってきた新人を誰も受け入れない、喧嘩ばかりでみんなの仲だって悪かったし、陰口も絶えなかった。そこら中で色んな悪口を耳にしたよ、毎日のようにな。誰も、誰にも心を開かないような、互いが互いに疑いを抱いてるような、陰気な雰囲気のする薄気味の悪い会社だったぜ。特にお前なんか針のムシロだった。こんな状況で、人に心を開けって方が無理ってもんだ。みんながみんなを疑いながら、そして誰一人信じちゃいない、そんな雰囲気が漂っていたからな。昔に比べて会社の雰囲気も明るくなってきたし、お前自身、明るくなってきたと思ってな」

「う~ん。そうなのかなぁ」

「気になるようならホームページ、一度やめてみたらどうだ?」

「やっぱり、ホームページが関係あるのかな」

「それは分からないが、ホームページがあるからみんなの目が気になるってのはあるんじゃないのか?」

 確かに。それはあるかも知れないとMは思った。Mはみんなに向けてホームページを発信してきた。自分の書き込みにみんなが何を思い、どう反応するのか、そんな事ばかりを考えながら日々更新してきた。みんなの解釈が気になった。みんなの様子を窺ってきた、みんなの変化を窺ってきた。みんなの自分を見る目やその態度、扱い、そんな事も気になった。それ故に、自意識過剰になっていたのは確かかも知れない。

「でもホームページがなければ俺は何もできる気がしないよ」とMが口にする。

「できるさ。むしろホームページに頼っている方が、何もできなくなるかも知れない」

 Mは否定も肯定もしなかった。

「お前も世界平和が訪れるなんて本気で考えてるワケじゃないだろ?」とヤッさんがMに訊ねる。

「うん、俺の生きている間にはね」

「生きている間には、か」

「そう、理屈から言えば、可能なんだ」

「でも理屈通りには生きられないのが人間なんじゃないのか?」

 確かに。Mはその言葉に納得を覚える。世界平和、それを実現する為には、理屈の提示ではなく、気が遠くなるような理論の実践が必要だった。あらゆる問題を解決する為、誰もが当事者意識、もしくはその問題に関心を持ち、考え、改めるべきところは改め、自ら改善していくよう導く事。あらゆる背景を想像し、理解を示し、理想へと向かう為、的確に判断を下し、決断を下し、実行に移すよう導く事。気付かせ、その気にさせて、自らその理想の未来へと向かうよう導く事。規模が小さければ可能な気がする。理屈で言えば可能なんだ。足りないものは実践のみ、つまりは経験と成長、その積み重ね、全人類の、それだけだ。しかし、世界中の人々を巻き込む為に、どれだけの労力が必要で、どんな手段が有効なのか、Mにもそこまでは分からなかった。

「誰もが想像する事。世界平和への道筋を、世界中の誰もが想像できるように導く事ができれば、世界平和は実現できると思う。もし、世界中の誰もが、世界平和を望むのであればの話だけど」

「ほう。どうやって?」

「……」Mは言葉に詰まる。

「世界平和、ね。俺みたいな人間がそんな言葉を耳にすると、奇麗事に聞こえてしまわなくもないんだが。でも、お前が口にすると、何だか、よく分からなくなる」

「そう?」

「俺には、世界平和なんてもんが本当に訪れるとはとても思えないし、想像なんて、全くできない。だから、試しているようで悪いんだが、世の中の原爆の問題について、お前がどう思っているのか、世の中で巻き起こる人間同士の殺し合いや、戦争なんてものについて、お前が何を思い、どう考えているのか、そんな事を知りたいというか、聞いてみたいと思うんだが、いいかな」真面目な表情でMの目を見やるヤッさん。

「ん?原爆や戦争についての俺の考えが知りたいって事?」

「まあ、そういう事だ」

「あはは。そんな真面目な話、した事ないけど」照れたような笑みを浮かべながら中空を見つめ、「う~ん。戦争と原爆かぁ…」と言いながら、考えを巡らせるM。

「原爆で死ぬのって、結局は国民というか、ほとんどが一般市民でしょ?」とMがヤッさんに質問を投げかける。

「まあ、原爆なんて二度ばかり、同じ国に投下された事があるだけだと俺は認識しているが、確かにそんな印象はあるな」とヤッさんが答える。

「それ、何か意味があるのかな、って思っちゃう」とM。

「どういう事だ?」

「もし俺がこの国のトップの人間だとして、この国をぶっ潰したいとか、この国から何かを奪いたい、なんて理由で、どこかの国がこの国に原爆をぶっ込んでくれたとするじゃん?」

「ああ」

「その時、この国のトップである俺が何を思うかといえば、いくら国民や一般市民を殺してみたところで、この国、潰れないよね。この国から、お前らが望んでるようなものは、何一つ奪えないよね、て思っちゃう。だって、俺、生きてるもん。どんだけ原爆や戦争で被害被ったところで、生き残った国民と、その国のトップである俺が生きている限り、そんなもん、いくらでも再生してやるよ、て思っちゃう」

「ほう」

「そりゃ途轍もない痛みとか、苦しみとか、そういうもんは伴うだろうけど、そんな事で潰れちゃう程、何もかも奪われてしまう程、国っつーか、人間てもんは、やわにはできてないと思う。この国を潰したいというのなら、この国から何かを奪いたいというのなら、まず潰すべきは、俺だよね、まず奪うべきは、この国のトップである、俺の命だよね、て思っちゃう。狙うなら司令塔、つまりは頭脳、常識だ。そんで奴らがこの国に原爆をぶっ込んだ事によって生み出されるものって何?ていうと、俺とか、この国の国民の怒りくらいなもんだよね。原爆をぶっ込んでくれた事に対する、痛み、悲しみ、そんなもん、遥かに凌駕するくらいの、怒りとか、憎悪とか、そんなもんだけだよね。で、その時、この国のトップの人間である俺が何を考えて、何を実行するかといえば、当たり前の事だけど、原爆をぶっ込んでくれた連中に対して、お前らがやってくれた事ってのは、一体どういう事なのか、それによってお前らのような連中にもたらされるものってのが何なのか、つー事を、骨の髄まで思い知らせてやる為に、そーゆー連中を、跡形もなく消し去り、木っ端微塵に殲滅する事だけを考えて、実行するよね」

「そーなのか?」

「そりゃそうだよ。なので、その国の、原爆投下を指示した人間、戦争を指揮してる連中を、三日で壊滅させて、殲滅する。こんな戦争、三日で、終わらせる。そう軍隊に告げて、実行するように命じるよね。一般市民を狙う事に、何の意味もない。上さえぶっ潰しちまえば、下にいる人間なんてどうにでもなる。どーせ誰も、戦争なんて望んじゃいないんだから。だから、トップを潰す。トップを潰して相手国を奪う。同じトップである俺の仕事がクソ増えちゃうのは困るけど、相手国の一般市民に対しては、手厚い策を施してやればいいだけの話だ。どこの国にだって優秀な人間はいるはずなんだから、そーゆー人間たちに統治を任せて、俺は官邸でふんぞり返っちゃうよね。トップの仕事なんて気楽なもんだぜ、つって、両国の復興と、今後やるべき仕事について、色々考えちゃうよね」

「ほう。世界平和どころか、思いっ切り戦争が勃発しているが、敵国の人民に対しても随分と優しい事考えてんだな」

「だからもし、俺がこの国のトップの人間、つまりこの国の最高権力者だとしたら、この国の平和を、外部から守る為にまず、何をするかっていうと、もちろん爆弾とかミサイルなんかが飛んできた時の為の迎撃システムの導入やら、そうならない為の策も講じるには講じるが、同時に、この国に攻撃を仕掛けてくる可能性のある全ての国のトップの人間の居場所や位置を、常に把握できる体制というか、システムというか、そういうものを構築するように、どこかの機関に命ずるよね」

「ほう。そんな事ができるのか?」

「できないって言われたら、できる人間連れて来て、て言う。見つかるまで探す。ほんで、できる人間が見つかったら、チェンジで、つってその人を昇格させる」

「なるほど、さすがは最高権力者だな」

「そんで軍隊には、いざ、戦争になった時、開始から三日以内に、相手国のトップをぶっ潰し、その国の上に立って戦争を指揮している連中を、片っ端から殲滅する事を目的とする作戦を日夜考え、あらゆるパターンの戦略を練り、日々、それを実行する為の訓練を繰り返すよう命じるよね。それが実行できるだけの体制、戦闘力を手にする為に、必要であるなら、国の予算なんて、いくらでもぶっ込んでやる」

「ほう。さすがは国の最高権力者、太っ腹だな」

「狙うのはトップ、戦争を指揮している連中のみだ。兵器を最小限に絞れる分、むしろ軍事費を抑える事ができるかも知れない。そんなもん、一番金をかけたくない部分でもあるからな」

「なるほどな」

「で、この国に戦争を仕掛けてこようなんて連中には、別に俺たちは戦争なんていうクソ行為、興味もなけりゃやりてぇとも思わねぇから、大人しく地道な国政を営んでいるだけの話であって、別に平和ボケしちゃっているわけじゃあねぇんだよ。もし、お前らがやるっつーなら、いつでもお前らを殲滅する為の準備、体制、心構えは、しっかりとできてんだよ。この国に対して、あんま舐め腐った真似かましてくれやがると、いつでも殲滅しちゃうよ?つって、まあ口にするかどうかは分からないけど、もし、俺がこの国のトップの人間だとしたら、常に心のどこかに持ってると思うよね、そーゆー気持ち」

「怖ぇよ。そんな国のトップ」

「なので、自分の国や世界の平和を維持する為に、なんつって、原爆を必要とする人間の理屈が、俺にはさっぱり分かりません。戦争が巻き起こるような世の中であったとしても、そんな物に意味のある使い道があるとはこれっぽっちも思えないからね。だって、いらねぇじゃん。そんなもん、牽制にすらなりゃしない。そんなもんでこの俺を脅しているつもりか?この国の国民を人質にでも取っているつもりなのか?やれるもんならやってみろ。お前らみたいな人間、こっちは三日で殲滅できる。そのボタン、押した瞬間、消え失せるのはお前らの方だ。俺だったらそう嘯いて、この世の中を抑止する。なので、そんな理屈は欺瞞以外の何物でもないと思う。もしくは、低能を極めた人間の戯言としか、俺には思えないね」

「ほほぅ、三日で殲滅ね。ホントにそんな事が可能であるなら、確かにお前の言う事にも頷けるが」

「世の中には、金がないという理由だけで、やりたい事も満足にできない人間がたくさんいる。まともな教育すら受けられず、この社会で生きていく為に最低限、身に付けておきたい知識、スキル、教養、何も身に付けられないまま生きていかざるを得ない人間もいる。今日喰う為の飯にすら、ありつけない人間もいる。金がないという理由だけで、この世の中の枠組みからはみ出して、弾かれて、除外されて、取り残されて、それを克服しようにも、自分たちの力だけじゃどうする事もできないような人間がたくさんいる。金だけが理由じゃないけど、他にも理由はあるけれど、とにかく、世の中には、そういう人間が腐るほど存在する。程度の差こそあれ、どこの国にだっているはずだ。そして恵まれた人間とそうでない人間の差は、時が経てば経つ程、乖離する。きっと、積む事のできる経験の差だと思う。経験は武器だ。積めば積むほど能力が上がる。選択肢も増える。可能性も広がる。知恵も増す。世界が広がる。経験こそ人類最大の武器になり得ると俺は睨んでいるが、それが積めない人間は、何の武器すら手にできない。戦い方すら学べない。人間、嫌でも歳を喰うんだぜ。そんな環境で何年も時を過ごしてみろよ。いつまでも子供のままってわけにはいかないし、無為に歳を重ねただけで、大人になれるってもんでもない。ジリ貧だ。生きてく術が見つからねぇ。できる事なんか何もねぇ。何の知恵すら浮かばねぇ。そんな状態の人間が、悪意にでも晒されたら一溜りもないよ。それこそ悲劇と、惨劇だ。もし、平和を語るっつーなら、まずそういう人間たちに目を向けるべきであって、それに兵器を結び付けるなんてのは、論外過ぎて話にならない」

「ほう」

「そういう人間たちには目もくれず、世の中の人間がテメェの利益とか権益ばかりを追いかけ続けるとどーゆー事になるか。テメェの保身の事ばかりを考えてやがるとどーゆー事になるか。考えるなら、そこだよね、と俺は思う」

「なるほど。何となくだが…、それは、分かる気がするぜ…。で、どういう事だ?」

「自分には、何一つ与えてくれようとはしない社会、何一つ武器を手にできず、戦う術すら分からないままそんな社会に放り込まれ、自分を蔑ろにする人間、虐げる人間、疎外する人間、弾き出そうとする人間、そして、それを見ても何もしようとはしない人間、どころか、そんな自分たちを見下げてくるような人間どもが作り出しているこの世の中、仕組み、つまり、苦しくて、どうしようもなくて、どうする事もできないまま、自身の尊厳を保つ事すら難しい状況にまで追い詰められている自分に対し、何かを施してくれるどころか、切り捨てようとしているとしか考えられないこの社会の中で、そんな立場に立たされた人間が、どういう感情を抱くのかなんてのは、想像に難くない。絶望のあまり、自ら命を絶つ人間もいるだろうし、敵意と憎悪を撒き散らし、ガンガン犯罪に走る人間もいるだろうし、集団となって、暴動を巻き起こす人間もいるだろうし、クーデターでも、テロでも、何でもやってのける人間が出てきたところで、何一つ不思議はない。誰からも何も与えられず、自力で手にする事も叶わない、尊厳すらも踏み躙られて、それでも生きていこうと思ったら、もう、奪うしかないもんね。喰いもんだろうが、金だろうが、幸福だろうが、命だろうが、奪う事以外、何もできないんだから」

「…確かに。そうかも知れないな」

「偉そうに我が物ヅラでのさばってやがる人間どものエゴと欲望、保身、それによって尊厳を踏み躙られる人間たちの屈辱、怒り、憎悪、絶望、世の中で人間が巻き起こす問題の根底にあるものなんて、大概そんなもんなんじゃないかと俺は思うけどね」

「なるほど…。色々と考えてやがるな、お前」

「平和の為に原爆が必要とかいう発想は一体どこから生まれたのやら。自分の国で生きている、そういう人間たちには目もくれず、何も与えず、何も施さず、その事によって将来奪われる事になるかも知れない、今平和に暮らしている国民たちの生活、命、今何とか保たてれているだけの国の秩序、治安、そういうものすら守ろうともせずに、人様の上で偉そうに幅を利かせていやがるだけの人間どもが、原爆を使って守りたいものって、一体何なんだろうね。ぜひ、答えてもらいたいよ。平和、なんて答えた瞬間、暴動が起きそうなもんだけど」

「確かに」

「原爆にいくら金突っ込んでやがんのかは知らないけどさ、自分の足元に、金がないという理由だけで、やりたい事も満足にできない人間がたくさんいる中で、まともな教育すら受けられず、この社会で生きていく為に最低限、身に付けておきたい知識、スキル、教養、何も身に付けられないまま生きていかざるを得ない人間がいる中で、今日喰う為の飯にすら、ありつけない人間がいる中で、金がないという理由だけで、この世の中の枠組みからはみ出して、弾かれて、除外されて、取り残されて、それを克服しようにも、自分たちの力だけじゃどうする事もできないような人間が、腐る程存在するこの世の中で、平和という謳い文句を盾に、人々を大量に虐殺し、あらゆるものを奪い去る事しかできない原爆なんて代物に、莫大な資金を費やしてやがる人間どもの目指す世界ってのは、一体どーゆーものなんだろうね、と思っちゃう」

「まあ、な。俺には…、さっぱり分からないが」

「反吐しか出ねぇの次元が違うよ。愚の骨頂、それしか言葉が浮かばねぇ。人間の愚かさも、ここまで極めりゃ大したもんだ。鼻で嗤っちゃうよ。下らねぇ。あんなもん、極めに極め抜いたエゴと欲望の産物であって、そこに愛情なんて気持ちは欠片もねぇ。その理屈に、誰かを思いやる気持ちなんぞ欠片もねぇ。あるのはテメェの利権、権益、保身のみ。原爆に、人間を滅ぼす力はあっても、人々に平和をもたらす力なんて、欠片もないよ。人類が滅びた先にこそ平和があるんです、つーなら、あながち間違ってるとも言い難いけどな」

「……。なるほど…、言えてやがるかもな」

「世の中の趨勢として、お偉い立場にある方々は、みんな口を揃えて、テロと戦うみたいな事を宣言してるけどさ、どう、テロと戦うつもりなんだろうね。この世の中から、テロリストというテロリストを、一人残らず殲滅しようなんて考えちゃってるわけじゃないだろうね。テロリストってのは、そんなお前らみたいな人間に対して、牙を剥いてるだけの人々なんじゃないかと、俺は思うけどね。お前らのような人間たちに、もうこれ以上、何も踏み躙られたくないから、敵意と憎悪を剝き出しにして、必死に抵抗を試みてるだけの話なんじゃないかと、俺は思うけどね。何も手にできず、与えられず、施されず、奪う事でしか何も対抗する手段がないから、自分にできる事の限りを尽くして、世の中に対して、必死に抵抗を繰り返しているだけのようにしか、俺には観えないけどね。それによって、全世界を敵に回す事になったとしても、世界中から憎まれる存在になったとしても、お前らのような人間たちに屈する事なく、全身全霊を尽くして存在していく事を選んだだけの人たちなんじゃないかと、俺は思うけどね。どーせ味方なんて、ハナからいやしないんだから。この世に生を受けて、その意味も、価値も、何一つ見出せず、お前らのような人間たちに、その全てを蹂躙されて、屈辱と苦しみを味わいながら、たとえ敵わなくても、勝てる見込みなんかなかったとしても、せめて一矢を報いたいと、それこそ命を懸けて、自分の命を捨ててでも、お前らに傷跡を残してやるんだと、その想いだけで戦っているようにしか、俺には観えないけどね。自分にとって、本当の敵は誰なのか、自分を苦しめているものの正体が、一体何なのか、そんな事すら、実は分かってないんじゃないのかな。生を受けてはみたものの、自分の生活、置かれている環境、立場、そこから生まれ来る感情、仕組み、何一つ、理解できず、何一つ、理解されないまま、世の中を憎み、それこそ手当たり次第、無差別に、片っ端から奪えるものを奪いつつ、でも、本当に自分が望んでいるものなんて、何一つ、手にする事もできないまま、お前らのような人間たちが、唯一与えてくれた絶望という名の暗闇の中で、ただただ殺伐とした感情を胸に、日々を過ごしているだけの話なんじゃないかと、俺には思えるけどね。そんな人間たちのトバッチリを喰らうのは、いつだって立場や力の弱い人間たちだ。もはや憎しみが憎しみを生み、憎悪が憎悪を育て上げ、報復が報復を呼ぶ負の連鎖の真っ只中。偉そうに人様の上にのさばる人間どもと、そいつらに阻まれて底辺にしか棲み家を見出せないような人間たちとが、血で血を洗う報復合戦。その間に挟まれて、善良な市民にできる事なんて何もねぇ。居もしねぇ神とやらに、祈るくらいが関の山だ。結局のところ、世の中の偉いとされる立場に置かれながら、権力という名の強大な武器を手にしながらも、テメェの利益とか、権益とか、保身とか、そんなものにしか興味を示さねぇ、自分の事にしか考えが回らねぇような、エゴと欲にまみれた人間どもが、生み出して、育て上げちまった人間こそが、テロリストと呼ばれるような人間たちなんじゃねぇのかと、俺は思っちまう。そしてそんな人間たちの存在を、武力を行使して、本気で跡形もなく殲滅しようなんて考えてるんだとしたら、お前らは正真正銘、神様気取りのキ×××だ、と言ってやりたい。自覚のねぇキ×××ほど厄介なもんは存在しねぇ。自分がどんだけ偉いと勘違いしてやがんだか知らねぇが、どこまで思い上がれば気が済むんだか知らねぇが、吐き気しか催さねぇよ。テメェで生んで、テメェで育てて、気に喰わねぇからテメェで殺す。世の中から虐待なんてもんがなくなるわけがねぇ。世の指導者どもが先陣切ってやってる事だ。世の中全体に影響が及ぶ。口で何を言ってやがるのかは知らねぇが、やってる事はそういう事だ。虐待どころの騒ぎじゃねぇ、正真正銘、虐殺行為じゃねぇか。影響なんてもんは知らず知らずの内に受けちまう。特に、経験が少なければ少ないほど、人は環境に左右される、影響される。世の中なんて、そういうもんだと思っちまう。それが当たり前だと思っちまう。ろくろく考えもせずにそういう世の中に染まっていくんだ。途中で疑問を抱いたところでどうにもならねぇ。そういう指導、そういう教育、そういう扱いを受けて育った人間は、そういう人間に育つんだよ。体に叩き込まれちまったもんは、嫌でも体が覚えちまう。勝手にな。もはや頭じゃどうにもならねぇ。いくら考えてみたところで思うようには生きられねぇ。体に染み込んじまったもんはなかなか抜けるもんじゃねぇからな。そんな事やりたくなんかなかったとしても、体が勝手にやっちまう。感情が動いちまう。もう理屈通りには動けねぇんだよ。思う通りには生きられねぇんだよ。そんなもんしか叩き込まれてこなかった人間は尚更だ。そうなっちまった人間にとって、理屈や道徳なんざ雑音でしかねぇ。唱えるだけ無駄だし、むしろ邪魔だ。自分じゃもう、どうする事もできない、そんな人間が、この世の中には腐るほど存在するんじゃねぇのかと思っちまう。そんな人間たちを、どう扱えばいいのか。考えられる事なんて、一つしかねぇ。もっぺん、体に叩き込んでやるしかねぇんだよ。教えてやるしかねぇんだよ、体にな。分からねぇっつうなら、分かるまで、何度でも、繰り返し、骨の髄まで、意識なんかしなくたってちゃんと動けるようになるまで、それが自分の当たり前になるまで、思う通りに動けるようになるまで、生きられるようになるまで、徹底的に叩き込んでやるしかねぇんだよ。今はない、何かをな。もちろん、善良な何かを、だ。優しさ、親切、温もり、喜び、理解、愛情。地獄が観たけりゃ、観せてやる事だってできる。地獄を観てきた人間は、どうすりゃ地獄が観えるのか、体が知ってるんだからな。全部、体が覚えてるはずだ。そいつを叩き込んでやりゃあいい。体に教えてやりゃあいい。具体的な方法が知りたけりゃ指導してやる。そいつをクソのように扱ってやりゃあいいだけの話だ。まるで神様にでもなったような偉そうな気分で、そいつの権利を侵害した挙句、相手の気持ちなんぞ一切考えずに、思い上がった我が物ヅラをぶら下げて、人格もろとも踏み躙ってやりゃあいい。泣こうが喚こうが関係ねぇ。全ての希望を奪い去り、絶望のどん底まで突き落としてやりゃあいい。つまり、人間として扱わなけりゃいいってだけの話だ。その人間を、誰も助けなけりゃいい。救わなけりゃいい。他人の心なんざ観る必要はねぇ。そんなもん、無視するに限る。無関心こそ最大の防御だ。テメェの事だけ考えろ。他の事なんざ考えるだけ無駄だ。テメェが生きる為なら、他の何を犠牲にしたって構わない。元々そういう世の中だ。お前だけが観る必要はない。心なんぞ捨てちまえ。自分の満足の為に、生贄を作れ。踏み躙れ。そんな人間、ザラにいる。テメェは安全だと思ってのうのうとのさばってやがる平和ボケした人間どもに、片っ端からそいつを叩き込んでやりゃあいい。既にやってる人間もいるようだが、相手が違う。敵はそいつじゃない。見極めろ。敵は人様の上にいる。目を観りゃ分かる。お前を見る、その目だ。人を見下す傲り腐った目ん玉と、人を蔑むその、態度だ。我が物ヅラ、そいつを基準に判断しろ。何を言ってるかじゃねぇ、何をやってるかだ。言葉なんぞ一切聞くな。行動、態度、目付き、それだけで見極めろ。相手は何様気取りのクソ野郎だ。そいつを狙え。そしてお前が上を目指せ。何も考えずに、他人の事など蹴落としながら、どこまでも上り詰めて、人様を支配すりゃあいい、人様の上に君臨すりゃあいい。大丈夫。心配はいらない。お前ならできる。もう既に、体が知ってるんだからな。お前がやられてきた事だ。やられた事はやり返せ。屈辱、羞恥、辛苦、絶望。そいつを片っ端から叩き込んでやりゃあいいだけの話だ。何も考えるな、何も観るな、何も感じるな、何も気にするな。それさえできりゃ、お前が勝利者だ。自信を持て。心なんぞ捨てろ。お前の可能性は無限大だ。どこまでも上り詰めろ。そうやってトップに君臨できれば、犯罪すらも正当化できる。人を利用しろ、逆らう奴は潰せ。都合が悪けりゃ消せ。殺人だろうが何だろうが、もはやお前のやりたい放題だ。そいつを誇れ、ここが勘違いのしどころだ。最大の見せ場だ。自分は特別な存在であり、周りの人間どもとは違うのだと、他の誰よりも偉いのだと、人として優れている自分には、誰も逆らうべきではないのだと、最大の勘違いをかましながら、思う存分のさばった挙句、世の中なんざ地獄のどん底まで叩き落としてやりゃあいい。この世を地獄に変えてやれ、突き落とせ。上にのさばる人間どもがクソであればクソである程、世の中なんざクソに変わる。国も、社会も、組織も、家族も。全員地獄の当事者にしちまえばいい。上から叩き込んでやればいい。暴動も、殺人も、犯罪も、暴力も、当たり前の世の中だ。当然だ。クソが指導する世の中だ。全体的にクソに変わる。お前ならできる。蛇の道は蛇、経験は武器だ。そいつを活かせ。その全てを駆使して這い上がれ。お前がトップに君臨できれば、そんな社会もすぐに訪れる。全員地獄の当事者だ。そうすりゃ嫌でも考える。平和ってもんがどういうものなのか。どうすりゃ幸福ってもんが訪れるのか。誰もが必死に考える。この世の中の全員がだ。誰も、他人事だなんて言っちゃいられねぇからな」

 ヤッさんはMの言葉の真意を探る。Mの狂気が増幅していく。膨張していく。その度合いが、理解の範疇を超えていく。これがMなのか?人は、その気になれば悪魔にだってなれる。なぜかそんな間抜けな事を考えた。Mは続ける。

「まあ、お前らが神だって事は、認めてやるがな」

「そうなのか?」ワケが分からず、ヤッさんは訊ねる。

「もちろんさ。その存在は、まさしく神、そのものだ。人々に試練という名の苦しみを与え、何もやらねぇ何もできねぇ何も施さねぇ、そのくせ偉そうに人様の上にのさばりやがる。テメェは安全な場所から、正義の為だか平和の為だか愛の為だか知らねぇが、聞こえのいい言葉ばかりを並べたて、与えるものは苦痛のみ、テメェの立場に酔いしれて、やってる事は犯罪だ。逆らえば潰す。場合によっては消す。力ずくだ。相手がテロリストであれば虐殺も辞さない。テロリストだって人間だ。行為はテロと何も変わらない。殺人すらも正当化、戦争だって正当化だ。人の頂点がそいつらだっつーなら、神様なんてどこにいる。何が神様はいつも見守ってくれている、だ。やってる事はただの見殺し、最低最悪の傍観者じゃねぇか。偉そうに、高みの見物かましてくれてやがんじゃねぇ。神が人に試練を与えるなんて話はよく聞くが、人を助けたなんて話、聞いた事があるかよ。何が試練だクソ野郎。お前の与えるその苦しみで、何人の人間が死を選び、地獄を観てきたと思ってやがる。加減も知らねぇキ×××が。殺すぞ、クソが、以外にセリフがねぇ。信じる者は救われる?誰一人救った事もねぇ存在を、誰が信じられる。それでも、何かに縋りたくて、自分じゃどうする事もできなくて、頼れる存在が他になくて、祈るような気持ちでお前らみたいな存在に何かを託したり、願いを込めてお前らみたいな存在を崇めようとする人間たちを、簡単に裏切って突き落とす。そんな人々の祈りとか、願いとか、想いなんかに興味はねぇ。聞く耳なんかハナからねぇ。平気でバッサリ切り捨てて、テメェの立場に酔い痴れる。お前らも神も一緒だ。何一つ違いはねぇ。屁の役にも立ってねぇんだよ。むしろマイナス。そんなもんに何かを期待してみたところで、バカをみるのがオチってもんだ。そんな存在が、人様の上にのさばっていいわけがねぇんだよ。虫唾が走るの次元が違うよ。どいつもこいつも、片っ端から引き摺り下ろして、踏み潰して、粉々にした挙句、木っ端微塵に粉砕して、跡形もなく殲滅してやりてぇと思うのは俺だけか」

「むぅ…。なるほど。お前…、それ…、完全にテロリスト側の立場に立った人間の考え方だな。…というよりもむしろ、テロリストの感情をも超越してんじゃねぇかと思えるくらい、凄まじいお前の怒りを感じるが、お前は一体…、どんだけ追い込まれて人生を生きてきたんだ…。思考が、ぶっ飛んでやがる。だが…、あながち間違ってるとも思えねぇ…」

「その存在が、自分にとって都合が悪いとか、そいつが存在する限り、自分は何も変われねぇとか、その存在が心の底から気に喰わねぇとか、自分の苦しみの原因はこいつなんじゃねぇかとか、そう判断したら、潰しにかかるのが人間だ。自分にとって、都合が悪ければ悪い程、邪魔であれば邪魔である程、気に喰わなければ気に喰わない程、憎ければ憎い程、その想いが、強ければ強い程、手段すら選ばなくなってくる。相手の立場なんか関係ねぇ、気持ちも一切考えねぇ。目的は相手を潰す事、傷つける事、苦痛を与える事、奪う事、踏み躙る事、この世の中から、消し去る事だ。互いが互いをそう思い始めるところから争いなんてもんは生まれるし、どちらかが仕掛ければ当然のようにやり返す。その力を持たない人間は潰されて終わるだけ。怒りや憎しみなんてものはガンガン増幅していくし、互いが互いをそう思っている間は負の連鎖は止まらねぇ。本当にどちらかが消え失せるか、一人残らず殲滅されるまで、テロだの紛争だのは、永遠に続く。一時的に収まったように見えたとしても、その火種はいつまでも燻り続ける。そしてやがて再燃する。相手を傷付け、潰して喜ぶなんざイジメと何も変わらねぇ。自分より立場や力の弱い人間を守ろうなんて気は更々ねぇ。相手が誰であろうと、どんなに立場の低い人間だろうと、弱い立場の人間だろうと、気に喰わなけりゃ潰すのみ。世の指導者どもが、率先してやってる事だ。イジメが世に溢れかえるなんてのは必然。差別もまた然り。口で何を言ってやがんのかは知らねぇが、中身はそういう指導でしかねぇ。そしてそれを自ら実践してやがるんだから、世の中が良くなるなんて事はあり得ねぇんだよ。世の中なんざ、自分を映し出す鏡みたいなもんだ。人間、自分の中に在るものはよく観える。弱さ、汚さ、醜さ、卑屈さ、それが偏見だっつー事にすら気付きもせずに、どいつもこいつも言いたい放題だ。ないものなんて、一切観る事はない。ここに、俺の偏見が存分に含まれている事は重々承知しているが、俺からすればこんな世の中、腐り切ってるようにしか観えねぇよ。テロのない世界なんてのは、結局のところ、お前らのような人間たちの方こそが、根こそぎ居なくなった後にしか、訪れる事のない世界なんじゃないのかと、俺は思ってしまう。イジメも、自殺も、虐待も、犯罪も、撲滅したけりゃテメェが消えろ。そんな人間どもが、人様の上の立場から、何をほざこうが、何を語ろうが、どんなに立派な演説をぶとうが、その言葉の中に、真実があるとは到底思えない。奴らの語る理想、世の中、望み、その全てが、奇麗事でしかねぇ。エゴでしかねぇ。欲望でしかねぇ。お前らのような人間の方こそが、この人間社会から消え失せるか、何かを改めない限り、こんな世の中、何も変わらないんじゃないかと、俺は思う。あんたらの仕事って、一体何なんだろうね。あんたらの職務って、一体どういうものなんだろうね。あんたらの任務って、あんたらの役割って、使命って、その地位、その立場において、本来やらなければならない事ってのは、一体どういう事なんだろうね、て俺は、あらゆる立場に置かれている全ての人々に問いたいよ。その辺の事を、もう一度、シッカリと、誰にどう言われたからではなく、誰にどう思われるかでもなく、自分の頭を使ってちゃんと考えて、自身の脳ミソでシッカリと判断した挙句、自分の責任でもってキッチリと決断を下し、それをガンガン実践した上で、金でも地位でも権力でも手に入れやがれ、と俺は言いたい」

 そこまで話すと、黙り込み、沈黙を貫くM。Mの言葉を吟味しながら、言葉を探しているヤッさん。

「まあ…、色々と…、ぶっ飛んじゃってる気もするし、お前の言う事が全て正しいかどうかは置いといて…、でも、俺にも何か…、観えてきた気がするな」

「ホント?」

「つまりお前のやりたい事ってのは…、その辺の問題を、全世界の人々に意識させ、想像させることによって、危機意識やら当事者意識を芽生えさせ、考えさせて、自らの意志で解決に向かうよう、仕向けるという事か?」

「まあ…、やるのは社長だけどね」

「お前がやれよ!社長にやらせてんじゃねぇ」すかさずツッコミを入れるヤッさん。

「あひゃひゃ」笑い声を上げるM。「俺に、何ができるかな」

「それは、分からねぇが。何しろ、お前のやろうとしている事は、難し過ぎる。俺にも、できる事があるなら手伝いてぇとは思うが」ヤッさんが真剣に頭を悩ませる。

「ヤッさんは、そのままでいいと思うよ」

「あ?どういう事だ?」Mに顔を向けるヤッさん。

「ヤッさんはもう、できてるよ。俺がやって欲しい事、もう、全部やってるよ」

「ん?どういう事だよ」怪訝な表情を浮かべながら、ヤッさんが同じ質問を繰り返す。

「ヤッさんは、俺のような人間の言葉も、ちゃんと聞いてくれる。俺のような人間に対しても、ちゃんと接してくれる。ちゃんと耳を傾けて、分かろうとしてくれる。何かを、してくれようとしてくれる。本当に有難いよね、そういう人の存在」

「そうか?まあ…、お互い様のような気もしなくもないが」

「ホントに、有難いよ」しみじみとした口調でそう話すM。「聞いてくれて嬉しかった。ヤッさんに話してみて、本当に良かったと、今、そう思ってる」

「フッ。しかしまあ、お前の話を聞いてると、お前のような人間の事をバカだと思って舐め腐ってるような人間どもが、ホントにバカに思えてくるぜ」そう言いながら笑みをもらすヤッさん。「まあ、お前の人生だ。お前の好きなようにやってみたらいいと思うぜ。俺にできる事があるなら言ってくれ。何かしら、手、貸すからよ」

「ありがとう、ヤッさん。心強いの次元が違うよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ