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【足りないところだらけ】

 何が言いたいワケ?

 あいつの人生、何があった?

 自分を理解し、受け止めてくれる相手って、誰もお前なんか理解できねぇよ。

 病んでるのはお前だろ。勝手にぶっ潰れろよ。

 もう壊れてるしな。


 社長の言葉に、オフィス全体がざわついていた。

「もう決めた事だ。決定事項だから」毅然とした態度でそう言い放つ社長。

 社員全員が会議室に集められている。

「絶対無理だ」

「無茶だよ、この人数で」

 反論しながらも、どこか諦めのムードが漂っている社員たち。

「そこを何とかしないとさ、やるしかないんだよ。文句言っても何も始まらない」

 今まで隔月で発行していたタウン誌を、月刊誌にする、というのが社長の主張、いや、決定事項だ。社長の目には頑固さが漲っている。溜息が会議室全体を包む。

「じゃ、俺は出かけるぞ。部長、後は頼む」そう言って振り返りもせずに会議室を出ていく社長。取り残された社員たちの目が、俯いて座っている部長に向けられる。それに気付き、恐る恐る、といった感じで顔を上げる部長。次々に口を開く社員たち。

「どうするんですか?部長」

「日程的にも無理があるし、今の状態では体力的にも絶対無理です」

「ページも埋まらないよ?絶対」

 申し訳なさそうに部長が口を開く。

「すまん。止められなかった」

 止められなかったって、止める気あったのかよ。いつも言いなりじゃねぇかよ。そんな視線が部長を捉える。

「取り敢えずやってみるしかないな。営業も募集かけてるし、明日一人入る事になってる」と部長。

「営業経験あるんですか?そいつ」

「さあ、社長が面接したから」

 絶対使えねぇよ。社長に面接させるなよ。ぶつくさと文句が溢れ出る社員たち。取り敢えずやってみるってどういう事だよ。一度月刊誌にしたらもう戻せねぇっつーの。絶対廃刊になるよ。

 タウン誌に関わりのない社員たちは、自分には関係がないと思っているのか、口をつぐんでいる。それでも呆れ顔が見て取れる。その誰もがこの成り行きにうんざりしている。


 日曜日、Mはオフィスにいた。お客さんが確認したいという原稿をファックスで送る為だ。Mの担当するタウン誌は、主に不動産の広告を扱っている為、客と休みが合わない。客はこちらが休日でも容赦なく、自分らの要求を述べてくる。そのタウン誌が月刊誌となった為か、制作部屋からも声が聞こえる。休みもなく仕事をしているのだ。また言い争っているようにMには聞こえた。

 と、制作部屋から飛び出してきたのは、Mと同期の企画課の社員だ。Mに気付き、

「何だ、Mッチーも今日仕事かよ」と声を掛ける。

「お疲れ様です」と返すMの隣の机のパソコンを、立ったままで操作する同期社員。

「Mッチー、この会社で味方、誰?この会社に味方、いるか?」と訊ねる。

「味方ですか?」と聞き返し、しばし思いを巡らせるM。

「俺も孤独だよ」と、答えを待たずにそう口にする同期社員。

「でもいいよな、Mッチーは、仲間が入ってきて」

「仲間…ですか?」

「この間入ってきたじゃん。仲間」

「ああ、新人の事ですか?」

「そう。あいつ、いつも手、震えてんじゃん。絶対病んでるよ。何であんな奴採用するんだよ。絶対採用しちゃダメだって。絶対使い物にならねぇよ。だって、手、震えてんだもん。営業なんか絶対無理だよ」そう言いながら自分の手を震わせる同期社員。

「うちは教育通信社ですからね。誰でも面倒見ちゃうんですよ」呑気な口調でそう答えるM。

「意味が分からねぇよ。ただでさえみんな忙しいのによぉ、月刊誌なんか無理に決まってんじゃねぇかよ。このままじゃ休日出勤も徹夜も当たり前になっちゃうよ。そのくせ帰る奴は人に仕事投げてとっとと帰っちまうし、不公平だよ。俺の企画なんか誰もやってる暇ないっつって、頼んでも誰も引き受けてくれないし。ふざけやがって」段々気持ちが昂ぶってきた様子の同期の口調に、ただ黙って耳を傾けるM。

「何も分かってねぇ社長!役に立たねぇ無能な上司!」そう言って部長の机を指さす同期。ドン!ドン!と足を踏み鳴らし、顔が高揚し始める。

「クソみたいな環境にクソみたいな社員!使えねぇ同僚に使えねぇ同期!非協力な奴ら!無責任な奴ら!」ドン!ドン!ドン!ドン!「ふざけやがって仕事にならねぇ!舐めやがって何もできねぇ!」ラップ口調で叫んでいる。少し驚きながらも、何だか少し楽しくなってきたM。

「ぶっ飛ばす!ぶっ殺す!ぶっ潰す!ふざけやがって!舐めやがって!コケにしやがって!仕事を何だと思ってやがんだ!会社を何だと思ってやがんだ!社会を何だと思ってやがんだ!」ドン!と最後に大きく足を踏み鳴らし、興奮冷めやらぬ様子で息を切らしている同期社員が辺りを睥睨し、Mと目が合う。

「ラップ、うまいすね。即興ですか?」間の抜けた質問をするM。

「は?」

「才能あるんじゃないすか?」と褒めてみる。溜息をついて椅子に座る同期。

「いいよな、Mッチーは呑気で。スーツで腕まくりなんかしやがって、何も考えてねぇだろ」

「考えてますよ、色々と」

「ホントかよ。何考えてんだよ」

「この会社は仕事量の割に、圧倒的に人が足りないと思います」

「誰でも知ってるし、人数だけじゃないよ。ダメだよこの会社。上が無責任過ぎる。チームワークがなさ過ぎる。会社として足りないところだらけだよ。体制もなっちゃないし」

「まあ、ベンチャー企業ですからね。これからだと思いますけど」

「それ以前の問題だね。大体この会社の社員で、本当にこの会社を大きくしたいと思ってる奴が何人いると思うよ」

「何人いるんですか?」

「ほぼいないよ。みんなこの会社でキャリア積んで、もっといい会社に転職しようと思ってる奴ばっかだよ。この会社を踏み台にする事しか考えてない。この会社がどうなろうが知ったこっちゃない奴ばかりだ。だから無責任なんだよみんな。自分の事しか考えない。社長は事業を拡大して会社デカくする事しか考えてねぇし。俺のやりたい事なんか何もできねぇよ、この会社じゃ」

「この会社でやりたい事があるんすか?」

「あるよ!バカにしてんのか?つーかMッチーはねぇのかよ、夢とか、やりたい事とか」

「ありますよ」

「嘘つけ」Mに顔すら向けず、そう言い放つ同期。楽し気な表情を浮かべながらそれを聞き流すM。


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